160918 「荒仏師 運慶」   梓澤 要 新潮社  2016年刊行

 ・読了 2016916

 ・著者 明大文学部史学科(考古学専攻) 主に女性を中心に据えた時代小説、古代女性が主人公

            の作品が多い。

      「阿修羅」「定家」「橘 三千代」「結城 秀康」「空也」

 ・読書の切っ掛け

      仏像は良く分からないが、好きなのは飛鳥・奈良時代のもの、平安の定朝様式より慶派。

      新聞書評に出ていたので興味を持った。名前から男と思っていたが、意外にも女性だった。

 ・運慶の周囲の仏師

   父       康慶(棟梁)

   弟       定覚

   兄弟弟子  快慶 成朝(前棟梁の息子)

   息子     湛慶(長男)、康運(次男)、康弁(三男)、康勝(四男)、運賀(五男)、運助(六男)

 ・あらすじ

   宇治平等院の阿弥陀如来で知られる大仏師「定朝」の流れで京都の「院派」、定朝の弟子円勢

      が率いる「円派」、この二派が宮中や貴族の仏像を一手に行ってきた。それに対して奈良興福寺

      の造仏所に属するのが後に慶派を称する奈良仏師、当時は田舎仏師の扱いであった。平 重衡

      の「南都焼討」で焼け落ちた東大寺、興福寺等の修復、再建が始まる。ここで、院派・円派に

      続いて奈良仏師の出番が来る。

東大寺再建の勧進をした「重源上人」、高尾山神護寺・薹大師再建に尽力した「文覚上人」等の

協力で鎌倉幕府関係の造仏に進出。評価を高め、「慶派」と呼ばれ、この時代を風靡した。

仏師の棟梁は従来実力主義で、世襲ではなかったが運慶は息子の湛慶を棟梁とした。造仏の

苦闘、6人の息子たちの育成、息子たち同士の葛藤、京都、鎌倉、奈良の有力スポンサ-との

駆け引き等が小説らしく展開していく。

・エピソ-ド

   (長岳寺 阿弥陀三尊)

運慶が仏師としての心構えを作ったのは、10才の頃父に連れられて見た奈良・三輪の「長岳寺」

の阿弥陀三尊。

これが父康慶の兄弟弟子による日本最初の玉眼で作られている。玉眼とは、水晶の薄板に瞳を

黒・赤・金の漆で彩色して嵌め込んだもの。画期的なもので、世を驚かせ以降、慶派の技法と

なる。

 

「運慶の主な作品」

・円成寺 大日如来 20代 最初の作品 結跏趺座  奈良市

・興福寺 釈迦如来 丈六

・正暦寺 弥勒菩薩 

・願成就院 阿弥陀三尊、毘沙門天、不動明王、矜羯羅童子、 制多迦童子  北条時政の依頼

 北条時政による北条氏の氏寺 運慶、東国最初の作品 三浦半島伊豆の国市

・常楽寺   阿弥陀三尊 丈六・上品下生、 毘沙門天、 不動明王  和田義盛夫妻の依頼 

        横須賀市

・樺崎寺   大日如来 二体  足利市 一体は真如苑蔵  足利 義兼の依頼

・神護寺   二天門(仁王門)  大日如来等の仏像の修復 文覚上人の依頼 

        講堂の大日如来・金剛薩埵・不動明王像

・東寺    講堂の五仏・五菩薩・五大尊・梵天・帝釈天・四天王像の修復 文覚上人の依頼

・東大寺  南大門の阿形・吽形 大仏殿の脇侍(虚空蔵菩薩・観音菩薩・四天王)→後に焼失

・高野山不動堂 二童子・八大童子

・興福寺北円堂  本尊弥勒仏、その脇侍法苑林および大妙相両菩薩、無著・世親・四天王像

            慶派を挙げて再建

  無著・世親  運賀(五男)・運助(六男)

    四天王  持国天 湛慶(長男)、増長天 康運(次男)、広目天 康弁(三男)、多聞天 康勝(四男)

・源実朝の持仏堂  本尊釈迦如来像  焼失

・大倉新御堂     本尊薬師如来像   北条義時が発願  焼失

・勝長寿院五仏堂  五大尊像  北条政子  焼失

 

「読後感」

登場する人物は歴史的に有名な人々ばかり。人物のイメ-ジは共感する部分とえっという所が

共存。

後白河、後鳥羽などの皇族・貴族の自分勝手さ・反省の無さには全く同感するが、北条一門(時政、政子)人間らしい、優しいイメ-ジには違和感。小説だな。もっと非情な、権勢欲を感じるのに。

ただ、背景の歴史的事実、運慶の造仏の苦労、新しいものを生み出す苦悩、慶派一門内の葛藤などは興味深く読んだ。

歴史専門の作家なので、過去の作品「橘 三千代」等早速読んでみよう。

円成寺・興福寺

願成就院

浄楽寺