190329⑬「おわりに-毒と薬と人類」

 

地球の歴史(46億年)に比べたら、人類のそれは700万年、更にはホモサピエンス(現生人類)に至っては、20万年前。人類が今まで生き残った理由の一つには間違いなく、知恵という恩恵がある。

これまでも、人類には結核・天然痘・ハンセン病・ペスト・チフス・梅毒、近年ではエイズやエボラ出血熱などで滅亡の危機があった。これからもいろいろな可能性がないとは言えない。しかし、人類は

これらの疾病に対して様々な対処法を見出してきた。

一つの方策として、現在薬や毒と称しているものを応用してきており、これまでその歴史を見てきた。

この講座の最後に、人類の薬と毒との関係を俯瞰しながら、今後人類がとるべき道を探っていく。

 

「四大矢毒文明」

民俗学研究者の石川元助が、世界の矢毒を次の四つに分類した文明論である。

〇トリカブト       東北アジア・シベリア・アラスカ

〇イボ-         東南アジア

   原料の植物として二種類。マチン或いはコミカといわれる有毒アルカロイド。

   もう一つは、ウハスという心臓毒を含む植物

〇ストロファントゥス  アフリカ

   有毒成分はGストロファンチン(ウアバイン)という化合物。強心配唐体であり、獣医学領域では

   使用されている。

〇クラ-レ        南アメリカ

   有毒成分はツボクラリンで、筋弛緩剤として使われた。

これに講師は次の、矢毒を入れて五大矢毒としたいとする。

〇ヤドクガエル 中南米原産

    有毒成分はプミリオキシンというアルカロイド。全生物中、最強の毒を持つといわれる。

これらの矢毒を用いて獲物をしとめた人は、食べても大丈夫であることを知っていた。その理由は

 ・毒が経口でも大丈夫。

 ・トリカブトの場合、刺さった周辺部は取り除く。

 ・動物体内での代謝により、毒性が減じる。

「園芸植物と薬用植物」

園芸植物にも、薬用植物と共通のものがある。しかし薬用植物というのは、身近に大量にあるものでなくてはならないと利用できない。雑草として扱っている中に、ドクダミ・オオバコ・ゲンノショウコが

ある。これは薬用植物であり、昔の医術によく使われる。漢方医がいう、「唐の国のそのまた先の

天竺の高いところに生えている松の木、これを飲ませれば治る」というのは、インチキである。

薬というのは、必要なものが必要な時に手に入らなければ使えない。薬というのは誤魔化し易いと

いう反面があるが故に、一定の知識と資格のある人、即ち薬剤師が扱うということが徹底されねば

ならない。

「発酵と腐敗の関係は毒と薬の関係に似ている」

この二つの言葉の違いであるが、発酵は役に立つように働いた場合、腐敗は特にタンパク質が細菌によって分解され、有毒な物質に変化すること。発酵と腐敗の関係は、例えば微生物でも発酵に

なったり腐敗になったりする。これは丁度、毒と薬の関係に似ている。結果的に薬に立つ時は薬、

困ったときには毒である。

「薬の生産」

現在、有機化学は進歩していて、ほとんど化学合成できる。かってビタミンB12という複雑な化合物を合成したグル-プがあった。しかしモルヒネは合成可能であるが、経済的理由からケシからの生成で生産されている。

また昆虫とか植物の働きも見ていく必要がある。昆虫のフェロモンを研究することによって、農薬を使わずに、害虫の大量発生防止が可能になる。例として、線虫防止にマリーゴ-ルドを対抗植物として利用する。この化合物は、アルファ-テルチェニ-ルという。

「日本で注意しなければならない毒草」 命に係わる有毒成分を持つ

・トリカブト 

・ドクウツギ

・ドクゼリ

・バイケイソウ

これらを「トドドバイ」と覚える。

「毒性の強い物質」

(微生物毒)

ボツリヌストキシン・破傷風トキシン・シガトテキシン・パリトキシンなどはとても強い毒を持つ。

植物が産する毒として強いものは、リシンといいトウゴマ(唐胡麻)の種に含まれる成分。→ひまし油。

しかしこれらは、ボツリヌス菌と比べたら、3オ-ダ-位違う毒性である。

トリカブトの毒はリシンの1万倍位、毒性は低い。ただトリカブトの毒の成分のアコニチンというのは

注意すべきである。

・ボツリヌス菌(ボツリヌストキシン)

土中に分布する桿菌。重篤な食中毒を起こし、致命率も高い。ソ-セ-ジを意味し、ソ-セ-ジや

ハムを食べた人に起きるので、この名がある。発色剤として添加される硝酸塩は、ボツリヌス菌の

繁殖を抑えるとされる。 

(人間の作り出した毒)

最も強いのがVXガス。サリンとかがある。しかし微生物毒に比べるとはるかに毒性は低い。青酸カリは、数値上の比較を見ると、トリカブト毒のアコニチンの100万倍位、毒性は低い。

 

毒性の比較は難しく、血管に入った場合・口から入った場合・皮膚から入った場合、それぞれに違う。

大まかなところでは、微生物毒が非常に強いとはいえる。人間の作り出したものより、天然のものが毒性は強い。

 

「今後の課題」

〇医療と薬業の分離が必要である。

 例としてリタリン事件を話したが、このようなことが起きてしまう。医薬分業が患者の利益になる。

〇薬学の方向

 化学物質は戦争と共に発達してきたが、その成果をうまく使えば我々の福音となる。いろいろな

 新薬が開発されているが、薬学は必ずしも新薬の開発に貢献しているとは言えない。薬学が今後

 注力しなければならないことの一つは、これまで使われてきた医薬品、これを十分に調べ尽くして、

 まだ発見されていない作用・効果を予測することによって医薬品の新しい応用法を探すことである。

 例えば植物界から豊富に見いだされてきた化合物について、よく見直す必要がある。

ケルセチン 植物界に広く存在するフラボノ-ル類。ポリフェノ-ルの一つとして抗酸化作用がある。

ベルゲリン

スルフォラファン ブロッコリ-に含まれる微量成分。解毒酵素、抗酸化酵素の生成を促進

〇微生物、特に放線菌が生産する抗生物質の可能性の追求

 これは、すぐに大量生産できる利点がある。

〇薬学専門家を大切にすること

 薬は日常生活でなくてはならないものである。

〇植物園の必要性

 薬としての応用法がまだ見つかっていない植物がある。それらを大切にすること、その存在を知ると

 いうのが必要である。一般の人々にそれを知って貰うためには、植物園が大切である。

「薬とは何か・毒とは何か」

 サリドマイドいう薬は、母体には効果的であったが、胎児には恐ろしい影響を与えた。

 当時、遺伝毒という概念はなかった。現在の医薬品も将来、どのような影響を及ぼすかわかって

 いないところも多い。これは、医薬品の宿命である。今後の人間の存続を決めるのは、薬と核で

 あると思う。

 寺田寅彦の言葉

 「ものを恐がらなさすぎたり、恐がりすぎたりと言うのは易しいが、正当に怖がることは難しい」

 

「コメント」

このカルチャ-の講義は、記録し始めて24回目。一番骨が折れた。言葉がわからないしまた講師の論理ももう一つ。また思いはわかるが、はっきり言わないのでどこか曖昧、意味不明。

でも、知らない世界の面白さは感じた。今いくつかの薬を医師の言うままに飲んでいるが、それが効いているのかいないのか。ボランティアでお世話している難病の人は、病気の進行に合わせて

薬をトライアンドエラ-。快方に向かうのを祈るのみ。頑張れ患者・医師・薬学。