科学と人間「植物の不思議なパワ-」                                甲南大学教授 田中修

150626植物たちの香りの力

21世紀というのは私達人間と植物達との共存共栄の時代である。その為には植物が秘めている力を理解し、その力を出させる必要がある。その力は色々あるが、今日は香りと言うタイトルで話す。

「グレ-プフル-ツ」

・アランという研究者が、女性に色々な香りを付けさせ何歳に見えるかという実験を行った。殆どの香りでは実際の年令に見えるという答えであったが、グレ-プフル-ツの場合は6才若く見えるという結果が出た。化粧品には色々な香りが入っているがそれには様々な効果を期待しての事。

・グレ-プフル-ツの香りと言うのは特別で、大坂大学の研究グル-プがこの香りをかぐだけでダイエット効果があると発表した。

是には理論的裏付けがある。主たる成分にル-トカンという成分がある。これは交感神経を刺激する。交感神経が活性化すると、興奮・緊張状態となる。故に脂肪は燃焼される。

・近年話題になったのは、グレ-プフル-ツの香りの成分の中のリモネン。これは褐色細胞を活性化するという効果が分かった。

褐色細胞の働きは、運動をしなくても脂肪を燃焼させるというもの。同時に分かったのは、この褐色細胞を活性化させるものに、コ-ヒ-の

カフェイン・唐辛子の辛味成分のカプサイシン・唐辛子の非辛味成分のカプシエイトがある事。

・このように、グレ-プフル-ツの香りを嗅ぐと、ダイエット効果があるという理論的裏付けがはっきりしたのである。

「ぺバ-ミント」

グレ-プフル-ツとよく似た効果で嗅ぐだけで痩せられる香りがある。これがぺバ-ミント。これを米の大学が実験で証明した。

それは被験者に一定時間ごとにペパ-ミントを嗅がす。その人は空腹感を感じないというデータが出た。ペパ-ミントの香りは、人の交感神経を活性化させ、興奮状態・緊張状態を作って戦闘態勢にしてしまう。その時に人は、食欲を感じにくくなるのである。食欲減退効果で、においを嗅ぐだけで痩せられるという事。

「ラベンダ-」

是は眠りを誘う母なる香りと言われる。個人差はあるが、一般的にそういわれる。ラベンタ-は副交感神経を刺激する。副交感神経が刺激されると、リラックス状態となり、安心して眠りに落ちる。但しリラックス状態は食欲を増進する。よってよく寝る人は太り易いし、太っている人は良く眠る。

「わさび」

・香りの出る火災報知器が話題になって、イグノ-ベル賞を受賞。イグノ-ベル賞と言うのは、ユ-モアがあり考えさせられる独創的な研究に与えられるもの。耳の遠い人は日本には600万人いるといわれ、火災報知器の音には反応できないので、香りで火災を知らせるように考案された。わさびは日本特産で、わさびそのままでは香りは発生しない。辛味を出そうとすれば、すりつぶす作業が必要。わさびには、シニグリンという辛味の元になる成分が入っている。その物自体では、辛味も香りもない。すりつぶした汁には、シロミナ-ゼという物質が含まれている。このシロミナ-ゼが、シニグリンと反応すると、アクリルイソチアシネ-トという物質を作り出す。これが辛味、香りの元になる。

わさびの花言葉は「目覚め」、合成されたアクリルイソチアシネ-トが火災発生時に噴霧され、人を覚醒させるのである。

「ピ-マン」

苦みを感じさせる香りと言うのもある。ピ-マンである。この苦味の成分は長い事分からなかった。それがあるきっかけで分かった。

それは唐辛子のある品種にハラペ-ニョあるいはハラペノと呼ばれる品種がある。是の突然変異を利用して全く苦味のない子供ピ-マンである。この苦味のないピーマンと従来の苦みのあるピ-マンとを比較することで苦味の何によっているかかが分かってきた。共通にあるのはクエルシトリン。これは苦くない、渋みだけ。ピ-マンだけにあるのはピラジン。クエルクエルシトリンにピラジンの香りが一緒になると苦味が出ることが分かった。昔から「ピ-マンは花を抓んで食え」と言われてきたのは、この理由である。

「フットンチッド」

森林浴、これは何を浴びているのか。例えばヒノキ。寿司屋の桶、陳列の下に敷く葉、まな板、風呂・・・・。ヒノキの香りの主成分はヒノキチオ-ル。1930年、レニングラ-ド大学のト-キン教授は「植物は体からカビや病原菌を遠ざけたり、殺したりする物質を出している」という概念を発表した。その名前をフットンチッドと名付けた。フィトン→植物、チッド→殺すもの(ロシア語)⇒植物が出す殺すものという意。

日本人はこんなことを改めて云わなくとも昔から知っていた。この効果を利用してきていた。例えば

柿の葉寿司・笹団子・マス寿司・チマキ・カシワ餅・シソ・竹の皮・鯖寿司の竹の皮・ヨモギ餅・サクラ餅・・・・・・

 

本当に香りにこのような作用があるのかという疑問に対する答え。

密封できるタッパウェア二つにつきたての餅を入れる。一方にわさび、一方はそのまま。一定時間経つと、ワサビの方は変わらず、無い方にはカビが生える。

「香りの効果」の例

・リママメ

登場するのはリマ豆・ナミハダニ・チリカブリダニ。リマ豆はハダニに葉を食べられると、香りを出して、ダニの天敵のチリカブリダニを呼び寄せる。

・キャベツ

キャベツは青虫に食べられると、香りを出してアオムシコマコバチを呼び寄せる。そうするとこのハチは青虫に産卵し、その幼虫は青虫を食べてしまう。

・トマト

ハスノヨトウ(夜盗虫)に食べられると、トマトは香りを出してと隣りのトマトに知らせる。そうすると隣のトマトは感知して、夜盗虫の嫌がる物質を作る。このような行動は、沢山の植物で見られている。イネ・キュウリ・ナス・・・・

 

「まとめ」

植物の不思議なパワ-として、以下の話をしてきた。

・食物を作り作りだす力

・人間の健康を支える力

・栽培で引き出される力

・多様性から生み出される力

・人間と共生・共栄する力

まだまだ植物が持っている力で未知の分野は沢山ある。植物の話は尽きることが無く奥が深い。