科学と人間「太陽系外の惑星を探す」       井田 茂(東京工業大学 ELSI副所長・教授) 

160729④「プラネット・ハンタ-たちの苦闘の歴史」

 

「アストロメトリ-法」

今回は系外惑星をどうやって見つけてきたかを話す。恒星の周りを回っている惑星を見つけるのは非常に困難である。

何故かというと恒星は自ら光り輝いている。惑星はその光を受けて反射しているだけ。更に中心の恒星よりはるかに

小さいので、明るさの差が大きくて、且遠くにあると恒星も惑星も一点に見えるから。強烈な光の恒星のわきに、見分けられない位の惑星があると観測は極めて困難。だから間接的に見分けるしかない。間接的にと言うのは、惑星の光り方で、恒星の光り方の変化を見分けるのである。具体的には長期に亘って中心の恒星を観察し続けることである。

1940年代に系外惑星探索が始まった頃に使われた観測方法は、恒星の位置を精密に測る「アストロメトリ-法」と呼ばれる方法である。  

 ・恒星のふらつきをとらえる。

   惑星が回っていると恒星は惑星の重力の影響を受けてふらつくので、恒星のふらつきを捕らえれば惑星の存在が

   分かる。惑星と恒星はその二つの重心を中心にお互いに回る。恒星の方が圧倒的に重いので、両方を合わせた

   重心は恒星の中心のすぐ近くにあり、惑星は大きく動くが恒星も僅かではあるが動く。この動きをとらえるのである。

 ・惑星の発見→失敗

   観測が始まってから系外惑星発見の報告が相次いだ。だが結果的には全て否定された。

   結果は微妙なので、観測機材や解析方法が異なる複数のチ-ムが独立で同じ結果を出して初めて信用される。

   観測機材や解析方法には固有の誤差があり、それを天体観測のデータと見誤ることが多々あったのである。

   この為ほとんどの発見は否定された。

「ドップラ-効果」を使った視線速度法 →位置でなく色の変化で見ようとした。

   惑星が回っていることによる恒星のふらつきを、恒星の位置で測るという今までのやり方「アストロメトリ-法」では、

大気の揺らぎや望遠鏡そのものの誤差があるので、正確性に問題があることが認識された。

恒星のふれを、位置探査ではなくドップラ-効果を使った方法で観測しようととする動きが、1995年頃に始まった。

惑星の影響を受けて中心星(恒星)は地球から見て、周期的に近づいたり遠ざかったりする。この恒星から光は

ドップラ-効果で、周期的に青くなったり赤くなったりする。つまり、恒星からの光の色が周期的に変化しているのを

観測すれば、そこに惑星が回っているのを検出できることになる。これを「視線速度法」「ドップラ-法」と呼んでいる。

(ドップラ-効果)

ドップラ-効果の例としては、救急車のサイレンが近づく時は高く、遠ざかる時は低く聞こえるという現象である。

近付く場合は、音の波は押し縮められ波長は短くなり、振動数が高く(音が高く)なる。

光も波なので、近づいてくる天体が発する光は押し縮められて、波長が短い(振動数が高い)光になり(青くなる)

遠ざかる天体の光りは引き伸ばされて、波長が長くなる(赤くなる)

そして天体が発する光の色は空気の揺らぎに余り影響されないので、近づいているのか遠ざかっているのかが

非常に精度よく測定できる。

この発想で1980年代から再度探査が始まった。

 「系外惑星発見ラッシュ」

   「アストロメトリ-法」から「ドップラ-効果による視野速度法」採用の初期は失敗の連続で、系外惑星発見は期待

   できないのではないかとの、悲観論が出てきた。

1995年には10個、1996年には100個、今では数千個が発見された。何故この時期に急速に発見されたのか。

特に目立つ技術革新はない。見つかった系外惑星の姿が余りにも変だったので(木星みたいな巨大惑星があると

思い込んでいた)、意外にも見つかったホット ジュピタ-は周期4日。先人は4日で回るとは想像もしてなかったし、

短期間の色の変化も見逃していた。この時期からドンドン見つかるようになり、どれだけ変な惑星を見つけるかの

競争になった。

   但しこの展開の原因には、太陽系形成論の成功があった。

 

「コメント」

ドップラ-効果は音の事としか知らなかった。そうとしか教えてくれなかったし・・・。それにしても先端科学も原理原則が分かっていないと全く前に進まないのだ。高校で脱落だな。系外惑星探査の世界も死屍累々。失意の人の山だ。