12月    ①大津波はあの枝までと口々に指差す先に赤いブイ二つ

       ②居酒屋で自慢話に白けたりぬるいビ-ルを一気に飲み干す

 

10月    ①残されし母の歌集に我知らぬきらめく世界への息づかいを聞く

       ②居酒屋間笑顔の中にふとにじむ同じ話にマンネリズムが

 

9月    ①いさかいを悔いつつ帰る路地裏に母の愛せし白きマグノリア

      ②ブナ若葉一刷毛ごとに色重ね物憂き心は緑に埋まる

 

7月    ①各々に思いを残しし父母の墓清めゆく子らとその妻

      ②治ったぞ病む友よりのメ-ルの来みかんの花の香漂う夕べ

 

6月    ①流行語の溢れる歌集に心憂し跋を開いて熱き茶を飲む

       ②夕風に枝垂桜が人形(ひとがた)で花びら散らしつつ我を手招く

 

5月    ①当麻道(たぎまみち)の清き瀬音にひたりおり大津皇子もかく聞きたりや

       ②古里に告ぐるべき人なしと言う舌癌の告知を受けたる友は

 

4月    ①したたかに鍛えてくれし人の通夜春立つ今宵淡雪の降る

       ②顧みて悔いの数々ありたれど花を翳して黙して行かむ

 

3月    ①真新しき学帽かぶりし峠の茶屋友と小さく「オイ」と呼びたり

       ②同胞と諍いし我を諾いて遠き空を見る正月三日

 

2月    ①幾つかのチュ-ブに友は繋がれて我の言葉に目で笑いたり

       ②わが想い未だ定まらず山繭の若虫の如くうごめいており

 

1月      ①年経りて金色(こんじき)の輝き失せたれど微笑(みしょう)浮かべる百済観音

         ②禅寺の奥に広がる武蔵野の風に黄金の葉が千々に舞う