190308⑩「現代の薬と毒1-抗生物質やその他の新薬の発見」

 

現代の薬と毒に関する特徴は、抗生物質の発見とその応用である。人類が最初に手に入れた抗生物質はペニシリンであるが、それが青黴由来であった。抗生物質というと、黴と思う人が多いが、

実際に新しい抗生物質の殆どは、土壌放線菌である。土の中に生息しているものであり、無限に

存在する。

 

「ペニシリンとストレプトマイシン」

フレミングがペニシリンを発見したのは1929年であったが、実用化されるのは第二次世界大戦前後である。ペニシリンは、細菌感染による病気の一部には著効を示したものの、当時大問題であった結核には奏功しなかった。しかし、人類は結核菌に奏功する抗生物質のストレプトマイシンを手にする事となる。ワックスマンたちの業績である。

「エバ-メクチン」

西アフリカに蔓延するオンコセルカ症の著効のある抗生物質エバ-メクチンが、大村 智により伊豆のゴルフ場の土より発見され、この風土病から、多くの人々を救った。

 

ここで一般の人には馴染みの薄い抗生物質の研究の手順の話をする。()

 

その他の新薬の話をする。

「アルテミシニン」

ヨモギ属のクソニンジンからマラリアに対する活性成分であるあるアルテミシニンを単離したのは、

中国の女性科学者トヨウヨウである。その過酸化物の化学構造は極めて不安定であり、単離及び

治療薬としての実用化は困難であった。

「カイニン酸」

駆虫薬として古くから用いられていたマクリ(カイニンソウ)の有効成分として、大阪薬専の竹本 常松によって、抽出された。とても飲みにくいものであった。

「リファンピシン・イソニアアジド」

リファンピシンというカナマイシン系の抗生物質が出たが、これは半合成抗生物質である。これと、

化学合成されたイソニアアジドの併用療法によって、結核は化学療法で治療できることになった。

標準療法に使用される抗結核薬のうちリファンピシンとイソニアジドがもっとも強い抗結核作用を

持っているが、多剤耐性の結核菌が出て問題であるが、化学療法で充分治療できる。

「ステロイド系化合物」

ステロイドとは、分子中にステロイド核と称する共通構造を持つ一連の有機化合物の総称。体内で生成され、生理的に重要な物質が多い。合成品はステロイド剤として医療に用いる。原料に使われるのは植物である。植物から得られるステロイド系化合物を色々と変換していろいろな医療品が作られている。医療品の発明の中でステロイド系化合物の発明は素晴らしいことであった。

「シメチジン」

昔、胃潰瘍は胃の手術で治療されていたが、シメチジンをはじめ抗潰瘍薬の服用で、手術は大幅

減少。医師の処方箋なしで入手出来るようになった。

「インドメタシン」

解熱・鎮痛・抗炎症作用を持つ非ステロイド系。

 

薬品開発が残念な結果になった例もある。

「ジエチルスチルベスストロール」通称 DES

かって、流産防止などに用いられた合成女性ホルモン(合成エストロゲン)である。しかし生まれた子に膣ガンとか子宮頸性の不全とかの重大な副作用が出た。現在は使用禁止。

「ダイゼリン」

イソフラボンの一種。大豆などの植物性のタンパク質製品に存在し、女性ホルモンのエストロゲンに似た作用があり、骨粗鬆症や更年期障害に用いられる。しかしこれが豆腐に入っていると、食味を

損ねる。

 

「ヤカツ(冶葛) ゲルセニウム・エレガンス

現代の薬学研究方法が、古代史研究への応用がなされたことがある。奈良東大寺正倉院に60種類の保存されていることは既に話した。「種々薬帖」である。その冒頭部分は、ジャコウ・コショウ・・・。

末尾に冶葛(ヤカツ)という生薬がある。

長年謎の生薬であった。これまで2回の研究が行われたが1990年の第二回研究で千葉大学薬学部の相見則郎教授によって、4種類のアルカロイドが単離された。これによって中国南部~東南アジア原産ゲルセニウム・エレガンズであることが判明。世界最強の植物毒をもつといわれる。

これを使用した殺人事件も発生した。

カロライナジャスミンという園芸植物があるが,ゲルセミウム科またはマチン科ゲルセミウム属で有毒である。ジャスミンと名がついているが、モクセイ科ソケイ属のジャスミンとは全く違う。

 

「コメント」

今回も耳慣れない言葉を探し当てるのに苦労。薬剤師というのを敵に回してはいけない。

毒を沢山知っているから、怖いぞ。