詩歌を楽しむ「啄木再発見」 三枝 昂之(歌人) 

                      歌書「前川佐美雄」「啄木-ふるさとの空みかも」

 

1338()  啄木が嘘を言う時  エピソ-ドの中の啄木 

今回はエピソ-ドを通じて人間啄木の一面を浮かび上がらせる。歌人の中でエピソ-ドが多いのは斉藤茂吉と啄木である。

茂吉は面白いものが多いが、啄木は困った男というエピソ-ドが大部分。

 

   花婿不在の結婚式  全くの無責任 

・明治37年2月に両家の結婚合意    妻節子の父が、甲斐性のない啄木との結婚に当初反対したが最終的には承諾。

その時の啄木の日記「待ちに待ったる吉報にして妻と二人して希望の年は来たりぬ・・・・・」 

・38年結婚式 その時啄木は在京  この年処女詩集「あこがれ」を発刊 

 結婚式に帰るべく列車に乗ったが仙台で降り借金して10日間、土井晩翠と宴会や会食を続けた。その後東北地方を回遊。結婚式には欠席。→結婚をして親兄弟、妻を養うという現実の重さを受け入れなかったのではというのが大方の見方。

・作家澤地久枝の啄木に関する書の中では以下のように書いてある

「新生活の成算はゼロの19歳の青年」「結婚式不参加で、一切の約束事がご破算になるということを願った」

   嘘が得意

・与謝野晶子の啄木への挽歌 (啄木が嘘を云ふ時春かぜに吹かるる如く思いしもわれ)

 晶子にはいい嘘で、その嘘は春風のようという意  晶子の子供は(嘘つきおじさん)と呼んで親しんでいた。

・啄木は天才気取りだったので、虚勢で見栄を張ることが多かったと言える。

 嘘の得意な困った男。友人への手紙が以下。

「小生は天下の石川啄木で候 結婚準備として家は見つけた。飯炊きの婆さんも雇った。・・・」→その場を取り繕う嘘をつく。 

 

本人は自覚して嘘をついている。(あの頃はよく嘘を云ひき平気にて嘘を云ふき汗が出づるかな) 悲しき玩具より 

   浪費癖の男

・金田一京助の冬服を質入れし7円を得て、二人で分配。ところがこの金で古里が恋しくなったとして女郎花と花瓶を買う。

・就職に金がいると嘘をいい、釧路の愛人小奴に20円送らせ、洋書を買い文学のサロンで12円50銭を使う。

・金田一曰く 「金が少しでもあると落ち着かない奴、金を2/3日しか持っていられない男」

   世慣れた悪(わる)

啄木と白秋は歌仲間であり親友。 啄木→白秋は一軒家に一人住んでいる世間知らずの坊ちゃん 白秋→啄木は悪友 

・出版社に無理難題を言って22円貰う。啄木は滞っている下宿代は払わず白秋を連れて「詩人が女位知らずにどうする」と言って浅草の花街へ、初めての女を教えた。この事を啄木の葬儀の時、白秋は「この男が私に酒と女を教えた」と金田一に言った。 

一つの例として牧水、白秋、啄木とキスの歌を比較する。これで世慣れた悪であるということが分かる。 

牧水 「ああ口づけ海そのままに日は行かず鳥翔ひながらうせ果てよ今」 

     キスをすると世界の全てが停止するという意味

 

白秋 「ヒヤシンス薄紫に咲きにけり初めてキスを思い染めし日」  

     白秋らしくデリケ-トで色彩感豊か

 

啄木 「キシキシと寒さに踏めば板軋む帰りの廊下の不意の口づけ」

     料亭の帰りの戯れのキス ときめき・感動ゼロ 

 

・偽手紙事件

短歌誌「明星」時代、与謝野鉄幹が投稿作の添削を行っていたが収入のない啄木にこの仕事を譲った。

 男なのに女性と偽って投稿した人に写真を送らせ次の手紙を書いた。この写真は祇園に芸妓。「君 我が机の上に微笑み合う美しき君・・・」→啄木が投稿者に騙された。しかし自業自得で同情の余地はない。

   面倒見の良い一面もある。 ブ-チャンの感想  以下は当たり前のことでワザワザいうことではない。

渋民村の青年が上京したとき、下宿先を探し、手付金を出してやり、ご馳走をしてやる。