科学と人間「私たちはどこから来たのか?~人類700万年史」            講師 馬場 悠男(国立科学博物館名誉研究員)

150710②人類はアフリカの森で誕生した~初期猿人の進化

最初の人類がアフリカの森でどのように誕生したかを話す。数百万年前に及ぶ人類の進化を四つの段階として、

猿人-原人-旧人-新人と区分していた。しかし最近初期の猿人の姿が化石の発見によって明らかになり、これまで知られていた猿人とは随分違うので、猿人から独立させ初期猿人と名付け、そういう段階を設ける事が定着しつつある。つまり五段階となった。

     初期猿人-猿人-原人-旧人-新人

「初期猿人」 ①サヘラントロプス・チャデンシス

最初期の猿人。アフリカチャド北部でフランスポワティエ大学のM.ブルネが2001年に発見。年代は700万〜600万年前と推定され、

現在のところ世界最古の人類の祖先といえる。ほぼ完全な頭骨、下顎片、歯などがある。脳容積は320380立方センチチンパンジー並みだが、脊髄が通る大後頭孔(頭骨の底にあり、頭骨と脊柱をつなぐ部分)が下を向いており、脊柱が頭骨を下から支えているので直立二足歩行をしていたことがわかる。犬歯は退化して、人類の特徴が見られる。他の猿人のように東アフリカ南アフリカではなく、中北部アフリカで発見されたので、人類の祖先が古くから広い地域で多様な進化をしていたことがわかった。

・化石の年代は分かりにくい。化石の埋まっている堆積層に含まれる火山性の鉱物の分析から推定する。

・特徴からはチンパンジ-と猿人の特徴が入り混じっているにも関わらず、人類の仲間、即ち初句猿人とみなされるのは、二足歩行をしていたから。これが人類である事の証拠である。

→「この発見の意義」 この発見は世界の人類学者に大きな衝撃を与えた。

  1. 600万年以上も前と言う古さ

  2. 発見地域

    それまでの人類化石は東アフリカで発見されており、人類発祥の地は東アフリカと思われていた。これで人類発生の地域が

    東アフリカ→中央アフリカとなった。

  3. 不完全ながら直立二足歩行が始まったのは、旧来の常識では草原であったが、森林で始まっていた事が化石から分かった。

  4. 人類進化のイメ-ジとしてチンパンジ-などの祖先が、徐々に体を立てて現代人に進化していくという図をみたことがあると思うが、

    この発見によってこの進化のバタ-ンが正しいのかという疑問が出てきた。

  5. チンパンジ-のオス・メスの様な暴力的な生殖行動であったのかどうかの疑問。

     その様な疑問を一気に解決したのが440万年前のアルディピテクス・ラミドゥス(ラミダス猿人)の化石の発見であった。

    「初期猿人」②アルディピテクス・ラミドゥス(ラミダス猿人)

    1992カリフォルニア大学の調査チームに参加していた東京大学諏訪元は、既知の種と異なるホミニンの歯を発見した「アルディピテクス・ラミドゥス」と呼ばれることになる化石人骨群であったこの後、女性の一個体分の化石が発見され、これで全身の様子が分かった。

     10年かけて研究がまとめられ「SCIENCE」に発表された。

    ・森に棲んで、軟らかな食物を食べていた。

    ・犬歯が小さいので攻撃的ではない。

    ・手足の骨や骨盤の形態から、草原に出て二足歩行していた事が判明。大後頭孔の位置から。

    ・親指を他の指と向い合せて握る、現代人のような「母指対向把握」は出来ない。

    ・オスとメスとの性差が少ない、犬歯が小さい→オスはチンパンジ-の様に暴力的ではなく、メスとの共存体制。

  1. 食物を運んで特定のメスにあげる。プレゼント、食物供給仮説

  2. お返しにメスは性的に受け入れる

  3. オスはメスの子供を自分の子と記憶する(事実かどうかは別として

  4. オスはメスや子供を守る

  1. ~④  メスは優しくて稼ぎのいいオスを選んで古今東西共通のシステムが稼働した。夫婦の始まり。

    ・以上はメスがオスに恒常的に食物を供給させるための戦略。結果メスはオスをいつでも受け入れるようになり、毎月排卵があり生理がある様になった。→「恋の心は下心、愛の心は真ん中、真心」  恋では心が下、愛では心が真ん中。

     

    「人類の進化は暴力を失くしていった歴史」

    私達人類の祖先は700万年/800万年前には、チンパンジ-程ではないが、かなり暴力的類人猿であったと思われる。しかし進化に伴い、夫婦あるいは家族中心となる社会的結びつきを強めていく中で、何らかの優しさを発展させてきた。

     

    また、生活する場所の環境に適応して身体的特徴の変化が徐々に起こり、現代人になってきた。特徴は以下

    ○特定の時期にそれぞれ違う特徴が関連を持ちながら変化していった。一番早く変化したのは犬歯の退化

    ○直立二足歩行は、最初森の中で徐々に歩いて、それから草原に出て完成していく

    ○脳の発達はかなり後の方で、道具を使うようになって、それと同時に肉を食べる事によって栄養が豊かになり、こういう条件が整ってから発達し、人間らしさが獲得されていった。