220118③「天岩戸神話のオオミヤノメの働き」

(前回の話)

前回は天の岩戸神話に登場する神の内、アメノウズメに焦点を当てて話した。神がかりしたシャーマンとしてのアメノウズメという見方だけでなく、アマテラスに仕える女神として考えると、この神の働きは、彼らにとってアマテラスの怒りを宥めて、心を和ませるものであった。同じ様に、アマテラスの子孫である天孫が、天から地上に降りるいわゆる天孫降臨の際の異変には、他の神々は恐ろしくて対応できなかった。道に立ち塞がる、姿形の怪しい異形の神と、アメノウズメは、天の岩戸の段と同じ様に、易々と渡り合う。そして猿田彦と言う正体を露わにし、天孫を無事に地上に下ろすことに

成功する。このアメノウズメに対して「古語拾遺」オズシと形容している。オゾシと同意義で、
気が荒いとか気性の激しい事を示す言葉である。神話にはこうした気の強い女性が多く出てくる。思い返すとイザナキの神が、約束を破って黄泉の国マイザナミの神の姿を見てしまった。恥をかかせたと言って、追いかけてくる。

 

(アマテラスの強さ)

アマテラスはスサノオの勝さび(勝者らしく振舞う事)の乱暴によって、これに怒ったアマテラスは天の岩戸に閉じこもってしまう。隠れるので弱いように見えるが、スサノオがアマテラスの所に別れに来た時には高天原に攻めてくるかと思って武装して雄叫びをあげている。アマテラスの岩戸に籠るのも怒りの表現である。日本書紀には神功皇后も腹に子がいながら、男装して戦に出ていく。この様に、

神話には強い女性が続々登場する。

(オオミヤノメ)

「古語拾遺」の天岩戸神話には、古事記、日本書紀に書いてない、天の岩戸から出た後のアマテラスが記されている。

フトダマノの子として登場するのが、オオミヤノメ命。天の岩戸から新殿に移った、アマテラスに女官として仕えたとされる。内侍(女官)として善言美詞(麗しい詞)で、君臣の間を和ませたとある。

(斎部氏の祭祀)

オオミヤノメはフトダマの子なので、斎部(いんべ)氏に関係する神である。宮殿や神殿の建設に関わった斎部氏は、建物に関する祭祀も担当した。宮殿を祀る延喜式の大殿祭(おおとのほがい)、そして宮殿の門を守る御門祭(みかどほかい)を、斎部氏が担当していたが、特に大殿祭にはオオミヤノメの神が登場するので、見てみよう。

まず、大殿→天皇のいらっしゃる建物、新嘗祭、大嘗祭の行われる建物を指す。ここで建物をおめでたい言葉で祝し、吉事を祈る。これは祝詞である。この斎部氏の担当する大殿祭での祝詞は、10世紀に編纂された延喜式の法典の中にある。言霊への信仰に基づいて、聖なる祝詞が儀式の中で唱えられ、神々への感謝が捧げられるのである。天の岩戸では、祝詞を担当するのはアメノコヤネなので、中臣氏担当であるが、大殿祭は、宮殿の造営と祭に関わる斎部氏の担当となる。

オオミヤノメは建物の中で、人と人との関わりを守護する神である。オオミヤノメは内侍の如くとあったが、天皇の側に居て、麗しい言葉で、君臣の間を和らげるのである。

(オオミヤノメの祀られている所) 大宮売神社  オオミヤノメ=アメノウズメ

オオミヤノメは古事記、日本書紀には登場しないが、古代の祀りに重要視されていたことが延喜式から良く解る。

では祀られる場所を見てみよう。古代には神祇官と言う神官の役所があった。ここでは、天皇を守護する八柱の神がいる。宮中八神と言われる。オオミヤノメはこの中に含まれる。宮中の酒の醸造の司とされている。又大嘗祭の稲を刈る田でも、御食(みけ)の八神として祀られている。

オオミヤノメを祀る神社として、大宮売(オオミヤノメ)神社 京都府丹後市。古代の祭祀遺跡が境内にある。丹後の二宮。

ここでは、オオミヤノメとアメノウズメ、ミヤビの神とも称している。つまり、アメノウズメという事である。

(ミヤビの神) 一体のようなであろうか 国学者平田篤胤

江戸時代の国学者 平田篤胤は、オオミヤノメをミヤビの神と称している。またの名をアメノウズメとも言い、同一視している。このミヤビと言う言葉の意味について、平田はこう説明している。そのミヤビの心は、宮人(みやびと)の始めなり。宮中の宮人振りから来ている。そして、親子、兄弟、夫婦の中を取り持つ神としている。民間の祭りでは、姿は桶の上に乗り、植物を身にまとったアメノウズメの姿で描かれている。まさにアメノウズメである。

 

今日の話は、アマテラスが天の岩戸から出てきた後の話であった。天の岩戸の中では、出てきたアマテラスの近くに居て麗しい言葉で、アマテラスの心を和ませた女神として説明されている。

延喜式の中でも、オオミヤノメは、人々の心を慰め、そして天皇と君臣の間を和め、仕える人々が

勝手な行動をしないように見守っている神である。

 

オオミヤノメの働きは、実際に天皇に近侍し、宮中の神祭に関わる内侍という女官に例えられて

おり、宮殿の中で、神に仕える女性の原型ともいえる。

 

「コメント」

 

今日は同じ話の繰り返し。要するに、アマテラスに仕える女神で最高位で、宮中でも同じという事。宮中女官の原型。