科学と人間「生物進化の謎と感染症」                         講師 吉川 泰弘(千葉科学大学教授)

151106⑥ネズミがもたらす病気~ラッサ熱、ハンタウィルス肺症候群

「齧歯類の概況」

今日はネズミのもたらす感染症について説明する。(げっ)()類といえばまずネズミがある。一般にネズミと言うと家の周りに

いるドブネズミ、クマネズミ等を思い浮かべる。ハツカネズミを思い浮かべる人もいるかと思う。時には野外でハタネズミに出会った人もいるだろう。ネズミの属する齧歯類は7千万年前に哺乳類が爬虫類から分化した時の原型と言われる程、長い歴史を持つ動物である。その為に古くから種々の微生物と接して多くの病原菌を保有している。

・陸上で生活している哺乳類は現在4千種と言われている。その中で最も種の数が多く400属2千種と、陸上哺乳類の

半分の動物が齧歯類である。その分布は極地を除く世界中である。齧歯類で最も大きいのが30~50kgのタピパラ、

最小は5gのトビネズミ。同じ齧歯類と言っても差は大きい。殆どの種は小型で、1年間に何度も出産するものもあり多くは多産で繁殖力が高い特徴を持っている。

・生息域は多様であり、リスの様に樹上に生息する種もあり、35種はムササビ、モモンガの仲間で滑空できる。

・齧歯類の多くは害獣である。ドブネズミ・クマネズミなどはノミ・ダニなどの様に人に感染症病原菌を伝播する。

・他方マウスやラッドは実験動物として医学や薬学の実験に利用され、ハムスタ-やモルモットは実験動物だけではなく最近ペットとして人気がある。

「齧歯類による感染症」

●腎症候出血熱

 旧大陸特にアジアのウィルスで起きる腎症候出血熱は潜伏期間が10~30日程度。突然の発熱があり、疼痛・悪心・

 脱力で始まり血圧低下やショックが起き、8日頃から腎機能障害となる。排尿障害、尿素窒素の上昇、意識障害が起き

 死亡する例が多い。病源体はハンタ-ウィルスである。

  ・野生ネズミがウィルスを保有し流行地域を形成している。ネズミの多い田舎や、戦争で流行地に人が浸入したために

   流行が起きる。田舎型・戦争型

  ・都市のドブネズミやクマネズミがウィルスを保有しており都市を中心に流行を起こす都市型

  ・実験動物のラットが感染源である実験室型

無症状でウィルスを保有している宿主は糞や尿にウィルスを排出している。その為に人は鼻からウィルスを吸い込み

飛沫感染を起こす。また唾液にも大量に含まれているので、咬傷により人に感染する。人から人への感染はない。

旧大陸のウィルスの標的器官は腎臓、新大陸のそれは肺である。肺の場合は急速で数日で呼吸困難となり重症化すると24時間以内に死亡する。1993年に米国で大流行した。

●ラッサ熱

ラッサ熱病名出血熱のひとつ。ラッサウイルスによる。マストミスとよばれる齧歯類が自然宿主である。感染者のおよそ80%が軽症であるが、約20%が重症となり致死率は感染者の12%程度。毎年10万人以上が感染し、5000人程度が

死亡している。妊婦は重症化し易く、胎内死亡、流早産を起こしやすいラッサ熱は1969年ナイジェリアのラッサで発生したので命名された。

●出血熱ウィルス

出血熱ウィルスは新旧大陸に広くネズミと共に分布している。ネズミ属の中で親から子に垂直感染、持続感染し受け継がれていく。ネズミ属は世界中に適応放散し、ウィルスも変異していくので厄介である。

 ウイルス感染症には、出血を伴う症状を呈するものが数多くあるが、特に、エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱の4疾患は、患者からの二次感染によりしばしば大きな流行をおこす。
エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱は、アフリカのサハラ砂漠以南に分布し、クリミア・コンゴ出血熱はアフリカ、

東欧、中東、中国西部と広く分布する。いずれも、臨床的には、発症初期には突発的な発熱、頭痛、咽頭痛等のインフルエンザ様の症状を呈し、重症化すると出血、ショックによりしばしば死に至る。ウイルス感染者やウイルス性出血熱患者の血液や体液、排泄物を介してヒトからヒトへ感染するため、院内感染や家族内感染により大流行が発生する。他の重篤な出血性ウイルス病とはこのヒトーヒト感染の有無により区別される。
日本ではこれまでラッサ熱患者が1例報告されているのみであるが、出血熱ウイルスの潜伏期の感染者が帰国または

日本に入国後発症する可能性があり、検疫上重要な感染症である。

●ネズミ属のこれらのウィルスが人で流行する原因

  ・何らかの理由によるネズミの異常繁殖

  ・気候変動などによる長雨でネズミが住居範囲に入り込む

  ・人の生活圏が野生のネズミの生活域に拡大している

  ・キャンプなどアウトドア生活の機会の増大で野生ネズミとの接触

「今回のポイント」

  ・ネズミを中心とする野生齧歯類は沢山の細菌感染の宿主である。要するに病原菌の保有動物である。

  ・齧歯類由来の感染症はバイオテロのツ-ルとして使われる危険性が懸念される。

  ・多くの危険な感染症の病原菌を保有している事を十分理解するべきである。輸入ペットなどは厳禁。

 

「コメント」

動物園などで齧歯類を幼児のおもちゃとして飼っているが大丈夫かな。触らせない方がいい。

それにしても講師は専門的な事を深く話すのでまず理解不能。この記録もWEBで調べながらやっと書けた。

もう少し素人向けに話してよ。