科学と人間「地球と生命の46億年史」       丸山 茂徳(東京工業大学 地球生命研究所特命教授)

1604080415「太陽系と地球の誕生」

「今日のあらすじ」

現在の地球の表面の約70%は海洋に覆われているが、一体この水がどこからやってきたのかは長い間議論の対象とされてきた。最新の研究によって、地球は2段階で形成されたとするABELモデルが提案された。地球は元々水のないドライな岩石惑星として生まれ、そのあとで水を含んだ隕石が小惑星帯から飛来し、大気と海洋が地球で生まれたとするABEL

デルについて解説する。

「地球の出来方」

最初に原始太陽系がどのようにして作られたか。その原始太陽系は最初は雲の中から惑星が出来ていく。その時に地球はどのような場所でどのようなプロセスで出来たのか。ここ数年間の大発見は、個体の部分の地球と表面にある大気・

海洋の部分は出来た時期が違うという事、つまり地球の出来方と水の出来方は違うという事である。何故そのようなことが判ったかという事と、最後に絶妙な量の海水が地球にもたらされて、その絶妙さ故に生命が生まれ進化したという事と、その重要な分岐点の話をする。

「地球の位置」

地球は宇宙の中でどのような位置にいるかというと、天の川銀河の中に入るが、実は天の川銀河が1千億~2千億の太陽のような輝く星を持った集団であることは前回話した。天の川銀河は薄いディスクのように見えているが、ダークマタ-という研究が進んで実は銀河は球の様な形をしていて、見えている形とは違うという事が分かってきた。天の川銀河と

一番近い銀河はアンドロメダ銀河である。これは天の川銀河より大きく、質量の差により未来にはアンドロメダ銀河に吸収される運命にある。

「小惑星帯」 ハヤブサによる探査

この二つの銀河の間には何もない、昔はあったが衝突して消滅したのである。太陽系銀河を考えると、その周りは水星・金星・地球・火星などの岩石惑星である。1AUというのは天文単位で、太陽と地球の距離の事である。2AU5AUの辺りに木星がある。そこまでの間に小惑星帯という所があり、現在は探査機を使って調べている。例えば「ハヤブサ1」「ハヤブサ2」がその隕石から石を取ろうとしている。「ハヤブサ2」は5年後に帰還する予定。何故そのようなことをするのか。宇宙は圧力0、だからH2Oは太陽に近い所だと蒸発してしまう。蒸発しない境界の場所が2.7AU。これより外側だと氷となる。

又生命体を構成するC(炭素)O(酸素)H(水素)N(窒素)などがこの地点にあって地球の生命の起源を研究するのに

極めて重要な所である。今回のハヤブサ2は、小惑星「りゅうぐう」を目指し生命の元である有機物や地球の水の起源と

なる含水鉱物を持ち帰る見込みである。

「出来たばかりの地球の姿」

先ほど述べたように太陽から2.7AU以内の惑星はドライで水はないはずである。よって地球が出来た時には水はなく、岩石・揮発性物質・有機物などが組み合わさったものから出来て居た筈である。そして出来た時は小さな惑星で、段々と

大きくなって今の地球サイズになってきた。

「水の起源」

岩石の2/3Oで出来ている。Oには161718という同位元素があってこの比率で地球の起源が判る。他の惑星の隕石と較べるのである。その結果、地球の岩石は2AUの所にあるエンスタタイド・コンドライドという隕石であることが分かった。これは地球が出来た時には、ドライで水が無かったことを示す。そしてその後、海洋成分()が付け加わったことを示して

いる。月には直径1000Kmを越えるクレ-タ-がある、これは隕石が衝突した跡である。同時期に地球にも隕石が衝突し、水・生命の構成要素の有機物が降り注いだ。これは隕石が水を持っていたからである。これで地球に生命体の基と

(海水)が出来たのである。地球に海が生まれてやがて海の中から生命が誕生する。

「生命の誕生」

こうして地球の表面には約4Kmの厚さの海が出来た。実はこの4Kmというのが微妙な水の量である。例えば後10Km水の量が増えたら、ヒマラヤ山脈も水没し陸地は無くなる。又水がないと大陸が移動するプレ-トテクトニクスというプロセスも起きない。プレ-トテクトニクスは地球の表層の関係を非常に安定した状態に保つプロセスである。微妙な水の量を地球は得たのであり、これが地球の全ての始まりである。

「ハレ-すい星」

ハレ-すい星は氷の塊である。次々とすい星が地球を襲い衝突すると、地球は水に覆われて海の惑星になってしまい生命の誕生は無かったであろう。海で誕生した生命は陸に上がって進化していくからである。これを防いだのは木星・土星・

海王星・冥王星である。あたかも牛若丸を守る弁慶のように水星の衝突から地球を守ったのである。まさに地球の誕生は

全くの偶然の積み重ねで出来あがった。

「その他」

講師が研究の為に世界各地を訪れた時の様々なエピソ-ドが語られたが、本論と関係ないので削除。

 

「コメント」

太陽系惑星の中で地球だけで何故水が存在し生命が誕生したかは概念的には理解できた。全くの偶然の賜物なのだ。

しかし太陽系がこの天の川銀河で1千億~2千億、宇宙全体では天の川銀河が更に1千億~2千億あるとすれば、

必ずや生命体のいる惑星は在るはずではないか。宇宙探査機ハヤブサ2も、そうした研究の一環であったのか。

宇宙物理学というのは一種の哲学なのだ、研究によってそれを科学にしていく学問なのだ。