私の日本語辞典「雑草にも名前がある」          講師     浅井 元朗(農業・食品産業総合研究機構)

                                                          聞き手      秋山和平アナウンサ-

 

160702

講師は京都大学博士課程修了。田畑の生産性向上の観点から多様な雑草の基本調査研究を行ってきた。その成果を

2015年「植調 雑草大鑑」という書物にまとめ、水田・畑地など耕地の雑草700種を掲載、防除に役立てている。「名もない草など一つもない」という講師にまず雑草とは何か、また名前の付け方について聞く。                             

図鑑の特徴は、葉っぱ一枚でも見分けられるように工夫した。                                       

「講師自己紹介」                                                                  

高校で生物に興味を持って大学では農学部、サークルで菜園をやったので雑草を敵にして過ごした。大学に雑草研究室と言うのがあったので入った。出身は石巻、港町なので農業とは無縁に過ごした。現在福島で働いているが、放射能災害からの農業復興に助力するということ。放射能で耕作放棄地になっている所をまず雑草を始末してからという事になる。 

その技術サポ-トが仕事である。人が入らなくなるとすぐ雑草だらけになってしまう。

<秋山>

雑草とは何ぞやと言う時に、色々と絞り込みがあって例えば山野の植物、人里の植物、農耕地の植物・・・。その中で我々が見る雑草と言うのは、野草ともいえるが、専門的に仕分けするとどういうことになるのか。

<浅井>

専門的に言うと、私は農業の立場に立つことになるので、農業場面に入ってくる目的植物以外は全て雑草である。雑草とは、その土地をどう使うかで雑草は決まってくる。又、名前を知らないから十把一絡げで雑草と呼んでいる場面もある。

一つ一つ名前を知っていると、それぞれに個性があるのが分かるけれど。

調査する時は観察するために種子から育てるので、愛情みたいなものが湧くことがある。雑草かどうかは人の主観の問題である。

<秋山> 

福島の場合、一般的な農地の雑草としてみる見るもの以外の野の草も対象としているのか。

<浅井>

その通り。耕作放棄農地だと、雑草が山から、畔から入り込んでくる。12年で大変な状況になっているので、そこからの復活は一仕事である。耕作していれば入り込むはずのない種類が一定期間耕作放棄すると、雑草と言うか山野草と

言うか山の植物で埋まってしまう。

<秋山>

本来農地が農地として人間が耕している間は、耕地に少し生えてくるのが一般的な我々の言う雑草であるが、耕作放棄地では様相が変化するという事か。

<浅井> 

その通り。耕地として手が入り続けていれば必ず耕すので、一つのものが大きくなったりはしない。種を散らしたら種子に由来するものが毎年毎年生えてくるという事であるが、耕すことを止めたら途端に根が拡大したり、地下で増殖するタイプのものが入ってくるので、こういう状態になると、作物を植えられる状況ではない。

<秋山>

「雑草大観」で取り上げているのは日常的に耕作されている中で生えてくる雑草の中の種類が殆どなのか。

<浅井>

耕作地に入ってくるものは全て取り上げで入れているつもりである。それ以外にも耕地の周辺にいて、隙を見ては入り込もうとしているものも入れている。それも農地周辺、畔とか土手も農業では管理対象となる。

<秋山>

「雑草大観」はとても分かり易いが、種子の散布という項目があって、そこに重力とか水とか、蟻、風、付着・・・・。つまり雑草が入り込んでくる方法が色々あるのだ。蟻と言うのは蟻が持ってくるという事か。

<浅井>

 

将に様々。種子の表面に蟻のエサになる成分が付いていて、蟻がそれを巣に持っていく。

 

<秋山>

植物の特性を知るという事が、雑草対策で一番重要なことなのであるのか。また雑草がこれだけ多くあれば、雑草対策の薬品の種類と言うのは夫々の雑草によって違うのか。

<浅井>

大きくグル-プ分けは出来る。 

<秋山> 

一年草、二年草、多年草とあるがそれを見分ける方法を「植物大観」に面白いことを書いてあった。引き抜き易いか引き抜きにくいかと。

<浅井>

多年草の場合は地下部で地下茎又は根をはびこらせて、そこから新しい芽を出してくるが、一年草の場合は抜くと根しか出てこない。多年草の場合は根を張っているので抜きにくいし途中でプチっと切れる。根が残るのでそこから新芽が出て

くる。

<秋山>

分類という事になると、どの本でもイネ科の雑草と言うのとヒロハと、カヤツリグサ科と言うのを分けている。この違いは? 

<浅井>

イネ科とカヤツリグサ科は葉が細くて似ている。何故カヤツリグサ科だけを別格にするかというと、先程話に出た除草剤の話で、イネ科、ヒロハに効く除草剤とカヤツリグサ科に効く除草剤は違うから。葉に掛ける除草剤はイネ科に効くか、ヒロハに効くか大きく分けられるが、カヤツリグサ科は葉は細いが、ヒロハのグル-プに入る。ホソバと言うと色々と不都合が起きるので、雑草防除のテキストの中では、カヤツリグサ科と言うのは特殊なグル-プとなる。

<秋山>

名前の付け方は? 

<浅井>

日本名の付け方にはル-ルはない。見つけた人が好きな名前を付ける。発見地の名がついていることが多いが、全国的に名前が広がると誤解を生ずる場合もある。その土地特有のものと誤解される。学名は植物学の命名の取り決めに

従って付ける。

<秋山>

今まで雑草の一つ一つを見ていく時の手掛かりとなるような予備知識を聞いてきたが、これから水田とか畑地に分けて、一つ一つについての話を聞きたい。まず水田の中から、イネ科・カヤツリグサ科、ヒロハと言う風な仕分けとして考えた時

キシュウススメノヒエ・イヌビエ・ムツオレグサ・マコモ・ジュズダマ・・・・こういうのがイネ科にある。この中で厄介な雑草だとか、これには面白い特徴があるとか、そういう見方を教えてほしい。

<浅井>

名前の話から外れるかもしれないが、水田の中でイネ科と言うのは、イネそのものがイネ科なのでイネ科の雑草の防除は難しい。グル-プが違うと薬の選択肢が広がるが。その中で水田の中では雑草と言われるヒエ、形はイネに似ていて

一部分だけ異なっている。昔の人は人力で除草したのでこの事は良く知っていた。鞘の部分と葉の繋ぎ目部分に、イネの場合は突起物が付いていて、ヒエの場合はない。ここで区別する。

 

「コメント」

私の日本語辞典の対話方式の進め方にいつも疑問を感じる。講師に一貫して話してもらった方が体系的に分かり易いし、話し易いだろうと思うが・・・。テーマに興味があるので、秋山「詰まらん質問をするな」