詩歌を楽しむ「オノマトペのすてきな関係」 明治大学教授 小野 正弘
⑪ 130913 「とをてくう」の朔太郎、「ぼしゃぼしゃ」の賢治~詩その二
前回は文語定型詩、今回は口語自由詩を見てみよう。文語定型詩にオノマトベの使用は非常に少ない。これは組み込む余裕がないのであろう。それにはかして口語自由詩にはとても多い。
「萩原朔太郎」 詩人。慶応中退。口語自由詩を完成して新風を樹立。「月に吠える」「青猫」「氷島」・・・ すべての詩にオノマトペを使っている。
1、「青猫」 (にわとり) とをてくとをてくとをるもうとをるもう 鶏の鳴き声
鳥の鳴き声の変遷 かけろ(古代) とってこ-とってこ-(江戸時代)
こけこっこ-(現代)
朔太郎の鶏の擬音語は独創的に見えるが古代→江戸時代の流れを汲むもので
伝統的なものである。
2、(かえる) ぎょぎょぎょ
3、(蝶) てふてふ 蝶の事ではなく、蝶が飛ぶときに羽で空気を
打つ様
4、「夕暮れの部屋」(蠅の鳴き声) ぶむぶむぶむ
5、「遺伝」(犬の遠吠え) とあ-るとあ-るやあ-る
6、「大砲を射つ」 どおぼん
7、「蟻地獄」 ちらりちらり ほろほろ かんかん
「宮沢賢治」 詩人・童話作家。岩手県花巻。法華経に帰依し農業指導者。
「春と修羅」「雨ニモマケズ」「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」
1、「くらかけの雪」 ぽしゃぽしゃ 水気を含んで崩れかかっている様。
類語 ぽしゃる つぶれる・ダメになる
2、「冷血の朝」 (みぞれの降る様) びちょびちょ びしょびしょに比べて水気の
多い様
3、「小岩井農場」(うぐいすの鳴く声)
ごろごろ 異様なオノマトペ→擬音語というより心象を表したものと解する。
4、「この森を振り返れば」(鳥が鳴く様)
ぎらぎら 異様なオノマトペ→擬音語というより心象を表したものと解する。
5、「遠足統率」(息を弾ませて呼吸する様) せいせい ぎらぎら
6、「春」 (泥が手に張り付いて手を開け閉めするとギチギチと鳴る様) ぎちぎち 転じて余裕の無い様を表す
7、「饗宴」(少しずつつまんで食べる様) ぽくぽく
8、「目にて言う」(激しくとりとめのないさま) がぶがぶ
9、「雨ニモマケズ」(どうしてよいのかなす術のない様) おろおろ
「まとめ」
・宮沢賢治の詩には必ずオノマトペが効果的に使われている。
・萩原朔太郎は独特のオノマトペを生み出している。
・宮沢賢治は、伝統的なものが多く自分で捜索しているわけではない。