詩歌を楽しむ「サイモンとガ-ファンクルの歌を楽しむ」上智大学教授 飯野 友幸

    131122 「アメリカ」と探求の旅

「アメリカの多様性」

アメリカは移民の国。当初のイギリス、ヨ-ロッパに次いで東欧、奴隷として連れてこられたアフリカ、ついで東洋、更には中南米と多様な民族からなる国家。アメリカほど多様性を持つ国はない。

「Identity

このような坩堝にいると「自分が何者であるか」という疑問を持つ。これは他者との違いを意識して初めて考えさせられる事である。アメリカ人は自分の出自を意識せざるを得ない。

「S&G」の場合

彼らはユダヤ系アメリカ人。ユダヤ人は20世紀半ばまで国家を持てなかった民族。ヨ-ロッパでは長い迫害の歴史がある。

それでも生き延びるために各国に移民して、出来るだけ都会に住み高等教育を受けて知的職業の医者、弁護士等になっていった。

S&Gが育ったのは、NYクレストヒルズにはユダヤ人が多かったのでここにいる限り多文化性を感じ事はなかった。

しかし大学に入り、社会に出るといやでも意識させられる。それでは彼らが自分自身を探求する方法は何だろう。

・旅は有効。旅の効用は多様性の意識。典型は若者の「Backacker

・意識する若者は、未知の土地に行き多様性を感じ精神的な成長の機会を探るものである。

・映画の世界でも「Roadovie」というジャンルがある。そこでは無垢な主人公が旅を通じて経験を積む物語。

 今回の「アメリカ」という歌も「Road Song」ということになる。

「アメリカ」  訳詩

・この曲では主人公はP Saimonその人。相棒はイギリス時代の恋人Cathy。イギリス女性と米人男性の組み合わせ。

  "俺たち、付き合わないか?二人で未来を築いて行こうよ。ちょっとした蓄えならここにあるんだ!

それで俺らは、1箱のタバコとミセス・ワーグナーのパイを買ってAMERICAを探しに歩き出した。

"キャシー"ピッツバーグで長距離バスに乗り込みながら俺は言った。今となっちゃ、ミシガンにいた頃が夢のようだな

 サギノーからヒッチハイクで4日もかかった。俺はAMERICAを見つけに来たんだ。

 バスの中で笑ったり、ゲームをしたりしながら彼女はギャバジンスーツの人はスパイよ
  俺は気をつけろ!奴の蝶ネクタイはカメラだなんて言ってはしゃいだ。

 レインコートにタバコが一本入ってるだろ、放ってくれよ 1時間前に、最後の一本吸っちゃったじゃない・・・

俺は仕方なく窓の景色を眺めた。彼女は彼女で、雑誌を読み出した。広大な原野から月が昇っていた。

キャシー・・・、明日が見えないんだ・・・"寝息をたてている彼女に、俺は言った。
 "今、俺はカラッポなんだ、虚しいんだ、どうしてなんだろう?

 ニュージャージー有料道路を走る、車の数をぼんやり数えながら、 あいつらもAMERICAを探しに来てるんだろ・・・  みんなAMERICAを探しに来てるんだろ・・・

・歌のポイント

    若者に特有な「身軽」「金がない」

    ワグナ-ズ パイ  普通のアメリカ人が食べる馴染のパイ→これで現実性を出している。

    長距離バス(Greyhound) 全米を走る長距離バス、金のない若者の典型的な乗り物

    この歌は」僕はアメリカを探しに来た」が最後には「皆もアメリカを探している」になる。これはアメリカ人共通の体験と言える。この中ではまだAmerican Dreamがまだ信じられている。

 

American Tune  S&G解散後、P Saimonのソロ アルバム

・「America」と対照的な歌。これは年を経て苦渋に満ちた歌詞。

 自分がいかに間違ったか・戸惑ったか・利用されたか・見放されたか

・この年1973年にベトナム戦争が終わり、そして今一番不確実な時代になっていると警告を発して終わっている。