科学と人間「私たちはどこから来たのか?~人類700万年史」 講師 馬場 悠男(国立科学博物館名誉研究員)
150828⑨新人ホモ・サピエンスの世界戦略~原人・旧人との交雑
「ホモ・サピエンスの誕生」
私達ホモ・サピエンスはどの人類から進化したのか。私達と同じ認知能力を持つホモ・サピエンスの心はいつどこで生まれたのか。
アフリカの原人であるホモ・ハイデルゲンシスは大柄で頑丈な体で現代人の近い脳の容量を供え、用途によって異なる石器を作り狩りを行っていた。そして20万年前にホモ・ハイデルベルゲンシスが新人のホモ・サピエンスに進化した。サピエンスと言うのは「賢い」と
言う意味。
(外見の変化としては)
・頭が丸くなって顔が目立つようになる。それは脳が拡大したことを示す。1300cc、現代人は1450cc。
・顔が小さくなった。これは火を使う事などで軟らかい食物により、歯と顎の骨の負担が減った為である。
・首が小さくなったのは、技術的発達で体の頑丈さが必要で亡くなり、体全体が華奢になった為。
ただ下顎だけは退化せずむしろ拡大し頤が突出した。これはホモ・サピエンスの特徴である。俯いたときに喉を圧迫しない為に。
(人間らしさ) ブロンボス洞窟→ 人類の化粧 貝殻の首飾り
今までの研究者たちは現代人の心はヨ-ロッパで誕生したと思っていた。これは仏のラスコ-、スペインのアルタミラなどの1~2万年前の洞窟壁画は表現力豊かであったし、他ではその種の遺跡は発見されなかったから。
所がこの様にしてヨ-ロッパ人のエリ-ト意識を満足させていたが、2002年に南アでとんでもない発見があった。
海岸の崖に形成されたブロンボス洞窟、7万年前の堆積層から旧石器時代の沢山の石器が見つかった。それだけではなく、オ-カ-(酸化鉄)の塊、穴の開いた貝殻も。オ-カ-と言うのは赤褐色の酸化鉄化合物で赤い顔料で今でもペンキに使われる。これを動物の油と混ぜて化粧をしていたのだ。実際に現在もアフリカのハダ族が同じことをしている。お洒落をするというのは、他人が自分と同じであるという事を認識している証拠である。このことから、この人たちは思いやりと優しさの心が生まれていた事は明らかである。
(言葉)
10万年以上前のホモ・サピエンスが言葉をしゃべったであろうことはほぼ確実である。それは化石より判明する。
「ホモ・サピエンスの世界への拡大」
我々の祖先ホモ・サピエンスが世界へ広がっていく物語である。7万年前にアフリカの北東部に住んでいたホモ・サピエンスがユーラシアに、世界中へと広がっていくのである。ホモ・サピエンスは以前からユ-ラシアに住んでいた原人や旧人を急速に追い払い絶滅させた。それは原人や旧人よりもはるかに優れた創造的戦略的能力を使って新しい技術開発を行い様々な環境に対応し順応していったことによる。
どのように広がっていったかを実感するために国立科学博物館には新人ホモ・サピエンスが各地域に広がった追体験展示がある。
ホモ・サピエンスは優れた技術を持って、環境に対応し短期間に先住の原人や旧人を圧倒した。
(西アジアへ)
西アジアに進出したホモ・サピエンスは南アジア、東南アジアを通ってオ-ストラリアに到達し、オーストラリア先住民となった。途中の海は舟で越えた。ジャワ島に住んでいたジャワ原人は短期間で絶滅した。オ-ストラリアに渡ったホモ・サピエンスはここの気候風土がアフリカに似ているので初期の体の特徴がほぼ温存されている。細身で手足が長く、肌の色は濃く現代アフリカ人と似ている。
(東アジア)
4世紀にはホモ・サピエンスの集団は東アジアにもやってきて、旧人を滅ぼした。この頃日本列島にもやってきて、最初期の
日本列島人となる。詳細は後述する。
(シベリア)
しかし厳冬のシベリアにはなかなか進出できなかったが、徐々に防寒グッズを考案してやがて北方アジア人として定着する。後に日本人集団の形成に係わってくる。この地は食肉資源が豊富であった。
(クロマニオン人) 仏 クロマニョン洞窟で化石が発見された。旧石器時代後期の人類。ホモ・サピエンスと同種。
クロマニオン人は西アジアから東ヨ-ロッパに浸入。徐々に先住のネヤンデルタ-ル人を圧迫した。これはクロマニオン人が持つ技術と文化であった。これが現代ヨ-ロッパ人の祖先である。ネヤンデルタ-ル人はこの様な変化に対応せず旧態依然たる技術レベルであったのでロマニオン人に圧倒されたのである。但しクロマニオン人にも弱点があった。
肌の色が濃かったので日差しの少ない北西ヨ-ロッパではビタミンD不足で子供がクル病になり育ちにくかった。しかし徐々に対応して肌の色が白い子供が増えて環境に対応していく。
(アメリカ大陸)
厳寒のシベリアに住んだホモ・サピエンスは、1万年前にベ-リング陸橋を渡って北米大陸に渡りアメリカ先住民となった。そしてア
メリカ西部・南部、アマゾンなどの熱帯ジャングルを抜けてアンデス山脈を越え、更にパタゴニア山脈最南端にまで到達した。
「ホモ・サピエンスと原人・旧人との交雑」
(ネヤンデルタ-ル人とホモ・サピエンス)
1990年化石の研究からネヤンデルタ-ル人とホモ・サピエンスとは形態的に区別できるようになった。又現代人のDNAの研究から
ホモ・サピエンスは20万年前にアフリカで誕生したことも分かった。この事からネヤンデルタ-ル人とホモ・サピエンスは別の親類種である事がはっきりした。
(ネヤンデルタール人と西アジアやヨーロッパ人との交雑)
しかしその後クロアチアで発見されたネヤンデルタール人化石からDNAが解析され、初期の状態とは違ってヨ-ロッパ人とアジア人は
ネヤンデルタ-ル人と交雑していることが分かった。原人や旧人は種を構成する集団としては絶滅してしまったが、しかし人類は過去の交雑からそれぞれの遺伝子を受け継いでいる。特にユ-ラシアで長く暮らしていたネヤンデルタ-ル人はこの地に固有の病原菌や害虫に対する免疫を持っていた可能性があり、我々の中でもそれが今も活躍しているのである。具体的には今後の研究による。
「コメント」
今回も論理的につながらない所があって苦慮したが、これ以上は追求せず纏めた。識者が読めばすぐ誤りには気付くであろう。
しかしまだ分からないのは、それぞれの人類が長い長い苦難の旅に何故出て行ったのか。まだ分からない。
未知のユートピアを目指したのか・・・・。