12月 ①何かしらものの近づく気配する老神の呼ぶ声も聞こえて

     ②生まれ来て最初に貰うプレゼント誰にも読めぬキラキラネ-ム

10月  ① 血縁の苦き話を聞きながらひたすら食らう故郷の蟹

     ② 家の気配探る慣いの身に付きぬペットロスとはかくの如きか


9月  ①不二ヶ嶺も島根も見えず降りしきる雨に濡れいる枇杷の房々

     ②去年逝きし我が老猫の声のして夜中に一人耳をそばだつ

 

7月  ①去年の秋荒れ地を耕し作りたる絹莢豌豆一畝二畝

     ②嵐過ぎ打ち捨てられし破れ傘つつじの上に萎れて咲けり

 

6月  ①若き娘が黙しせわしくヘドロ掻く霙降りしきる南三陸町

     ②人生は短しされどホスピスに彼の逝くまでの長き一日

 

5月  ①終の道とは心得たれど友の訃はにわかに来たり吹雪の夜に

     ②名を呼べど振り向きもせず老い猫は尾を少し上げ角を曲がりぬ

 

4月  ①言の葉は裏切るものか叢雲の集まりてまた飛び去っていく

     ②あの岬の河津桜の淡き色語りたけれど母はいまさず゜

 

3月  ①歩道橋で若者に 先をゆずりけり老いの道ゆく初詣の朝

          ②クヌギの葉いまだ小枝に残りおり凡庸なるは少し悲しき

 

2月  ①目を閉じてまほらまほらとつぶやけば三輪の緑の神杉の見ゆ

     ②宅配便開ければ立ちぬ野の香り行者にんにく六根清浄

 

1月  ①P・Simon(サイモン)なんて歌ってと笑われる  娘のマニュキュアはしろがねの星

     ②酔い覚めの夜道の果ての山の端にしろがねの冬トライアングル