科学と人間「日本列島の成り立ち」  講師 山崎晴男  首都大学東京都市環境学部教授

150320科学と人間⑪(日本の平野を作る活断層)

「活断層について」

今回は日本列島に住む人にとって身近な存在である活断層について話をする。活断層は身近にあって驚く人もいるが、実は本当に

身近にあるもの。しかしそのことを知らない人がとても多い。そして活断層の恐ろしさだけが強調されている。活断層の存在が社会に

混乱を招くのではなくて、寧ろそのような活断層についての誤解・偏見が社会を危うくしていることを心配している。

本日は活断層について詳しく話をする。

一般の人は活断層についてどのようなイメージを持っているか。多くの人は地震を引き起こす恐ろしいものと思っている。「あなたの家は活断層に上にある」と言われて、引っ越しを考える人までいる。確かに活断層は大地震を引き起こすかもしれないので、人間にとって恐ろしい存在であることは間違いない。そして活断層への対策と言えば、その上に構造物を建てないこと、活断層の上を避けるという事が提案されているだけ。これを法制化しようとする動きがあるが、私は反対の立場をとる。それは活断層に対する土地利用規制が、リスク即ち人間に対する危険性からの立場ではなく、活断層調査の必要性の観点から言われているからである。

地震が起きて人命が失われることは、活断層以外にも沢山ある。其れなのに何故活断層上の土地利用規制だけが議論されるのだろう。

活断層上の土地利用規制の立場を取る研究者と議論したことがある。彼は「やらないよりやったほうがリスクは減る」といった。確かにこれによるデメリットが無ければやったほうが良いであろう。しかし、土地利用規制は、居住者や土地所有者に大きな負担を強いることにという

デメリットを上回る社会的メリットが無くてはならない。やらないよりやったほうが良いというのは単なる気休めでしかない。

「活断層とは」

(過去数百万年間にずれたことのある断層。将来も活動する可能性のあるもの。地形にずれが残っていることなど、過去に活動した痕跡がある。)広辞苑

地表付近で観察される断層とは、直線的な接触面を境にして、両側の岩石がずれて接しているものである。但しこれは全ての断層に当てはまることなので、「活」つまり生きている断層なのか、死んでしまった断層なのかは分からない。

「活断層の判定」

活断層かどうかは最近の地質時代これは10万年とか数十万年とかで活動しているかどうかで判断する。地質時代に活動を繰り返してきた断層は、将来も活動する可能性があると判断するからである。

その場合、最近の地質時代とはいつのことをいうのかが問題になる。この判定には時間の特定はない。260万年前から12万年と言う人もいる。

従って活断層の認定では「最近の地質時代」と言うのを厳密に確定せず、活断層認定の目的に応じて判定基準として、「最近の地質時代」を独自に決め、断層の活動状況から将来の活動の可能性を判断すべきと思う。

例えば原子力発電所の安全評価では後期更新世(13万年前)以降に活動が認められる断層を活断層としている。

これまでの活断層や地震断層の調査から活断層の活動間隔はとても長く数千年が普通と言われる。

「内陸型地震と海溝型地震」

・内陸型地震  小規模で低頻度

内陸型地震はこれまでの最大はM8.0、大部分はM7クラス。地震断層の長さは最長80Km、断層のずれは10mが最大である。

海溝型地震の100年程度の繰り返し間隔や、最大M9クラスに較べると発生規模からみると小規模である。

その原因は日本列島にかかる地殻の歪、これはプレ-トの沈み込み運動でもたらせされるものであるが、その大部分は巨大海溝型地震で消費されてしまう。ここで消費されなかった少ない歪が内陸に残り、長い間蓄積されて限界に達した所で放出され内陸型地震と

なる。

活断層が引き起こす内陸型地震は、海溝型より小規模で低頻度であるが、ある時間の巾で見ると侮れない存在である。

明治以降の150年間で、死者1000人以上の大震災が12回発生しているが、海溝型地震によるものが6回、活断層による内陸直下型地震が6回。活断層は低頻度つまり滅多に動かないはずなのにそして規模も小さいはずなのに、大規模な海溝型地震に匹敵する

被害を引き起こしている。これは、日本には活断層の数が多いことによる。もう一つの理由は、活断層による地震は、人口密集地域の近くで起きるからである。

「活断層への人々の認識」

活断層による内陸型地震は災害の範囲が限定される。昔は情報網が発達していないので、地方の災害の事は他地域では話題にならなかった。が、今はマスコミの発達で詳細に知らされている。

1995年の兵庫県南部地震の時の、野島断層の活動は上下1m、左横ずれ2mw。今までの調査によると今までの累積の断層のずれは500m、過去にも同じような断層運動が起きていたとすると500回の地震が繰り返されてきたと推定される。犠牲者は6500人で戦後最大の地震災害となった。この地震の原因が内陸断層の運動であったため、日本中で活断層が注目された。この結果、各レベルで活断層は恐ろしい、構造物を建ててはダメとのイメ-ジが広まってしまった。これは一般の人々だけではなく、マスコミや研究者まで定着している。これは活断層の風評化ともいえる現象である。

「原子力発電所問題」

原子力発電所の再稼働が進まないが、それの原因は活断層問題である。原子力規制庁は活断層を、将来活動する可能性のある

断層としているが、この判定は極めて難しい問題である。更に進行を難しくしているのは、断層に対して工学的対策、つまり地盤を補強したりすることを一切認めていないことにある。この背景には、活断層はとにかくその上にある構造物を全て破壊する、断層のずれを

くいとめることは出来ないという考えに立っているからである。今後免震構造の断層版の開発が急がれる。

「今後の考え方」

自然はその中で生きている人間に、メリット・デメリットを与える。断層の場合はどうであろうか。

・活断層は生活の場である平野や盆地を作っている。日本の大きな平野や盆地の縁には、必ず活断層がある。これは活断層が地形の凹凸を作り、下ったほうの地域に河川が運んできた土砂が堆積して、扇状地や沖積地の様な平坦地を作る。日本の様に山地斜面の多い所では貴重な生活の場所である。逆に言えば、人が住む近くには必ず活断層があるという事なのである。→活断層によって作られた平野や盆地に都市が発達したのである。

・活断層があるから「危ない、危ない」と言っても何の問題解決にはならない。

・対策と言っても具体的な方法は余りない。我々は活断層から多くの恩恵を受けている訳で、それを踏まえて共存の道を探るしかない。

・我々にできることは一人一人が、活断層や将来その地域で起きるであろう地震の実態を理解し、蒙るであろう被害を最小限にとどめる努力をしなければならないことである。

 

「コメント」 今日の講義のポイントは次の二点と理解した。

・海溝型地震はなかなか起きないが起きると大きい。内陸直下型地震はある間隔で確実に都市中心に起きる。このことがよく

 分かった。

・しかし活内陸直下型地震を引き起こす断層は無数にあるので、これを避けて生活することは不可能。よって構造物の倒壊を防ぐ

 工夫でしのいで行くしかない。