170111 古代からの伝言①「日本建国」   八木 荘司 角川文庫 2008年刊行

 ●読了 20161130

 ●読書の切っ掛け

  友人M氏の読書リストを送って貰って興味のある物を読んでみる。歴史物は様々で、

  学術レポ-ト的なものから、荒唐無稽でこれで歴史ものかと呆れるものまで。このシリ-ズは、

  あくまで我々が知っている?史実に立脚して、それに作者の想像力を働かせて、息もつかせ

  ない。丁度私の趣味、レベルに合うのでシリーズ7巻を読む事とした。

 ●著者

   1939年兵庫県生まれ。京都大学文学部卒。産経新聞社会部。

1999年より「産経新聞」に「古代からの伝言」を連載。八木倍年説によって古代天皇の実在を

主張する 

 ●背景 2世紀~3世紀

  邪馬台国の時代の中国は、所謂「魏呉蜀」の三国時代。蜀は諸葛孔明の死後衰え、覇権は魏と

  呉との争いとなる。

  倭国は、卑弥呼の倭国連合と()()国(本書では神武東征より成立したヤマト政権)との抗争。武力に劣る

  邪馬台国は魏と接触しその支援を受けようとする。魏も呉との関係からこれを受け入れる。

    卑弥呼に「親魏倭王」の金印を与え、これに答える。

しかし倭のこの抗争も、徐々にヤマト政権が優勢となり、邪馬台国二代目女王()()の死と共に、

    遂には狗奴国に併呑されてしまう。朝鮮半島もこの中国の魏呉の争いに巻き込まれ、戦乱が

  続いている。

 ●登場人物

第一部「邪馬台国」

   ・司馬仲達  魏の宰相 

   ・難升(なし)()    邪馬台国の魏(洛陽)への使節大使、後倭の宰相

   第二部「ヤマト政権」神武東征~

   ・神武天皇((かむ)日本磐余彦(やまといわれひこ)(のみこと))  父 瓊瓊(にに)()(のみこと)  母 玉依(たまより)

     日向を捨てて、東征に出る

 ●あらすじ

   中国の魏呉蜀の三国時代、朝鮮半島情勢、倭(邪馬台国の存在)は同時期に存在し、お互いに

   強く影響し合った。倭では神武東征による武力国家「狗奴国」の成立と邪馬台国との抗争→

   狗奴国の勝利→大和政権の成立)

そして、当初大和盆地南部の小国であった熊野国((くな)(こく)国)が、邪馬台国を吸収し徐々に日本統一

への道を歩んでいく。熊野国を、中国式に表記したものが狗奴国であるとする。

 ●考え方の骨子

   歴史学会の全否定。中国・朝鮮の歴史資料には無知で顧みず、戦後の左翼思想に毒された

   現在の学会としている。そして、矛盾点、不明点は多いが、民族の歴史である日本書紀・古事記

   の事実をもっと直視せよという。

 ●コメント

   大きな驚きは、邪馬台国が奈良盆地の北部(奈良市から京都の一部)と設定している事。

   そして、神武東征軍は熊野から北上し、遂には奈良盆地の南部に拠点を持ち、邪馬台国と

   緊張関係に入るという説。「魏志倭人伝」にある倭国への行程説明には全く触れずに。それは、

   彼らの地理感覚の間違いと、情報伝聞と作者「陳寿」の曖昧さと断定。目が覚める思いが

   したが、資料との整合性はともかく、ストーリ-としては実に腑に落ちる。

   又、古代より国際関係は予想以上に関連し合っていたことが事実でもあろう。

   神武東征も、稲荷山古墳(埼玉)・江田船山古墳(熊本)の「鉄剣銘文-雄略天皇の事蹟に

   触れて」等を例証にしながら説得力を持つ。いわゆる欠史八代も、古代天皇の現実離れした

   長寿説も作者なりの説明でクリヤしていく。

   学者ではなく、新聞記者上がりの作家なのでここまで大胆に言えるとは思うが、歴史素人マニア

   に胸がすく思い。