科学と人間「AI(人工知能)の現状と展望」                 KDDI総合研究所  小林 雅一

180413②「自動運転の現状と課題」

「現状」

AIとして今注目を浴びているのは、自動運転車である。世界中で開発に鎬を削っている。これは単に利用者の利便を図るというだけではなく、今までの自動車産業と同じように産業の裾野が広く、関わる産業人口が多い事から重要視されている。いわば国の基幹産業なのである。

「自動運転のレベル」

自動運転は、搭載される技術によって05までのレベルに分けられており現在国内では「レベル2」までが市販車に採用され、実用化が進んでいる。「レベル2」までは、主に運転をサポートする技術であり、万一事故を起こした際の責任はドライバー側にある。一方「レベル3」以上は基本的にドライバーが操作を行う必要がないため、事故の責任はシステム(クルマ)側になると言われていわれる。その為「レベル3」以降の実用化は、政府を中心に法整備(事故時の責任など)やインフラの整備が

必要である。

・レベル

  ドライバ-が全ての操作を行う

・レベル1

  ステアリング操作か加速度のいずれかをサポ-トする。多くの新型車に採用されている、

  運転支援システム。

・レベル

  ステアリング操作と加減速の両方が連携して運転をサポートする。 

・レベル3  自動運転のレベル

  特定の場所ですべての操作が自動化、緊急時はドライバーが操作。高速道路など特定の場所に

  おいてクルマが交通状況を認知、運転に関わる全ての操作を行う。ドライバーは運転から解放

  されるが、緊急時や自動運転システムが作動困難になった場合、ドライバーがクルマに代わって

  対応を求められるので、必ず運転席に着座している必要がある。

・レベル

  特定の場所ですべての操作が完全に自動化される。レベル3同様、特定の場所に限りクルマが

  交通状況を認知して、運転に関わる全ての操作を行う。緊急時の対応も自動運転システムに操作

  を委ねる。自動運転システムを利用している限り、ドライバーの運転操作はもはや必要ない。

・レベル5

あらゆる状況においても操作が自動化。ハンドルもアクセルも不要。人は乗客となる。

「自動運転車開発製造の主役」

自動車業界とIT業界(Information Technology)との間で主導権争いが起きている。自動車業界は

これまでの技術の高度化として捉え、IT業界は全く新しい商品として考えている。

「自動運転の仕組み」 

ハ-ドウェアとソフトウエアとに分けられる。

(ハ-ドウェア)

色々なセンサ-が必要になる。ミリ波レ-ザ-・レ-ザ-レンジファインダ-・超音波センサ-

センサ-というのは、色々な電磁波を発信して、その反射で外界の物体の存在を確認する。電磁波の種類によって、認識する物体の種類が異なる。反射してきた信号をAIで処理することで自動運転が実現される。

(自動運転に採用されるAI)

現在スマホなどで使われているAIは、クラウド型。スマホにはAI本体は入っていない。別の場所に

ある高機能コンピュ-タ-(クラウド)のバックアップで機能している。しかしこれは自動運転には利用できない。瞬時の情報の切断、停滞も許されないからである。この為AIは自動車本体に搭載されねばならない。

(搭載されるAIの仕事)

・自分(自動運転車)の行動計画を立てる

 ユーザ-が目的地を指示すると、現在地から目的地までの走行コ-スをプラン。この場合、現在

 使われているGPSは使えない。信頼性に欠けるからである。

・外界の情報の入手・確認 

 歩行者・他の車(他の移動体の確認)

「他の移動体の確認の方法」

前回話したように、情報を確率的推論に基づく「統計的確率的AI」をもって把握する。基本になるのはベイズ理論という。

(統計的確率推論)  現在自動運転に応用されている原理

18世紀英国の牧師で趣味が数学のベイズによって示された条件付き確率に関する理論。未観測

要素の推定に用いられる。この理論が自動運転の際の、外界の移動体の予測に使われている。

従来の確率は客観的確率と言う。ベイズは実用的な確率を考えた。主観的確率である。普通の人は現実的に行動している。例えばスポ-ツをやるとか将棋を指すとかの時色々なことを考える。初対面の人とやる時にはこの手の成功の確率は60%位かなとか。しかしその根拠はない。何となく相手の情況を考え主観に基づき判断している。

しかしこれで終わってはいけない。主観的確率から行動を開始するが、相手と対戦することで相手の力量が分かってくる。この経験を反映させることでより精度の高い確率に変えて行く。その手続きを定めたのが、ベイズの定理である。主観的なある意味いい加減な確率を経験によって精度の高い確率にレベルアップしていくのである。この考え方が自動運転にも使われている。実際には自動運転車に搭載されたセンサ-によって、外界の移動体(人、他の自動車・・・)の位置を刻々に測定していく。AIは最初のいい加減な主観確率を精度の高いDetaに改良していく。この作業を数万回/秒という高速で繰り返していくのである。これで外界の移動体の動きを判断する。これを「隠れマルコフモデル」という。

この事は過去の事は、水に流して一つ前の状態から現在を推定すればいいという考え方である。 

これをAIの話なのかと思う人がいるかもしれない。

(アポロ計画) 

レベルは違うがこれが実際に使われたのが月面着陸の「アポロ計画」であった。軌道計算に大いに応用された。当時はAIと呼ぶ人はいなかったが、その使い方を改良して自動運転に使われているのである。

「自動運転の問題点」

しかしこのやり方は人の命を預かる自動運転車としては原理的な課題を持っている。

(ファット・テ-ル)

ファット・テ-ルという経営分野で使われる概念がある。正規分布曲線の端の部分に着目した理論である。

平均より極端に離れた事象の発生する確率が、正規分布よりも高い現象。確率からいうと普通起きない事が起きること。

金融派生商品では正規分布によって経済現象は起きると予想し、設計されている。然し起きない筈の事が、実際に起きている。サブプライムロ-ンによるリ-マンショック・アジアの通貨危機・ロシアの経済崩壊。これ等は100万年に一回しか起きないと正規分布では判断されていたが、現実には起きてしまった。問題はこれと同じ理論が自動運転にも使われていることである。

・自動運転車から見た他の移動体の経路は確率推論で設定されているが、思いもかけない逆走には全く予測できない。テスラという自動車の電気自動車会社が自動運転の車を製作し走行試験中に

死亡事故を起こす。これは予想もしない道路の不備によるものであった。

・こうした問題を統計確率推論による自動運転車はまだ解決できていない。現実社会で起こる例外的現象への対応方法が確立されていないのである。

・次の問題、自動運転車はバタ-ン認識が苦手である。例えばフロントガラスに物が当たった時、

蠅なのか小石なのかの判別が出来ない。対応が全く違うのにである。

 

問題点の対応には、より高度な人間の脳に近いAIが必要とされるということで、今流行のディ-プ・ラーニングの研究が進められている。

 「コメント」

自動運転の原理の理論には手古摺る。統計学を少し勉強した積りであったが、正規分布しか

知らない。世の中は正規分布では動いていないのは良く理解できるが、AIにやらせる時の条件

付加は難しかろう。

当面レベル1にしか乗る気はしない。人が運転していて事故るのは仕方ないが、ロボット機械に

よって怪我をしたり死ぬのは御免だ。