科学と人間「毒と薬の歴史をひも解く」               日本薬科大学教授  船山信次190208⑥「近世の薬と毒1-わが国への漢方と蘭方の導入と展開」

今回は江戸時代の薬と毒である。江戸時代の初期、中国から「本草綱目」という書物が到来。

薬に大きな影響を与えた。江戸時代中期にはオランダ医学が導入され蘭方と呼ばれ、それまでの

医学は漢方と区別された。この蘭方と漢方の歴史を話す。

この時代の特徴としては有機化学という学問が勃興したことである。そこから各種のアルカロイドが発見された事。

(注)アルカロイド  

高等植物体内に存在する、窒素を含む複雑な塩基性有機化合物の総称。ニコチン・モルヒネ・コカイン・キニ-ネ・エフェドリン・クラ-レ・・・。植物体中では多く酸と結合し塩を形成。少量で毒作用や

感覚異常等特殊な薬理作用を呈し毒性を持つ。 

「本草綱目」 中国の代表的な本草書。明の李自珍の著、52巻。1890種の漢薬を記す。

  林羅山が入手し、家康に献上。江戸時代を通じて我が国の本草学(薬の研究)に大きな影響を

  与えた。この本の本草がわが国の何に当たるかの研究が盛んになされた。

「漢方と蘭方」

  江戸時代中期となるとオランダ医学が導入され、それは蘭方といわれ、従来の医学は漢方と

  いわれる。江戸時代を通じて漢方は研究され応用され、漢方は日本独自のものになって行く。

  平賀源内(博物学者・戯作者)、蘭学・物産学・本草学に詳しい。寒暖計の複製・鉱山開発・

  エレキテル(摩擦起電機)・・・・。

「小石川植物園」 

   江戸幕府の薬草園。後に養生所が園内に設立される。青木昆陽のさつま芋試作も行われた。

   世界に薬用植物園由来の有名な植物園は多い。

 ・チェルシ-薬用植物園  1673年ロンドン王立薬剤師協会により設立

  王立園芸協会主催のフラワ-ショウは有名

 ・キューガ-デン(王立植物園 ロンドン)  120ha 3万種の植物

「オタネニンジン」御種人参

  種子が将軍から与えられたのでこの名がある。オタネニンジンは、ウコギ科の多年草。

  原産地は中国から朝鮮半島及びロシア沿海州。薬用で、朝鮮人参・高麗人参と呼ばれる。

  野菜の人参はセリ科で別物。小石川薬草園で栽培し、各大名に生産を奨励した。

「植物に関わるオランダ人」  出島の三学者

  ・ケンペル  

    オランダ人といわれるがドイツ人医師、出島に2年間滞在。ヨーロッパにおいて日本を初めて

    体系的に記述した「日本誌」の原著者。植物学を中心に研究を行い、出島に薬草園を作った。

  ・ツンベルク
    
スウェ-デン人医師。リンネの弟子。2年間出島に滞在。多数の植物標本を持ち帰った。

     日本人に医学・薬学・植物学を教えた。

 ・シーボルト

  ドイツ人医師、植物学者。6年間出島に滞在。鳴滝塾を開き、医学・植物学を教えた。日本に

    ついての様々な資料を収集。シーボルト事件で国外追放となるが、再来日。幕府の外交顧問にも

    なる。「日本」「日本植物誌」「日本動物誌」の著者。眼科医土生玄碩に、瞳孔散大(散瞳)剤と

    して、日本にあるハシリドコロの根茎にアトロピン成分があると教えた。又シーボルトの帰国に

   際し、国禁の日本地図を天文方高橋景保から送られたのが、シーボルト事件に発端となった。

「宇田川榕菴」(ようあん)

 江戸自体後期の幕府天文方。西洋の植物学・化学を翻訳して初めて書物として表した。

 「菩多尼迦訶経」(ぼたにかきょう)→菩多尼訶は、植物学を意味する。

  「理学入門 植物啓原」→化学入門書

 元本は、イギリスの科学者ウィリアム・ヘンリ-の「Elements of Experimental Chemistry」、当時

 爆発的にヒット、これが日本にも伝わったものであった。ここに、酸素・水素・窒素・炭素・酸化還元

 等の化学用語が記されている。

「ジギタリスとコンフリ-」 この話が出てきた前後が不明

 ・ジギタリス ゴマノハグサ科ジギタリス属の多年草  

 毒草と思われているが、強心剤として生薬。日本薬局方にも収載されている。

 ・コンフリ- ムラサキ科の多年草 ヒレハリソウ  薬用 コーカサス原産

  ヨーロッパでは薬草として広まっていた。日本には明治時代に導入され、昭和40年代に健康食品

  としてブ-ムとなる。

  両方とも大量に服用すると、肝臓障害を引き起こすとして、現在は販売禁止となっている。

「石炭酸(フェノ-ル)」

 19世紀後半まで、細菌学が発達していないので、外科手術は敗血症との戦いであった。

 イギリス人医師リスタ-は、敗血症の原因である傷口の腐敗は細菌によって起ることに気付き、

 石炭酸を用いて死亡率を激減させた。

「モルヒネ」 アヘンに含まれるアルカロイド 

 1804年ドイツの薬剤師セルチュルナ-により、分離された。この薬が「夢のように痛みを取り除く」と

 いう意味で、ギリシア神話の夢の神「モルペウス」に因んで、モルフィウムと名付けられた。 注射器

 の発明と相俟って、南北戦争で多用され、兵隊病といわれるモルヒネ中毒を起こした。

「プラントハンタ-」  ロバ-ト・フォ-チュ-ン

 この時代、ヨ-ロッパ特にイギリスは植物相が貧弱なので世界中から植物を移入しようと努めて

  いた。この移入する人を、プラントハンタ-という。日本をタ-ゲットにしたのが、ロバ-ト・フォ-

  チュ-ン。既に日本より日本原産のアオキのメス木は移入していたが、オス木を求めて来日。

  中国よりチャノキをインドへ持ち込んだので有名。日本中国での印象を記した

  「幕末日本探訪記-江戸と北京」で「日本人の特色は庶民でも生来の花好きであること。

  露地に入っても花が見られる。花を愛する国民性が、人間の文化的レベルを証明するものである

  ならば、イギリスより勝っていると思える。」

「華岡青洲」 

  江戸後期の紀伊の外科医。漢方蘭方を学び、外科学に貢献した。麻酔剤を研究し、世界初の

   全身麻酔下での乳癌手術に成功、記録のあるものでは世界最初。チョウセンアサガオ・トリカブ

   ト・トウキ等6種類の薬草に麻酔効果があることを発見した。

「麻酔薬」

 ・笑気ガス(亜酸化窒素)に麻酔効果があることが発見されたが、弊害もある為、現在は麻酔補助

  役として限定的な使用となっている。

   ・エーテル(硫酸エ-テル・ジエチルエ-テル)

   アルコ-ルに濃硫酸を加え蒸留して出来る液体。6世紀にイスラム世界で発見されていたが、

      19世紀にアメリカでモ-トンにより手術成功。世界で使われる様になる。しかし引火性が問題と

      なり、今は先進国では使われていない。溶剤としての使用が主である。

  ・クロロホルム

     エチルアルコ-ルに水とさらし粉を混ぜて蒸留して得られる揮発性の液体。19世紀に発見

      される。麻酔性があるが、重篤な心毒性、不整脈を引き起こす危険性がある。

麻酔とは  

    薬物で人為的に疼痛を始めとする感覚を失くすことである。医療で患者の苦痛を軽減させると

    共に、筋の緊張を抑える目的で用いられる。

 

「コメント」

今回も苦労した。講義の言葉がヒアリングできず、調べるのに大苦労。よって内容には誤謬多し。

医療の歴史は人類の歴史であることを再認識。