科学と人間「日本列島の成り立ち」  講師 山崎晴男  首都大学東京都市環境学部教授

150220(農耕の始まりと気候変化)

(地球温暖化)

化石燃料の大量消費により大気中の二酸化炭素の濃度が急速に増加し、その結果として引き起こされる地球温暖化が世界的問題になっている。最近、雨の降り方が熱帯的になり集中豪雨が洪水被害を引き起こしている。このような異常気象はCO2の増加による地球規模の地球温暖化のせいではないかと考える人が増えている。CO2CH4(メタン)と並んで温室効果ガスと呼ばれ熱を大気の中に

閉じ込めてしまう効果があるので、地球に入ってきた太陽からの熱が再び地球から出ていくのを妨げ温暖化を引き起こす。

その結果、南極やグリ-ンランドの氷床が溶け出して、その水が海水に加わって海水準上昇となる.或いは余り氷が解けなくとも気温上昇で海水温が上がり海水の体積が膨張して、これ又海水準上昇をもたらす。その結果沿岸地域が水没したり海岸の浸食が加速されて、沿岸の住民が移住を余儀なくされるというシナリオが想定される。CO2が増加して大変だと言っても自分にとってどう大変かということが分からない人も多い。重要な事は次。

(温暖化→寒冷化を促進する)  ドリアス   オ-ルドドリアス  

 CO2が抑制されないまま放出され続け、その結果地球温暖化が進むと、逆に地球寒冷化が起きてしまうかもしれない。寒冷化は

  植物の生育を妨げるのでその影響は食糧生産に直結する。どうしてそうなるのか。

  北欧は氷期には厚さ2~3kmのスカンジナビア大陸氷床(氷河)に覆われていた。2万年前(氷期)、地球の気候は段々暖かくなり、

  氷は溶けて大陸氷床はどんどん後退していく。氷の引いた後にはツンドラが拡がる。ここに最初に現れた花が咲く植物がドリアスで      ある。

     ドリアスの和名は「チョウノスケソウ」。高山植物で、日本では北アルプスでの3000mの山々で見られる。北欧では氷が溶け

     はじめるとその後のツンドラにまずドリアスが咲く、この時期を「オ-ルドドリアス」という。そしてツンドラは森林に変わっていく。

 ・人間の食料となる植物や動物は気候の温暖化に伴って生育範囲を広げ人間もそれを追って辺境地帯に進出する。辺境地帯と言う

  のは高緯度地方だけではなく、砂漠だった内陸地方も含む。この時期の全地球の人口は数百万人程度と見積もられている。この

  時期の食料は十分でまさに、「エデンの園」状態。しかしその後楽園の崩壊が急速に起きる。これは寒冷化が引き起こした。

  栽培と牧畜の開始

・高緯度地方では一度退いた氷河が再び前進してきた。ツンドラ地帯が再び広がりそこにドリアスの花が再び咲いた.この時期を

 ヤンガ-ドリアスという。第5回で話した寒の戻りがヤンガ-ドリアスである。この寒冷化は中々戻らず1000年も続いた。こうした

 状況の中で植物の栽培と牧畜が始まった。

・栽培というのは野生の植物を人間にとって都合のいい植物を選んで育てること.(稲、小麦・・・)現在の稲は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と言われるように、イネ科の他の植物と違って実っても実はバラバラに飛び散らない。これは植物の本来の姿からするとおかしなこと、人間が改良したのである。このような植物は自然の中では弱いので大事に育てる必要がある。栽培というのはこういうことである。

・牧畜も野生種の中から人に馴れ従順な動物を選んで、改良し増やしていく。(馬、牛、羊、山羊、犬、猫、鶏、・・・)

・栽培農業や牧畜は自然環境が良い時期(食料が豊富である時)に始まったのではない。ヤンガ-ドリアスで自然環境は悪化し厳しくなって行く時に、生き残るために始まったのである.そしてこれは食糧生産の増加という大きなメリットを人間に与え、その後の人間の大発展に繋がるのである。しかしメリットだけではなかった.家畜と一緒に生活するということは、動物の病気が人間に伝染り疫病が発生した。天然痘・・。

(寒冷化のメカニズム)    ヤンガ-ドリアスの発生  その原因は何か

これは急速な温暖化が原因と考えられている。温暖化がすぎて寒冷化が起きたのである。地球のメカニズムがバランスをとったのかも知れない。

  1. 地球の緯度別エネルギ-収支

    これは太陽から受けるエネルギ-を太陽放射量という。それをどれだけ宇宙に放出しているか、これを地球放射量という。この収支を見ると赤道付近の低緯度地域では収支がプラス→宇宙に出ていてくエネルギ-より太陽から入ってくるエネルギ-の方が多い。

    一方高緯度地域では太陽放射料より地球放射量の方が多い。つまり入ってくるエネルギ-より出て行くエネルギ-の方が多い。

  2. 低緯度から高緯度への熱の輸送

    地球では熱のバランスを取るために低緯度から高緯度側に熱の移動が行われている。輸送手段は大気と海洋を利用している。赤道付近の熱を低緯度地方に送っている例の一つが台風である。

  3.  ・海洋すなわち海流は低緯度地域の熱を海水の流れ(暖流)で高緯度地方に送り、地球全体の熱バランスを取っている。もしこの熱移送

    システムが止まってしまうと赤道付近は熱収支がプラスなので、異常な高温になってしまう。一方高緯度地方は低緯度地方から熱をもらえないので、冷えて寒冷化が進む。

     ・海洋の熱移動システムを担っているのは塩分濃度である。海水は地球内部から溶け出した塩分を含んでいる。この塩分濃度が高いと水の密度が増して高密度の海水は表層から深海に潜っていく。こうして海水の移動が起き、熱も移送されていく。

     ・北大西洋ではメキシコ湾流が赤道付近の温かい海水を北に運び、その結果大西洋に面するヨ-ロッパは緯度が高いにも関わらず温暖な気候が保たれている。この温かい海水を運んできた海流は北大西洋に達するまでに海水の蒸発で塩分濃度が増して、北大西洋で表層から深海に沈んでいく。今度は深海の流れになって海底を南に流れていく。これを北大西洋深層水という。これは一つの例であるが、地球の熱移送システムとして重要な役割を果たしている。

    (海水の熱移送システムの停止は地球の温暖化を原因として、これが地球の寒冷化を惹き起こす)

    氷期が終り、温暖化が始まると北欧のスカンジナビア氷床(氷河)や北米のロ-レンタイド氷床の融解が始まる。溶けた淡水が北大西洋に流れ込んで、この地域の塩分濃度を低下させる。その結果海水の沈み込みが起きなくなり、北大西洋深層水の動きが停止した。

    つまりヤンガ-ドリアスの寒冷化は後氷期の温暖化が進み過ぎた結果、氷床融解→淡水の海への流入→塩分濃度の低下→海流の停止→寒冷化となる。

    (CO2濃度の増加)  温暖化→寒冷化

     ・2013年現在、地球のCO2濃度は396ppm、産業革命以前の278ppmに対し42%も増加している。そしてこのままで行くと2100年には600ppmと予想されている。CO2の増加は地球温暖化を招く。

    ・多くの人は、温暖化は海水準の上昇、農作物への影響、異常気象を招く程度と思っているが、ヤンガ-ドリアスの例でも分かるように、温暖化は寒冷化を招くのである。

    ・北大西洋の周囲には巨大なグリ-ンランドの氷床があり、これが溶けて北大西洋に淡水が流入するという事があれば、ヤンガ-ドリアスとじ北大西洋深層水の停止による寒冷化が起きる可能性がある。

    (寒冷化の影響)  →農業生産の低下の恐れ

    ・寒冷化は農業生産の低下を招来する。現在の地球人口は70億、ヤンガ-ドリアスの終わった頃、つまり縄文時代の初めのころは500万人程度。この人口の増加は農耕の改良とさらには産業革命以降の化石燃料の利用によって支えられている。

    ・地球人口の大幅増加のきっかけは産業革命である。動力が化石燃料を使った機関に変わったことである。これによって生産性が飛躍的に増大し経済発展をもたらした。産業革命の本質は燃料が太陽光→化石燃料なのである。生産性が挙がり、人々の生活が豊かになり,また更なる労働力が必要になるので人口の増加がおきる。

  4. ・寒冷化による気候条件の悪化は食料の生産を直撃する。現在の食糧生産は農業に大量の肥料、農薬を使ってその必要量を確保している。

    ・予測によると2050年には100億に達する。大量の化石燃料を使い、現在の気候条件が保たれればこの食料は確保できるであろう。

    ・しかし化石燃料の枯渇、寒冷化となればこの食料確保は危うい。

    ・将来的には化石燃料の使用を減らしco2排出を抑制し、これに変わる安定した安価なエネルギ-を確保しなければならない。温暖化の真の問題はここにあると思う。