こころをよむ「これが歌舞伎だ」                 金田 栄一(歌舞伎研究家・元歌舞伎座支配人)

160327⑫「技が光る大道具・小道具」

「大道具小道具とは」 

歌舞伎の裏方の仕事の中で大道具と小道具を見ていく。これは道具の大きいもの、小さいものという区別ではない。

それぞれ別々の歴史があり、今も別々の専門家がやっている。 

先ず大道具と言うのは、舞台に固定して動かないもの、舞台の背景や建物或いは植わっている大きな木などである。

小道具は、身に付けるもの、手に持つもの、家の中にある家具調度品、大道具に属さない全てのものが含まれる。

良く使われる面白い例え話がある。「引越しの時に持って行かないものが大道具、持っていくものが小道具。」

これが誠に傑作で見事に当たっている。桜の木は大道具であるが、役者が折って手に取る桜の枝は小道具である。

(大道具)

裏方の仕事としては最も古い歴史がある。大道具師として有名なのは「長谷川勘兵衛」という名跡がある。江戸三座の時代から歌舞伎の大道具を一手に引き受けて400年の歴史を持っている。この長谷川勘兵衛の流れをくむ長谷川大道具、それが現在歌舞伎座舞台となって、今でも歌舞伎座専属の大道具として活躍している。現在は17代である。11代と言うのは三代目尾上菊五郎と連携して「東海道四谷怪談」の様々な仕掛けを考案して有名である。

近代になっても、見事な舞台転換をしたときには客席から「長谷川」という声が掛かるという。

具体的に見てみよう。

大道具と言うのは絵描きと大工そして舞台の上で道具の転換をする舞台部、これを狭い意味で大道具と言う。舞台裏で色々なものを素早く組み立てたり、バラシたりするのでとび職みたいともいえる。要するに絵描きと大工ととび職の職人集団である。通常は劇場専属の形になっている。大道具の職種の中に、特殊なものに「付け打ち」と「幕引き」がある。 

・「付け打ち」

 舞台の上手に座って登場人物が大見得を切ったり、六法を踏んだり、そういった時にバタバタバタと付けというものを

 打って大きな音を出す。これは、従来は大道具の仕事の一つとして伝えられてきたが、近年は付け打ち専門の職種も

 出てきた。

・「幕引き」

 これは単純なようで熟練を要する仕事である。芝居の流れや役者の動き、これにタイミングを合わせなければならない

 ので難しいのである。又早く引くよりゆっくり引く方が力を要する。ゆっくり幕開きする「仮名手本忠臣蔵 大序の場」、

 ここでは複数の人が協力して幕を開ける。

・「屋台」と「二重」

 舞台の上に飾られている立体的な建物、こういったものを総称して屋台という。これは世話物の民家・長屋から武家

 屋敷・お城・・・・。一般の民家などは舞台の上に建ててあるが、お城とか武家屋敷などは土台の上に建ててある。この

 土台を二重という。土台の上の屋台を二重屋台と言う。

(小道具)

 江戸時代には役者が自前で揃えているのが普通であったが、明治の初めに藤浪与平が「藤浪小道具」を設立し、初めて

 の小道具専門業者となった。物を貸してその使用料を取るという業種、これは画期的な事でリ-ス業の走りともいわれ

 る。特に團十郎家では歌舞伎十八番の小道具は自分で揃え、門外不出となっていた。しかし現在は小道具と言う

 専門業者の物を使う。明治になると、不要になった刀や甲冑類が市中に出回った。初代藤浪与平が、これを集めて

 小道具専門業者「藤浪小道具」を創業する。現在も続いている。場所は江戸の芝居町である猿若町。

 小道具と言うのは、大道具に属さない全てのものが入るのでその品目・品数は限りなくある。しかし大きく分けると

 「げ道具」?「持ち道具」に分類される。

・「げ道具」?

 開幕前に舞台上に配置されているもの。EX、武家屋敷の掛け軸・屏風・行燈・・・・。世話物では、植木鉢・竹竿・桶・・・。

・「持ち道具」

 これは役者が身に付けたり、手に持ったりするもの。刀・槍・煙草入れ・煙管・団扇・扇子・草履・下駄・・・。

・「消えもの」

 小道具の一種に消えものというのがある。芝居の中で消えてしまうものを指す。消えものといえば食べ物。これは時に

 本物を使うこともあるが代用品を使うこともある。「梅雨小袖昔八丈(髪結新三)」で初カツオが登場する。髪結新三が

 初カツオを買い、刺身にして大家さんに振る舞う場面。ここでは羊羹である。おにぎりの代用品はマシュマロ。本物で

 ないと具合が悪いのは、蕎麦・饂飩。これも食べごろの熱さで用意される。近頃入手が困難になった物もある。野崎村の

 お光が大根を刻む場面。この大根は今の太い大根では駄目、昔の大根は葉が付いて先が細いもの。わざわざ作らせて

 いるとか。