科学と人間「AI(人工知能)の現状と展望」                 KDDI総合研究所  小林 雅一 

180427④「ディ-プラ-ニングの産業への応用」

「現状」

脳科学の研究の成果を本格的に導入した人工知能いわゆるディ-プラ-ニングを色々な産業分野に応用して行こうという状況にある。ニュ-ラルネットが特に得意とするのは機械学習という領域である。

●機械学習とは)

コンピュ-タ-による学習。人工知能の一分野であり、人間が持つ学習能力と同じくコンピュ-タ-

も経験から学習し、将来予測や意思決定を実現できるようにする技術や手法を指す。

AIP製品・モバイル端末 

大量なデ-タの中からある種の法則性とか規則性を抜き出す技術は身の周りにあるAI製品に、

又モバイル端末に向けて提供される色々なサ-ビスに使われている。

・スマ-トグリッド

スマ-トグリッドという広域に電力を効率的に最適配分する為にもニュ-ラルネットは使われている。

・生産現場の製品管理

生産現場で色々な製品が流れてきた時に、欠陥製品をバタ-ン化して認識しこれを排除する。このバタ-ン認識は人工知能が得意とする分野である。

・通信ネットワ-クの保守

通信ネットワ-クのトラフィック制御とか、ウィルスの侵入を検知する。

・交通制御・農業分野・安全保障関係  

この様に各分野で、応用範囲が急速に広がっている。

これと同時に、認識、精度、スピ-ド、性能の大幅な向上が求められている。

「ロボット」

色々な分野の中でもニュ-ラルネットに関心が高まっているのがロボットである。ニュ-ラルネットの導入でロボットの性能向上への期待がされている。以前のロボット、特に産業用ロボットというのは

単純作業にしか使われなかった。

スポット溶接とかの定型的作業である。今後はもっと人間に近い分野での利用。

()クリーニング店での洗濯物を畳む・家庭での洗濯物の整理・

人間に近い柔軟で器用な動きが必要とされてきている。まさにニュ-ラルネットが得意とする分野であり、ディ-プラ-ニングの導入が期待されている。

・ロボットコンテスト(DARPA 米国防総省の研究機関の主催)

 原発事故の事故現場を想定して、人間に代わって作業する。これには現実に福島事故の際、

 三台の米国製ロボットが使用されたが、全く機能しなかった事実から発想された。

 建屋のドアを開ける所からスタ-トをして、階段・梯子の通行、瓦礫処理等8種類の作業で競う。

 結果は日本勢の惨敗となったが、内容はまだ実用レベルではない事を示した。

 その理由の一つが、ロボットの外界認識能力の不正確さ。生物はまず外界を認識してから行動

 する。ロボットの行動能力は、かなりのレベルにありそれはホンダのアシモ君で分かる通りである。

 行動系・駆動系の技術は優秀であるが、講堂のはじめとなる外界認識能力に問題がある。この

 レベルでは人間が認識力を補助してやらねばならない。

「ディ-プラ-ニングを利用した外界認識能力」

此の外界認識能力の向上が次世代ロボット開発のKeyとなる。認識し行動し、更にはこの繰り返し。要するにロボットは認識系が劣っているので、人間のように行動出来ないのである。ディ-プラ-ニングでは人間が教えてやらなくとも、人間の認識のように、外界の特徴点を学習して認識することが

出来るようになって行くであろう。

「ロボットの改良」 ディ-プラ-ニングの搭載

例えばカリフォルニア大学バ-クレ-校では、ロボットにディ-プラ-ニングを搭載する実験が行われている。レゴを組み上げて玩具を作る・ボトルの蓋を開閉する・様々な靴磨き・様々なセ-タ-を

畳む・・・・これらが成功すれば、人間には簡単だけどロボットには難しいと言われてきたことを出来るようになる。

「ニューラルネットのハ-ドウェア化」 人間の脳に近付く

現在のニュ-ラルネットはソフトプログラムとして実施されている。これでは性能面での限界、動作のスピ-ドの遅さ、コスト高などの問題がある。現在世界的プロセッサ-メ-カ-(IBM・インテル・・・)等は、ハ-ドウェア化してこの問題点の解決の研究を進めている。それによってスピ-ドアップ・コストダウンが図れる。そして人工知能専用のチップの形になれば、将に人間の脳に近付くことになる。

家事代行・介護等が実現できるかもしれない。

「人間と会話するロボット」  この先の話題

将来の事になるが、人とコミニュケ-ションするロボット(ディ-ゴ)の開発がされている。MIT(マサチュ-セッツ工科大学)のメディア・ラボで。ここは学際的な研究が特徴で、日本人が所長、副所長の時期もあった。そしてデモ製品として商品化。しかしその実情は、人間との対話は全くの初歩段階で実現は将来の事である。まだ人間との自然な会話は期待できない。

今のAIの対話能力を調べる実験が行われた。

AIとの対話実験  トロント大学 DRジェフり-ヒントン  →実用レベルではない事を示した。

 AIに機械学習の機能を使って大量の英語の文献を読みこませた。シェ-クスピア、新聞記事、

 小説・・・・

 そしてDRと対話「人生とは何か」するとAIは滔々と答えたが、内容は聴衆の失笑を買った。文法は

 正しいしそれらしい言葉は続くが、全く意味不明。大量にに文献を読みこんだので、ある単語、

 フレ-ズの後に来る単語を確率的に並べただけであった。我々が良く言う「あの人の話は、言語

 明瞭意味不明」の典型となった。

・俳句を作る

 五七五なので、過去の俳句と単語、季語を読み込ませると俳句を作ることは十分できる。瞬く間に

 千や二千は。

 然しこれは全て過去からの引用であって作者の意図とは全く関係はない。しかしその中でましな句

 を選んで、作者が修正を加えればあるレベルのものは十分出来る。

・アメリカとメキシコの少女の会話

英語とスペイン語でやったが、実用レベル。これは少女達の話が単純でバタ-ン化されているから。

旅行者向けの携帯翻訳器が販売されているが、単純な道案内や質問だから全く外国語不案内の

人にはそれでも助けになるから。これとある意味同じ。

 

「まとめ」

・現在の人工知能は1950年代に生まれたものとは全く違い、人間の脳の仕組みを導入して、ある

程度学習能力を備えたニューラルネットが主流である。それによってロボットの外界認識能力が向上し、人間の補助をするいわゆるサ-ビスロボットというものが実現される時が来るであろう。職場に

おけるある種の単純作業はロボットに代替されるであろう。

・日本企業の対応は、基本技術の開発については遅れ気味。アメリカと中国がトップ。しかしこの分野はスタ-トしたばかりなので十分挽回可能である。日本が特に遅れている基礎研究はともかく要素

研究は出来上がっているのでこれを組み合わせて商品化することは十分出来る。アイディア勝負では負けない。

・但し人材育成には努めなければならない。特に脳科学。関連特許の出願数が減少傾向なのは大いに気になる。

「コメント」

実際の人間にも、ロボットの発展段階のような人がいることに気付いた。外界認識の弱い人・単純作業には向いているが、所謂ディ-プラ-ニングの出来ない人・言語明瞭で文法的には正しいが、言っていることが何だかわからない人・自己学習が出来ないでいつまでも同じところにいる、所謂蛸壺人間。私はどれにも当てはまるようで、その内ロボットに馬鹿にされる運命にあるのか。