1月  ①初風に墨染の衣翻し白壁沿いに雲水の影

     ②漆黒の闇に抱かれ手を引かれ母と歩いた石ころの道

 

2月  ①友の訃はメ-ルにて来つ 電話口で絶句し何故と問うこともなし

     ②救急車も人の心もドップラ-急に近付き遠ざかりゆく

 

3月  ①母逝きて五年過ぎしか面影はようよう和らぎ笑み浮かべおり

     ②(おもね)ってお世辞を言えばじわじわと心のドレ-ン溢れはじめる

 

4月  ①いくばくか亡母の烈しき(さが)を受け声高く我も物

     ②夕暮れのこの墓道を父母も登りしならむお城を見つつ

 

5月  ①スリル満点よ(つま)のDV認知症友の話は低く続けり

     ②したたかに飲みしその夜の影法師よろめく我を振り返り(わら)

 

6月  ①神輿かつぐ髑髏(どくろ)タトゥ-の若い娘に時世時節と我驚かず

     ②日は既に春のものなり風に乗り卒園の歌かすかに聞こゆ

 

7月  ①老二人逝くまでを撮りし写真展米寿と傘寿でウィンク交わす

     ②赤く生まれ青さ増せども移ろいて白に遂には闇に溶けいく

 

9月  ①卯の花に水滴光る全音符「夏は来ぬ」の歌遠くに聞こゆ

     ②連休の明けて雨降る夕暮れの机に赤きエンディングノ-ト

 

10月 ①群れをなし老いいく我を生きるとは孤になることと友は嘲りき

     ②夢に来し友の横顔白々と我の無様を黙しつつ見おり

 

12月 ①トマト摘むその手を休め我を見る男の目尻のしわの深さよ

   ②今よりは己がじしにて生きるべし病む友の末気掛かりなれど