科学と人間「日本列島の成り立ち」  講師 山崎晴男  首都大学東京都市環境学部教授

150306科学と人間⑧(火山噴出物は語る

火山灰の研究

今回は日本における火山噴出物の研究について話す。火山研究と言うと山頂から流れ出る溶岩など、山体を作る硬い岩石が注目されるが私共はその火山が吹き飛ばした火山灰に注目して研究を行ってきた。火山灰は噴火した火山からかなり遠くまで分布し、

他の地層の中に挟み込まれたりあるいは地表の地形面を覆ったりする。これ地層堆積時期や地形の堆積時期に関する精密な情報を与えてくれるので、地形の出来方を探る研究の中では最も当てになる情報提供者である。

私の入学した都立大学には地形発達史即ち地上にみられる地形はどのような変遷を経て、現在の姿になったかという事を研究して

いた先生方がおられた。地球の気候、環境変化、プレ-トテクトニクスと地形発達との関係、或いは火山灰を使った地形形成史の研究を行っていた。私も学部生の頃、門前の小僧で地形がどのように形成されていくのかという事に大変興味を持っていたので、

地形地質学研究室で卒論を指導してもらうことにした。火山灰を使って地形や地層の年代を求める研究を火山編年学という。

・関東ロ-ム層

関東ロ-ム層が火山の噴出物であることは小さい時から知ってはいた。しかしこれがどんな意味を持つかは全く考えていなかった。

しかし大学の地形発達史の研究ではこの赤土が重要な意味を持ってくるのである。道志川の調査では段丘礫層を覆う10数m

スコリア質(玄武岩質の黒っぽい色をした軽石)の火山灰層を見た。関東ロ-ムは東京では台地の縁などに露出しているのでこれを

見ていた。ロ-ムと言うのは土壌の種類を示す言葉で、東京では火山灰が積もったものだと言われても中々実感がなかった。何故ならこれは赤土にしか見えないからである。しかし道志川で見た火山灰層は火山噴出物という事がよく分かる層状の厚いスコリア層が

挟まれている黒色の砂が風化しかけたものであった。

・姶良丹沢火山灰(ATN)

丹沢山地の西側に富士山があるので、富士山から噴出した火山灰は西風に流されて東側、すなわち丹沢山地に落ちてくる。段丘面は平らなので、噴火が繰り返される度に厚く堆積していく。という事で当時は、この火山灰は富士山が噴出して積もったものと考えられていた。

しかし都立大学の町田教授はこの火山灰を西へ追いかけて、南九州の至る所に分布するシラスという軽石と同じものであると

確認した。この火山灰層を姶良丹沢火山灰(ATN)と名付けた。

・シラス  大隅・薩摩半島・都城付近に分布する火山灰、軽石の層)  姶良カルデラ

 巨大火砕流の堆積物でカルデラ噴出の際に地下のマグマが発砲して軽石が出来、それが噴出して流れ出て、南九州全域を覆って堆積したものである。ATNの発見は噴出物を全国規模でまき散らした大規模噴火があったことを明らかにした。そして噴火の時に

できたカルデラが錦江湾であることも示した。桜島はこのカルデラ形成後、カルデラの縁に噴出した火山である。

・ベスビオス火山

この様な大規模噴火を目撃し、記録に残した人が唯一いた。古代ロ-マの著述家ショ-プリニウスである。彼はAC79年ベスビオス

火山噴火の際に、ポンペイが火砕流に埋まった光景を対岸から目撃し記録したのである。この噴火では高圧ガスが噴出してくる。この中には火山灰や火山堆積物が含まれている。この高圧ガスは下からの圧力と自分自身の熱で黒い柱となって上昇し続ける。噴火柱は大きくなりやがて冷えてくると軽石などを周辺に落とし始める。この噴煙柱は大きくなり過ぎると自分自身の重さを支えきれず倒れはじめる。すると構成していた火山灰・軽石・岩石などは火砕流となって流れ出る。高温の為にホ-バ-クラフトの様に地表面に接触せずに流れ出るために遠方まで達する。これが九州のシラス堆積物である。又噴煙柱が倒れる際、火砕流と分かれて上空に細粒の

火山灰からなる灰神楽が舞い上がる。これが西風によって東に流され地表に降下し堆積する。これが丹沢に認められるATNの正体で

あった。

・箱根火山の噴火

しかし関東ロ-ムの中にはATN以外の噴出物が認められる。これをTPと言う。TPは6万年前に箱根火山がカルデラフ噴火を起こした時に噴出した軽石層である。軽石の後に火砕流が噴出して周辺に堆積し、現在の台地を作っている。火砕流の先端は相模川を越え、横浜まで達した。噴火した後カルデラが陥没しそこに水がたまったのが今の芦ノ湖である。

・大規模噴火

この大規模噴火は、調査によると1万3千年に一回なので、人類はこれを経験していない。