190322⑫「現代の薬と毒3-薬や毒にかかわる事件や事故」

 

心地よい局所麻酔で、安全で痛みのない歯科医療が受けられる。虫刺されや、頭痛なども薬で回復することが多い。

 紙おむつの普及は、お母さんを洗濯から解放した。これらは先人たちの知恵や努力の賜物である。

 一方、これまで人類が手にした化学物質は新たな危険性や災いをもたらした。

 今回は、これらの化学物質すなわち薬と毒に関する事件や事故について話す。

 

「サリドマイド薬害」

催眠薬の一種。妊娠初期に使用すると、胎児にアザラシ肢症などの奇形を生じる。

1958年大日本製薬のイソミン(睡眠薬)、 プロパンM(胃腸薬)として販売されたが、世界的薬害で1962年に販売停止。現在は、その使い方を変えることで、他の病気の特効薬として使われている。

「キノホルム」 

防腐・殺菌剤、創面・潰瘍などに外用する。ほかに、アメ-バ赤痢、細菌性下痢などの治療に用いたが、スモンの原因とされたため、1970年製造販売禁止。スモン病→急性脊髄視神経症。運動障害、視力障害。

「水俣病」

有機水銀中毒による神経疾患。1950年代に窒素水俣工場の廃液による有機水銀汚染の魚介類の摂取で、集団発生。環境汚染の食物連鎖で起きた人類史上、最初の病気である。公害の原点言われる。新潟県阿賀野川流域でも発生。

「四日市ぜんそく」

石油化学コンビナ-トから大気中に排出された二酸化硫黄など硫黄酸化物に起因して発生した喘息様症状を伴う慢性気管支炎。

「イタイイタイ病」

カルシウム脱失による骨疾患。大正以来北陸地方、特に富山県神通川流域に多発し、三井金属

神岡鉱山の未処理排水による慢性カドミウム中毒が原因。

PCB

Poly Chlorinated Biphenyl(ポリ塩化ビフェニル)の略で、人工的に作られた、主に油状の化合物。水に溶けにくく、沸点が高く、熱で分解しにくい。不燃性・絶縁性が高いなどで、電気機器などの絶縁など後半に使われた。

慢性的な摂取で体内に蓄積し、様々な症状を引き起こす。食用油生産の段階でダイオキシン類(PCBなど)が混入し、広範囲に健康被害を引き起こした。カネミ倉庫、カネカが関係した。

「アスベスト」石綿

蛇紋石の繊維状をなすもの。柔らかで、強靭。熱・電気の不良導体で、保温・耐火材料として広範に使用された。吸入すると、中皮腫・肺がんを発生させた。

「森永ミルク事件」

1955年、西日本を中心にヒ素の混入した森永乳業の粉ミルクを飲用した乳幼児に多数の死者・

中毒者を出した。食の安全性が問われた事件の最初といわれる。

「薬害エイズ事件」

1980年代(昭和55)に、血友病患者に、加熱処理してウィルスを不活性化しなかった血液凝固因子を治療に使用したことにより、多数のHIV感染者を出した事件。血友病患者の41800人が感染し、現在600人以上が死亡している。

「地下鉄サリン事件」

1995年.前年に松本サリン事件が起きた。オウム真理教という宗教団体が関与していた。

「和歌山カレ-事件」

1998年.亜ヒ酸を町内会集会で混入させたもの。

「中国からの漢方薬まがいの薬物の流入」

2002年~2005年。

センノモトコウノウ・御芝堂減肥こう嚢(オンシドウゲンピコウノウ)・茶素減肥(ちゃそげんぴ)と言う名で輸入され、これにNニトロソ-フェンフルラミンが高い濃度で検出された。ダイエット効果をうたったが、肝機能障害を起こした。ニトロソ-フェンフルラミンは、覚せい剤のヒロポンによく似た化学構造をしている。

「シブトラミン」

痩せ薬。エ-ザイから医薬品製造販売が申請されたが、却下。循環器系の悪影響有り。

「マジンド-ル」

サノレックス(一般名 マジンド-ル)は痩せ薬。覚せい剤と類似の作用を持ち、依存性や耐性などに問題が多い。覚せい剤の一種、アンフェタミン(ヒロポン)と類似している。

「リタリン」

2007年向精神薬・リタリンの大量処方事件。薬局にリタリンの大量処方が求められ、不審に思った薬剤師が保健所に届出。医薬分業で防げたこと。

「危険ドラッグ」

覚醒剤や大麻など国が指定する規制薬物や指定薬物と似た化学構造を持ち、それらと同様の作用を人体にもたらすものをいう。合法ドラッグ・脱法ドラッグなどの呼称もあるが、新たな呼称として

2014(平成26)から用いられている。

大麻については医療用大麻というのはないが、覚せい剤のヒロポン・アンフェタミンは日本薬局方にもあり、医薬品として使われている。使い方の問題である。

「ヤマカガシ」

従来毒蛇ではないという認識であったが、近年毒があることが分かった。奥歯は長く、毒牙の機能を持ち、時には致命的。

「カモノハシ」

哺乳類として唯一の毒を持つ。

「キシロカイン」

歯の治療などで局所麻酔薬としてよく使われる。~カインと呼ばれるように、コカインの化学構造を

参考にして作られた。

「モルヒネ」

モルヒネは麻薬として有名であるが、医薬用として効果的に使われている。投与方法が工夫されて

いるので、ガンの疼痛対策としてもっと使うべきである

「結核の薬物療法」

1970年代、普通の結核が薬物療法によって治療可能となったと宣言された。リファンピシンという

抗生物質と化学合成薬のイソアニチドの併用。

 

ここで日本の薬学と医療制度について、その歴史と現状を話す。

「長井長義」

日本薬学の祖と言われる。徳島藩蜂須賀家の漢方医の家系。長崎留学で、西洋医学と化学を勉強。下宿先が上野彦馬という写真術師の所であった。明治政府によりドイツ留学を命じられ、リ-ビッヒの弟子ホフマンの講義を聞いて、有機科学に興味を持ち、ホフマンの弟子となる。13年間在ドイツで、

ドイツ婦人テレ-ゼを伴って帰国。本来医学を目指すべしであったが、以後薬学に没頭する。

帝国大学理学部化学科・医学部薬学専任。

テレ-ゼ夫人とともに、女子教育に注力。日本女子大・雙葉学園の設立に寄与した。日本初の帝国大学卒業の化学者黒田チカは教え子。

〇薬学の目的の一つ

漢方に使用される生薬の有効成分を明らかにすることが、薬学の目的の一つとした。これは、出身が漢方医の故か。

麻黄からフフエドリンを単離し、喘息の特効薬とした。しかしその後、漢薬から他の有効成分が見付かったかというと言うと、疑問がある。元々の漢薬を代表するないしは取って代わるような化合物になっているかは確かではない。

 

「薬学教育の六年制化」 

〇旧帝大系薬学部は、薬剤師を養成していない。→薬剤師を目指していない。

日本の薬学教育は、長い間四年制となっていたが、2006年から薬剤師を養成する薬学部は六年制となった。

4年制の薬学部は主として薬学研究者の養成を目的としており、6年制の薬学部は薬剤師の養成を目的としているとされる。

奇異に感じるのは、旧帝大系の薬学部では六年制を選択するのは3割弱。→7割は薬剤師とならない。

薬学部で薬剤師養成をしない大学は如何なものか。旧帝大系の基幹大学の卒業生は、他の薬科系大学の教員となる人も多いが、これらの人々が薬剤師でないというのは、大いに疑問である。薬剤師の指導には、薬剤師であるということが望ましい。

〇薬学が魅力のある分野であるということを知って貰い、優秀な学生が集まってくれることが大切である。

「薬剤師の役割」

・処方箋に記載されている医薬品を棚から取り出すことをピッキングという。ピッキングは調剤行為なので、薬剤師以外は行ってはならない。調剤業務・服薬指導・薬歴管理が薬剤の仕事とされてきた。しかしこれは、将来AIの仕事になる部分が多い。しかし、医療と薬療を分けて、薬剤師が独立して仕事を果たすというシステム上の要請は全く変わらないと思う。すべての医薬品・衛生用品の供給や

管理の最終責任者は薬剤師であることは変わらない。

「薬学の目的」

薬学は薬の創成・生産・管理が目的であるというのは、確かであるが、実は薬学分野から生まれて

きた医薬品は多くない。塚崎朝子の「世界を救った日本の薬」に、15人が挙げられている。その分野別は、医学部6人・薬学部3人・農学部3人・その他3人。明らかに薬学部の独壇場ではない。

「医学部の教育カリキュラムに和漢薬概説の導入」

これで漢方薬が医師の機能の一つとなった。漢方に使用される生薬について、最も知っているのは薬学教育を受けた薬剤師である。生薬学・薬用植物学・・といった学問を通じて、しっかりと教育を

受けている。ただし薬剤師は、臨床家ではなく、処方箋を書くわけではないので、処方箋がないと

入手できない漢方薬が多くあるという状況では、今後どうすべきかという所がある。今後この点の

立ち位置をどうしたらいいのかと考えている。漢方医学という医療の伝統というのがあって、

漢方医学では、診断と投薬が融合しているのが漢方医学なので、医師は薬の専門家であると勘違いされている現状が、問題を難しくしている。処方箋に必要な漢方薬というのが出てきて、その場合どのように対処したらいいのかというのが、問題である。ジレンマである。1970年代に健康保険で使用できる薬剤に漢方薬が導入されたときに、治療に興味のある薬剤師は、ここに希望を見出した可能性があると思うが、今後どのように漢方と付き合っていくのかということを、大いに考えてほしい。

 

折角、薬剤師教育が4年から6年になったので、その運用の仕方を深く考えねばならない。

 

「コメント」

後半は薬学教育の在り方、ひいては薬剤師のあるべき姿についての話。長い間の思いの丈が語られているようだが、門外漢には分かりにくい。また、論点に現状及び医学界への遠慮があるのかとも感じる。医師と製薬会社との関係など、医師が薬の選択権を持って優位にあることを感じる。また、後発医薬品を、ゾロと言って使いたがらないことも聞く。難しい問題です。