科学と人間「毒と薬の歴史をひも解く」               日本薬科大学教授  船山信次

190201⑤「古代の薬と毒-魔女と暗殺と大航海時代2

この時期、胡椒を求めて大航海時代が始まった。

「新大陸発見 コロンブス」

イタリアの航海者、スペイン女王イサベラの援助で胡椒を求めてインドを目指す。1492年出発し、西インド諸島・キュ-バ・ハイチに到達。数度の航海でジャマイカ・南アメリカ・中央アメリカに。ヨーロッパに南米原産のトウガラシを伝えた。

コロンブスはここをインドと思い込み、トウガラシはインドの胡椒の一種とみなした。(Red pepper)全て「ペッパー」と呼ばれるようになった。

「国名」

国の名前はその地の植物と関連している場合がある。

・ブラジル

 ヨ-ロッパで染料に用いられているブラジルスオウに似た木で、やはり染料に使われていたこと

 から、ポルトガル語で赤い木を意味する「パウ・ブラジル」と呼ばれ、この国が後にブラジルと

 呼ばれるようになる。

・インド

 ギリシァロ-マ時代以降、ヨーロッパはインディゴ(暗青色染料)をインドから輸入していた。

 この語が国名の由来とも云われる。

「インディゴ」   染料

先述したように、インド国名の由来とも云われる。

古くは植物の藍から採取したが、現在はアニリンを原料として合成される。インディゴを含む植物は沢山あるが、わが国ではタデアイとも言われるが、藍から生成する。(タデ科イヌタデ属の一年草)

・徳島の藍染め(すくも染め)

 乾燥した藍葉を室で発酵させ、それを突き固めて藍玉(すくも)を作る。すくもを水甕で発酵させ、

 藍色に染色する。

「世界四大飲料」

 全てにカフェイン及びカフェインに似たアルカロイドを含む。

・茶  茶も紅茶も原料は同じで、加工法の違いである。

・紅茶

・コ-ヒ- アラビア原産

・ココア 南米アマゾン流域原産

ココアに多いがチョコレ-トにも、カフェインに似たアルカロイドが含まれていて、犬・猫には毒である。

それはこのアルカロイドを代謝できないからである。

「錬金術」

古代エジプトに起り、アラビアを経てヨ-ロッパに伝わった原始的な化学技術。卑金属を金銀などの貴金属に変化させる目的で行われた。成功しなかったが、種々の化学物質を扱う技術の発達に寄与した。

当時、「賢者の石」というものを錬金術師は探していた。→卑金属を貴金属に変えると信じられた

物質。

・パラケルルス ルネサンス期のスイスの医師・化学者・錬金術師・思想家。

 医学に化学を導入し、水銀化合物・酸化鉄などを用いた。

 「この世の中に毒とか薬はない。その使う量によって決まる」とした。

「麦角-聖アンソニ-の火」→LSD

・麦角とは麦類その他イネ科植物の子房に寄生する麦角菌が作る菌核 12cm。麦の穂に黒くて

 小さな粒。

・麦角に含まれるアルカロイドは様々な毒性を示す。中世ヨ-ロッパで、しばしばパンによる中毒を

 起こしていた。現在では製粉段階で麦角菌の除去が行われている。

・聖アントニウス派の修道士が、中毒の治療術の優れるとされた事から「聖アントニウスの火」と

 呼ばれた。聖アントニウスに祈ると治癒すると信じられていたからである。

・麦角は循環器系や神経系に毒性を示す・

  手足が熱さを感じて、やがて黒くなり壊死を起こす(聖アントニウスの火と呼ばれる理由)。

  また血管収縮を起こし、手足の壊死にいたることもある。妊産婦の子宮収縮。脳血流不足による

  痙攣・精神異常・意識不明。 

「LSDの合成」 リゼルグ酸ジエチルアミドの略 

麦角菌の研究の過程で、1943年スイス人科学者ホフマンによってLSDが合成された。

強烈な幻覚剤。

「細菌による病気」

研究によって細菌によって発病する病気が分かってきた。

・天然痘 WHOによって、1980年根絶宣言

・ペスト  1994年インド ムンバイで発生

・マラリア  ハマダラカの媒介するマラリア原虫による感染症

  結核・エイズと並ぶ三大感染症。死亡者数70万人。

  以前は、キニ-ネが唯一の特効薬であったが、キニ-ネが効かないものもある。

 現在は、抗マラリア薬としてキニ-ネの数十倍も強力なものが合成されている。 

「キニーネ」 →モーブ

南米に自生するキナの樹皮から出来るアルカリ性のアルカロイド。抗マラリア薬、解熱剤。

原住民は解熱剤として用いていた。偶然にマラリア治療効果が発見され、17世紀からヨ-ロッパに

輸入されるようになった。

キニ-ネ研究の過程で発見されたのが、世界初の人工染料モ-ブである。紫色の色素。

モ-ブはフランス語で「アオイ」を意味する。

・大村智   北里大学名誉教授

イベルメクチン(アフリカの風土病の抗寄生虫薬)の開発で2015年ノ-ベル生理学・医学賞

・トゥ・ヨウヨウ(中国の女性科学者)

  大村教授と同時受賞。マラリア治療薬 ア-テミミニンの開発。原料はキク科ヨモギ属のセイコウ。

 

 

「コメント」

色々な発明開発が、別の目的の途中でなされることが実に多いことに気付く。何か懸命にやって

いれば、何かが出てくるという事。それにしても、知らないこと、知らない言葉だらけ。