詩歌を楽しむ「サイモンとガ-ファンクルの歌を楽しむ」上智大学教授 飯野 友幸
⑥ 131108 「ミセス・ロビンソン」と映画「卒業」
「ハリウッド映画の変化」
1960年代になるとそれまでのハリウッド映画では見られない斬新な凝った手法を駆使した映画が出てくる。
「俺たちに明日はない」「イ-ジ-ライダ―」「明日に向かって撃て」そしてS&Gの歌が全面的に使われた「卒業」がある。
これは1967年の作品。以上あげた作品の主人公は、従来の伝統的ハリウッドスタ-とは全く違う。
・例えば「卒業」のダスティン・ホフマンはそれまでのハリウッドスタ-の長身美男子とは違う新しい主人公像を作り上げた。
・これらの映画は反抗的若者達が主人公で、anti-heroを前面に出している。
対抗文化(counter culture)の流行した1960年代を象徴している。
・対抗文化(counter culture)とは、既存体制に反抗する若者中心の文化の事である。
・勿論反抗する若者を描いた映画はこれまでにあった。「乱暴者」マーロン・ブランド 「理由なき反抗」ジェ-ムス・ディ-ン
これこそ第二次大戦後のbaby boomer の若者文化である。しかしこれらの映画には新しい所はない。
・1960年代の映画はAmerican New Cinemaと呼ばれる。仏のヌーベル・バ-グに影響されて誕生。この特性の一つは、これまで映画音楽というとプロの音楽家に任せていた。これに反してこのNew Cinemaはすでにあるポピュラ-音楽を使うようになる。
「映画 卒業」
・ニコルズ監督はS&Gの歌を聴いてこれを全面的に使おうと思った。ただこの映画の為に作られたのが「Mrs.Robinson」。軽やかで皮肉っぽい曲が実に効果的。
・アンバンククラフトが演ずる有閑マダムのMrs.Robinsonは脇役ながら主役を食って存在感がある。その演技力は光る。
・最後の場面(結婚式で花嫁をさらって逃げる場面)は印象的であるが、個人的にはホテルでMrs.Robinsonが主人公を誘惑するところが見応えがある。
・Mrs.Robinsonの娘(イレイン)とデートするが、Mrs.Robinsonはこれを止めなければ娘に情事を話すと脅す。
仕方なく主人公(Benjamin)はイレインに告白して、二人は一旦は分かれる。
・この後イレインをバ-クレ-まで追っかけ、最終場面の状況となる。
・各場面で「Sound of Silence」、「Mrs.Robinson」が流れ効果的。Billboard Hot 100で一位。
「この時期の背景」
・第二次大戦後の好景気が続き、S&Gのような郊外族(Suburbian)が新しいライフスタイルを作った。
・冷戦の深刻化、朝鮮戦争の勃発、赤狩り(マッカ-シ-)、公民権運動の高まり
・これらの事が積もり積もってベトナム反戦や学生運動に代表される反抗と騒乱の時代となる。
・「卒業」の舞台にもこのような状況が反映されている。
・主人公(Benjamin)は一人っ子、大学を優秀な成績で卒業して実家に帰るところから始まる。ここにSound of Silenceが流れ、これがはまっている。卒業記念パ-ティが切っ掛けで豊かな中流生活に退屈しているMrs.Robinsonとの火遊びが始まる。
・精神分析医がMrs.Robinsonを診察している場面があり、精神分析が当時流行っていたことが分かる。
「その後」
・映画「真夜中のカウボ-イ」ダスティン ホフマンの音楽を頼まれたが断り、これで映画音楽と縁が切れた。