科学と人間「太陽系外の惑星を探す」       井田 茂(東京工業大学 ELSI副所長・教授)

 

160902⑨「系外惑星探索は知恵比べ」

前回は10年前にトランジット法によって「食」を使った方法で惑星が次々と見つかったという話をした。一方で、それ以外の方法が次々と提案され、様々な形の惑星が発見されるようになってきた。この時期、他の分野の研究者や若手が一気になだれ込んできたのである。

「一般相対性理論で惑星発見」

・ポ-ランドチ-ム

ポ-ランドのチ-ムが一般相対性理論に基づく重力レンズを使って系外惑星を発見したと発表した。このチ-ムは重力

レンズを使って、ブラックホ-ルとか褐色矮星を観測していたのだ。この方法では中心星からある程度離れた惑星が発見され易いことになり、視線速度法やトランジット法とは得意な所が異なるのである。地球質量の数倍というような小さい

惑星も発見されるようになった。

MOAチーム(大阪大学・名古屋大学・オークランド大学の共同プロジェクト)

 共同で重力レンズを使った探索チ-ムが出来た。重力レンズ法の良い所は一回の観測で惑星の存在を確認できる事。

 問題は観測できる確率が低いこと、追試が出来ないのである。よって彼らは世界中の観測者の協力を得て、

アラ-ト・システムを作った。誰かが発見したら即座に協力網に連絡して同時に観測して貰うのである。

「アメリカ東海岸の有力大学-スピッツア宇宙望遠鏡(赤外線望遠鏡)を使っての惑星発見と大気の観測」

彼らも日本と同じで惑星探査ではスタ-ト・ダッシュから遅れていたので、別の方法での観測を始めた。宇宙論とか宇宙の始まりとかをやっている人達である。

赤外線は温度の低い天体の出す光りなので、赤外線望遠鏡ではその中心星そのものは良く観測できないが、温度の

低い惑星は良く見えるのである。これを使って惑星を発見しようとしたのである。そして大気の温度や組成を観測して

いった。

「逆光惑星の発見」

講師たちのグル-プは奇妙なことを見つけた。コンピュ-タ-・シミュレ-ションで、ホット・ジュピタ-の出来るプロセスを計算していた。何かの理由で内側に飛ばされた巨大惑星が、中心星には衝突しないで近い所で停止してホット・ジュピタ-になるという説があった。そんなことはない事を検証する為の計算である。所が、これが計算上は起きることが

分かった。中には反対方向に回る逆光惑星も半分くらいある。論文を出したが学界からは評価されなかったが、実際に

計算通り見つかるようになったのである。又もや大騒ぎである。 

「直接撮影の始まり」

今までは、系外惑星の光を直接捕らえるのは、中心星の光が惑星の姿を覆い隠してしまうので不可能であった。

直接に惑星からの光を取り出すことが出来れば、惑星の大気成分や温度が分かるのであるが。

地上で観測すると大気を通して観測することになる。すると惑星の光は揺らぐ、その揺らぎを補正すればよいという事。

これはいわばデジタルカメラの手振れ防止の原理。中心星の傍の惑星は難しいけれどもある程度離れた惑星は直接

観測できるようになった。(すばる望遠鏡などの口径8~10mの大型高性能望遠鏡)これで中心星から比較的離れた巨大ガス惑星は発見されるようになった。地球型惑星は小型で中心星から近い周期なので、この方法での発見は次世代の

口径30~40mの登場を待たねばならない。

「探査方法の変化・進化」

探査方法は視野速度法、ドップラ-効果、トランジット法、重力レンズ・・・・・・と変化・進化してきた。それによって様々な

惑星が発見された。しかしそれは夫々の方法で見つけやすいものが見つかったのである。要するに観測方法によって、見つかる惑星、範囲が違うのである。

「今までの惑星形成理論への試練」

観測方法の進化によって、中心星から遠く離れた巨大ガス惑星が発見された。この存在は今までの太陽系をベ-スに

した惑星形成理論に矛盾する事となった。逆光惑星も。調べれば調べるほど説明できないことの連続である。

 

「コメント」

観測方法の理屈は分からないけれども、何か高度成長時代の何でもありを思い出させる。若手にとっては堪えられない時代なのであろう。究極は宇宙生命体の発見なので今後が楽しみである。生きている内にお願いしたい。

本日、下記の興味あるニュ-ス。

9月6日()神奈川新聞 朝刊「見つかるか?第9惑星 海王星の先 重さ地球の10倍」

米国の研究者(マイケル・ブラウン)が理論的に存在を指摘した、この惑星を9月から「すばる望遠鏡」で観測する。

直径 地球の4倍、ガス惑星。周期 1万~2万年。国立天文台の惑星科学チーム。