科学と人間「日本列島の成り立ち」  講師 山崎晴男  首都大学東京都市環境学部教授

150227(火山活動と人類への影響)

(御嶽山爆発)

・2014年9月27日()11時52分 御嶽山噴火は死者57名、行方不明6人。戦後最大の火山災害。被害は大きかったが火山爆発の規模としては大きいものではない、寧ろ小規模と思われる。

・この噴火の原因は水蒸気爆発で、地下水がマグマの熱で熱せられ、その為に水蒸気爆発したものである。

・御嶽山は活火山として認定され、火山観測は行われていたが入山規制を行うような異常は認められなかった。災害の大きさと噴火の  規模とは比例しないのである。全ての自然現象に対して犠牲者が出ない様に予知や規制を行うことは困難である。

・火山は噴火すると地上に堆積物を放出し、地表に痕跡を残すので地質学的に調査して過去の歴史を探っている。しかし今回の噴火の規模は地表に痕跡が残るかどうかのレベル。火山噴火のレベルはVEI(火山爆発度指数)で表すが、御嶽山の噴火は最小の1レベルより小さかった。→最大はレベル8。

・御嶽山の噴火は1979年と今回が歴史上の噴火として知られているが、この程度の噴火は痕跡が残らないので今までも頻繁に発生していたであろうと推察される。

(人類の祖先は10万年前のアフリカの女性??)

・遺伝子の研究が進み、現代人→その祖先 と辿って行くと10万年前の東アフリカの女性に行きつくことが分かった。現在地球70億の人間は全てこの女性の子孫なのである。しかしこの時期アフリカにいたのはこの女性一人だった訳はない。集団として暮らしていたので他にも女性は居た筈である。その女性たちの子孫も居た筈だから、その人たちはどうしたのであろうか。→絶滅したのである。

(人類は遺伝多様性が低い  何故か?)

・又 人類は他の哺乳類に較べて、遺伝子の多様性が著しく低いという特徴がある。チンパンジ-は人間と似た遺伝子を持っているが、人間の10倍の遺伝子多様性を持つと言われる。人間は遺伝子上相互に驚くほど似ているのである。それは人間が生き残るのに有利な遺伝子を持つものだけが残ったからである。例えば低緯度地帯の人はメラニン色素が多く、これで紫外線を防御している。そうでない人は皮膚がんとなって絶滅する。

・遺伝子の多様性を高める要素の一つは、突然変異である。突然変異はある一定の時間に一定の割合で起きるので、種が分化して

時間が経てばたつほど、遺伝子の多様性は増す。逆に多様性が低いという事は、分化してから時間が経っていないこと、あるいはある

時期に体数が著しく減少したことを示す。個体数の大幅減少の時期は色々なデータから7万年前と言われている。この時期、なにが起きたのか。

(インドネシア スマトラ島のトバ火山の大噴火) →人口の大幅現象→遺伝子の多様性のなさをもたらした

・73500年前、インドネシアスマトラ島 トバ火山がカルデラ噴火を起こす。現在もその後の直径50km 以上のカルデラ湖が存在する。

この時期、最大の大噴火でVEI8の巨大噴火である。噴火物は地球上を覆い、インドにも降下し現在も厚さ6mの地層が認められる。

噴煙柱(噴火の時上空に舞い上がる火山灰の柱)、これが上空35000mまで上昇し成層圏に大量の塵とSO2が溜まり、

硫酸エアゾルとなって7年間も地球の上に滞留した。その結果、太陽光の透過度が減少し、太陽エネルギ-が大幅に減少した。

火山の冬と呼ばれる環境の悪化が起きた。地球の平均気温は3~5度低下し、部分的には15度低下した所もあった。

・熱帯林、温帯地域でも森林と草原に大きな寒冷化による被害が発生し、回復には10年掛かった。

・これをきっかけにして急速な気温低下が起き、その後1000年間亜氷期の状態が続いた。この環境悪化で人類の個体数は大幅に

 減少し推定人口は3千人から1万人となってしまった。現在なら絶滅危惧種である。人類最大の危機となった。

・100万年前にアフリカを出て、ユ-ラシア大陸を東に移動した北京原人やジャワ原人などホモエレクトスは絶滅した。トマ噴火を

 生き抜いたのは一部の人類とヨ-ロッパの北にいたネヤンデルタ-ル人のみであった。

(人類はいつから衣服を身に付け始めたか)  シラミでの説明

ゴリラやチンパンジ-には体毛があるのに人間にはない。これは人類の生活環境が森林から乾燥したサバンナ気候の土地に移り、

大きくなった体や脳()を冷やす為に汗をかくようになったためと言われる。体毛が濃いと汗をかくことが困難になるからである。体毛がないと寒さに弱いため、おそらく毛皮のようなものを身に付けるようになったのであろう。衣服は遺物として残らないので、この辺の事情はシラミが説明してくれる。

・人間に寄生するシラミは、人間から離れると数時間で死滅する。人類にはアフリカにいる頃から、頭シラミというシラミがいて、人類のわずかな体毛に寄生していた。ところがある時期から人シラミが現れる。頭シラミから人シラミに分かれたのは人類が衣服を付ける様になったからと言われる。そして人シラミのDNAの突然変異を数えて分かったのは、約7万年前と計算される。この時期は先ほど述べた「トバ火山噴火」による火山の冬と時代と合致する。

つまり人類が衣服を身に付け始めるのは、トマ噴火による激しい気候変化の時であった。

(日本列島には人類の歴史を変えてしまうような大噴火はあったのか)  喜界カルデラの大噴火

7300年前、縄文時代の前半に南九州で大爆発が起き、火砕流が大量に発生した。この火砕流は薩摩半島の南50kmの海中にある喜界カルデラから噴出したものである。喜界カルデラは深さ500mの海中に在り、東端に薩摩硫黄島がある。ここが平家物語で

俊寛僧都が流刑になった喜界が島と言われる。

・喜界カルデラの噴火はVEI7に相当する大噴火であった。火砕流は海上を走り南九州の薩摩半島、大隅半島を埋め南九州全体に

 広がった。これにより南方系縄文文化は壊滅し、植生の復活には500年掛かったと言われる。

・この大噴火の噴出物は東北地方まで飛散し朝鮮半島や中国でも認められる。現在南九州に分布しているシラスはこの火砕流の堆積物である。現在はシラスの上に黒土が発達し肥沃な土壌となっている。

・日本列島では平均すると1回/1万年でこのような大規模噴火が起きている。