科学と人間「AI(人工知能)の現状と展望」                 KDDI総合研究所  小林 雅一

1805018⑦「医療に応用されるAI(2)ディ-プラ-ニング」

ディ-プマインドという英国の人工知能会社がある。2016年に人工知能(AlphaGo)がプロ囲碁棋士を破ったことで有名になった。彼らは医療の分野にAIを活用しようとしている。

MRIとかCT SCANとかの断層写真の診断を、AIを使って自動化しようとした。

「医療分野、眼科の眼底写真による病気の判定」

(従来の診断法と問題点)

眼底には網膜があって目から入った光の信号をキャッチし、電気信号に変換して脳に送る機能を持っている。

目に病的な変化が起きると、網膜にその異常が反映される。変形したり、損傷したり。今までは、眼科医はその異常を経験・スキルで診断してきた。いわゆる暗黙知である。

→明確に言葉で判断することが困難な直感的・身体的・技能的な知識。例えば自動車運転の

 ようなもの。

このレベルでは二つの問題がある。

・言葉で説明できないので技能の継承が困難

・診断できる医者の数が制限される。(特に発展途上国などでは:顕著)

ここにAIを導入しようと動機がある。

(医療へのAIの導入の歴史)  エキスパ-トシステム(専門家システム)

人工知能研究から生まれたコンピュ-タシステム。専門家の意思決定能力をなぞるもの。1970年代に開発され、1980年代に商業化され、AIソフトとして最初に成功したもの。医療用には眼科診断に利用。診断に使う眼底写真の病変を言葉を使って明示する。しかし問題点がある。

  ・ベテランの医師は、経験から得た暗黙知に従って画像診断するので、それをルール化するのは

   言葉では困難。

この為、医療用としては、このシステムは普及しなかった。

 「現在開発中のAIによる医療診断)」 医療へのAIの本格利用の始まり  眼底網膜病変の解析

現在開発中のものは、大量の眼底の断層画像をAIに入力することによって、AI自体が画像を解析する。それによって各種の病気を示す視覚的特徴を識別して診断できるようになる。これがニュ-ラルネットによる機械学習で、今流行りのDeep Learning(深層学習)というやり方である。これには二つの方法があり教師有り学習・教師無し学習・・・・。

現状ではDeep Learningシステムの90%は教師有り学習である。つまり有能なベテラン医師が教師である。

・まず医師が眼底写真を診断し、病変があれば指摘する。いわゆるラベル付けである。

・識別された大量の(13万枚)の画像をニュ-ラルネット(AI)に入力する。これがDeep Learningする

 トレーニンググッズと呼ばれる。

・ニュ-ラルネット(AI)は、その大量のトレ-ニンググッズそれぞれの病変の特徴点を自ら学びとる

 のである。

・一旦出来上がった網膜画像診断システムに1万枚以上の画像を入力する。これはテスト・セットと

 いう。

これで解析能力を試すのである。この結果は90%以上の確率で、有能なベテラン眼科医と同等以上

の精度であった。

「今後の医療への応用」

より一般の診療に関わっていく。例えばMRICT Scanとかより一般的な画像の自動解析の臨床試験が始まっており、更にその先には健康診断のDeta(血液検査・血圧・・・)をもとに、AIが解析して将来の発病の危険を予測することをプラン。

「医療へのAIの利用の問題点」

・患者の個人情報の保護  

健康Detaには、個人情報が多く含まれる。Hiv感染・薬物中毒履歴・アルコ-ル中毒・

中絶履歴・・・・

AIのブラックボックス化

  ディ-プラ-ニングは素晴らしい性能を発揮するが、問題はそれを開発した技術者さえその内部

  のメカニズムが良く判らなくなるという問題がある。更にしばしば暴走する。この例として、2016年

  グーグルのAlphaGo(囲碁AI)が、韓国のプロ棋士李世(リチェドル)(九段)を4勝一敗。この一敗は李九段の

  奇手に対して考えられない悪手を連発して自滅。

  終了後の記者会見で、この様なAIの暴走があると、生命を預かる医療面では使えないのではとの

  不安が広がった。

 

AlphaGo製作のグ-グルは「医療用の場合は慎重に作るので、問題発生は無い」としたが、答えにはなっていない。

AIは、ディ-プラ-ニングでブラックボックス化されているので、暴走する原因が解明できないので

ある。

・何故ブラックボックス化するのか

AI(ニューラルネット)は、人間の脳の学習メカニズムを参考にしているからである。人間の脳は1千億本のニュ-ロン(神経細胞)が、シナップスと呼ばれる接合部で繋がりあった構造になっている。私達が読書をしたり、複雑な計算をしたり、経験を積んだりすると、それぞれの刺激に応じて、シナップスの結合強度(シナップス荷重)が変化する。これが学習というものである。であるから、AI(ニュ-ラルネット)も、人間の脳と同じ仕組みで学習する。AIに入力される大量のDeta(先ほどのトレ-ニングセット)、これをAI(ニュ-ラルネット)が処理する過程で、無数のシナッフス荷重に該当するものが、自動的に最適に調整されていく。これが機械学習(ディ-プラ-ニング)のプロセスである。

そしてシナップス荷重の数はパラメ-タ-と呼ばれる数値である。

ディ-プラ-ニングではこのパラメ-タ-の数が、余りにも多すぎ複雑になったので、開発した技術者でも情報伝達ルートを解明することが出来なくなった。これがブラックボックス化の主因である。

例を挙げると2015年に、マイクロソフトが作ったAIでは6千万個、中国が開発したAIでは3億個、2017年のグ-グルでは87億個。

AIが判断した理由が全く判らない。→医療診断では、医師が自分の診断の一環として、AIを利用することが必要。

 AIは、単に答えを出しているだけで、その理由は示さない。よって医療診断をAIに丸投げで良い

 のかという問題が発生する。患者の不安も増大する。これを前述のHuman in the Loopという。

つまり人間を診断の輪の中に入れておくという事が必要という事。AIがやっていることは、単なる

バタ-ン認識であって、多量の画像を見てある種のバタ-ンを認識して、病変を決定するだけで、

その理由は示せない。

「今後の医療診断」 

ここ当分は、AI診断を医師が判断し理由を説明しなければならない。ディ-プラ-ニングの精度向上で、正しい診断の確率は向上していく。

 

 「コメント」

医療診断はまずはバタ-ン認識から始まること、そしてその方法はディ-プマインドの手法である。具体的なやり方は医師も参加したHuman in the Loop(医師が参加する事)で実施されるべきである。

現状でも眼底写真の診断ではベテランの医師以上の診断が出来る。

人間の医師は依然として必要であり、AIを使いこなせる知識を持たねばならない。誤診は格段に

少なくなるであろうが、医師は更に勉強を必要とされるのだ。