私の日本語辞典「万葉歌人の植物観」 

                木下武司 帝京大学教授 東京大学薬学部卒

 

⑤「万葉の歌のランキング」 20121229日 最終回  

万葉の花のランキングは萩(141)ススキ/クズの順で、万葉人にとって身近なものが並んでいる。

 

山上憶良の七草の歌も概ねこの順である。

「サワラビ」ワラビ科ワラビ属    1首   シダ植物

 

岩ばしる垂水の上のさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも  志貴皇子

(岩の上に水が勢いよく落ちてくる滝近くの蕨が、芽をふく春になったなあ)

・志貴皇子

 万葉家人。天智天皇の皇子。光仁天皇の父。歌は流麗明快である。

・一般的には万葉の時代から食用で若菜摘みの対象と理解されているが、この時代には有毒植物として敬遠されていた。よってこのワラビはゼンマイのことである。(初めて聞いた説) 

・ワラビが食用になるのは李自成の「本草綱目」で、ワラビのアク抜き法が日本に伝わった江戸時代である。

 それまでは雑草の一部。翻訳したのは「貝原 益軒」である。

・またワラビは水分の多い場所には生育しない、季節感が合わない。ゼンマイは水分を好む。 

・ワラビの語源 ワラ(藁)+ビ(火)

 ワラビはシダ植物なので、花はつかないし胞子で増える。栄養葉と胞子葉が出て、胞子葉の先端が赤いので藁に火が付いたようになる。これが語源(木下説)

・ゼンマイという名前が出て来たのは室町時代。

 

 結論

  このワラビはゼンマイである。

  当時はワラビとゼンマイは区別されずワラビと呼ばれていた。区別するようになったのは後の時代。今で言うワラビは万葉人には興味がなかったはず。 

  万葉人に身近だったのはゼンマイで、これは食用にしていた。

 

結論は中々分かりにくいので私の推論も入れた解釈。

  

(感想)

・事実そうかもしれないが、歌にとってあまり意味のない議論。 

・初めて聞いた説なので馴染みにくい。

・初めての説らしいが昔から万葉学者/植物学者が、研究してきたのに気づかなかったのは不思議。

 

 全般的に

・植物論としては面白いが、テ-マ「万葉歌人の植物観」とは中身の違う講座であった。