30年

12月  ①叔母行きて長老となりて戸惑えり古里遠く離れし我は

     ②泣き相撲で大泣き小泣きのみどりごに秋の鎮守は笑いの渦に

11月  ①

       ②

10月 ①野分行きて白秋の凬香しく金木犀の花散り敷きぬ

     ②夕暮れの池の平の行く秋にウメバチソウの花ほの白く

9月   ①微かなる記憶を探りて行く道のポストの先に下宿屋の跡

     ②大陸より渡り来れる画眉鳥が夕闇の中騒ぎを止めず

7月   ①仕事だからと息子は言い置き旅立ちぬテロの直後の雨のミンダナオ

     ②故郷の家への路地で身を屈め幼い頃の思い出を追う

6月   ①昭和二〇年暮れ髭の男が夕闇にインパ-ルより帰りきたれり

     ②陸軍病院に見舞いし我に洗面器でぜんざい給いしマラリアの伯父よ

5月  ①為すべしと気負いし頃ははや遥か人をも身をも傷つけたるらん

     ②夕暮れの水に漂う花筏ヘッドライトに浮かんでは消ゆ

4月  ①ボランティアで障りある子と手を繋ぐ梅の香りて日の当たる道

     ②何気なき一言胸に澱みおり木の芽起こしの雨降りしきる

3月  ①「悟りとは」と言いつつ友は仰向けにほろ酔いまろぶ雪の団子坂

     ②病み果てて雪の寒の夜死に顔を見せないでと言い従姉妹は逝きぬ

2月  ①自転車を立ち漕ぎで行く若き子に離れ住む子の面影を見る

     ②小雪降る横断歩道を足早に己が影踏み人々はいく

1月  ①奥鬼怒の破れ屋に黒き離れ犬尾を振り伏せて唸り声あぐ

     ②たまポチもペットと呼ばれ出世してエアコン付の殿上人に