詩歌を楽しむ「オノマトペのすてきな関係」 明治大学教授 小野 正弘
⑫ 130920 「ゆあ-ん」の中也、「うかうか」の金子みすず~詩その三
今日は昭和の詩におけるオノマトペを見てみよう。
「中原中也」 詩人。東京外大。ランボ-、ヴェルネ-ヌの影響を受け、生の倦怠を詩作。「山羊の歌」「在りし日の歌」
・「山羊の歌」の中の(サ-カス)
~サ-カスは高い梁、そこには一つのブランコだ・・・・・ゆあん、ゆよょん、ゆやゆよん
このオノマトペは、ブランコが撓みながら揺れ動く様。ヤ行音と、長音(長く伸ばす音)、ん(はねる音)を組合わて表現している。ヤ行音は揺らいだり、撓んだりする意を表す→ ゆさゆさ、ゆるゆる、よたよた、よれよれ
このように、実感の伴う、巧みなオノマトぺを作り出せるのは詩人の才能である。「言葉だけ言えても、これを表現できない」のでは、意味がないのはどこの世界でも同じである。
・(一つのメルヘン)
~秋の夜は・・・さらさらと 月の光が川原の小石に射す有様を表す
軽さとよどみのなさの状態
・(春の日の夕暮れ)
~月の光のぬめらんとする・・・・・これは「オノマトペ辞典」にも出ていない。ぬめぬめ→滑らかで滑りやすい様子からの連想
・中原中也の詩のオノマトペは、人をびっくりさせるものもあるが総じておとなしい。但しオノマトペの命を発揮させる力を持っていて、印象的にしている。
「金子みすず」1903年 - 1930年大正時代末期から昭和時代初期にかけて活躍した童謡詩人。大正末期から昭和初期にかけて、26歳の若さでこの世を去るまでに512編もの詩を綴ったとされる。代表作には「わたしと小鳥とすずと」や「大漁」・「曲馬の小屋」 切ない情感が漂う詩~楽隊の歌にうかうかと・・・・・浮き上がるという語に関連があり、心が落ち着かない様、うっかりと今ではサ-カスに切なさ、哀感等の情感を共有できる人は少い。
「去年の今日」
~去年の今日の今頃は・・・積み木の城はがらがらと 建物や土などが激しく崩れ落ちる様とその音を表す
「紋付」 秋の暮れ方を、紋付に見立てている。
~静かな秋の暮れ方が、綺麗な紋付着てました。・・・・海はきらきら・・・近のお山はちらちらと
「谷川俊太郎」 1931年、日本の詩人、翻訳家、絵本作家、脚本家。
「二十億光年の孤独」
~人類は小さな球の上で眠り起き働いている。・・・・火星人はねりり、きるる、はらら→火星人の行動を表している。
火星人の様は見当もつかないがオノマトペを通じて、想像すると楽しい。
「秋は」
~私は歩いている。ノ-トを抱えて。二十世紀の原始時代をてくてく歩いている。てくてく→長い道のりを頼りなげに歩く様。
まだ人類は未熟であると言っている。
「静かな雨の夜に」
~いつまでもこうして座っていたい。新しい驚きと悲しみが沈んでいくのを聞きながらいつまでもこうしてひっそりと座っていたい。ひっそり→物音を立てず静まり帰っている様。
近代から現代まで詩のオノマトペを見てきたが詩とオノマトペがとても素敵な関係にあることがわかる。