230702①「キャンセルカルチャ-とは」

5回にわたってアメリカ社会で深刻化する保守層とリベラル層とによる国家の分断の状態、政治的分極化の現状を分析しどうすれば対決を乗り越えらるかを検討する。第一回のテ-マは、キャンセルカルチャ-トとは

ここ20~30年のイメージの変化

今日は分断そのものの話と、アメリカでよく使う言葉であるキャンセルカルチャ-とについて考える。日本でもこの言葉を使う人がいるが、一寸アメリカとはニュアンスが違う。アメリカ社会は分断と言われているが、どんな形で分断が進んでいるのか、そしてアメリカはどんな状態なのかは大きなテ-マである。今は分断国家アメリカ、人々は保守とリベラルに分かれて話し合えない国だというイメ-ジがある。ただこの番組のリスナ-の中で、私の50歳後半より10~20歳以上年上の人にしてみると、こんなアメリカではなかったと思っているはずである。この20~30年でアメリカは大きく変わったのである。アメリカと言えばコンセンサスの国なのだ、話し合って決める国なのだというイメ-ジである。右と左はあるがそれはヨーロッパで見るようなイデオロギ-の対立はないのではないか。どちらかというと保守が二つあって、保守の中の薄い方と濃い方の対立位の感じで、当時の教科書にもアメリカには二つの政党があるが、その政策には余り差はない、特に外交には差がないと書いてあった。所が今はヨ-ロッパよりも日本よりも、このイデオロギ-対立が激しくなってきている。さてそのアメリカが

どこへ向かうのか。

バイデン大統領の支持率 共和党支持者と民主党支持者

現状を見るのに大統領の支持率を見ていくと分析が分かり易い。現大統領バイデンの支持率は45%、不支持率55%で過半数が支持しない不人気な大統領と考えられるかも知れない。しかしそれは30年前のアメリカを見る見方である。

今はどうかというと、共和党支持者がバイデン大統領をどう見ていて、民主党支持者がどう見ているかというと、全く違う結果が見えてくる。民主党支持者の支持率は最初100%で今は85%である。国民の30%が民主党、30%が共和党、40%が無党派で徐々に増加している。共和党支持者でバイデン支持は10%以下。

共和党支持者から見れば何をやっているのだというレベルである。共和党支持者が見るバイデン大統領は弱腰で判断力が無くて国民の為にいいことをしていないというのである。一方民主党支持者にとっては国民の為にいいことをしている大統領で、素晴らしい判断をしていると見る。この差が大きい。無党派は余り投票に行かない。選挙に行く無党派の中にもいろいろな意見がある。

無党派

無党派も分かれていてその中の共和党寄り、民社党寄りという部分がある。この人たちは選挙に行く可能性が高い。

この人たちを如何に選挙に行かせるかというのが、アメリカの選挙の大きなポイントである。無党派をどうするかというのが選挙の戦いになっている。

分断

バイデン大統領の評価が民主党支持者と共和党支持者の間で大きく分かれるが、それはバイデン大統領が割ったわけではない。前のトランプ大統領も同じ様に評価をされていた。だれが割ったかというと、バイデンでもトランプでもなくて、長い間続く分断の流れが今ピ-クになっていると見る方が良い。よく分断というと赤と青のアメリカという言葉を使うことがある。赤 共和党、青 民主党。

過去の共和党支持と民主党支持 出身党派の支持者率-対立党派の支持者率

少し時代を振り返ってみる。トランプ大統領に関しては党派差、共和党支持者から民主党支持者を引いた数が最初は8割最期には9割。バイデン大統領は民主党支持者から共和党支持者を引いた数が8割、2024年の大統領選挙が近づくと9割になるかもしれない。その前の民主党オバマ大統領は平均して7割位であった。その前のCWブッシュ大統領はどうであったかというと、政権スタ-トは5割だったが、最期は67割になった。

注 高い方が自派だけの支持、低くなると反対派からの支持もあるという事。

その前のクリントンは、民主党支持者が高くて共和党支持者が低いが4割位。その前の共和党のGHブッシュは3%そのくらいの差であった。分断はあまり進んでいなかった。

GHブッシュ大統領時代の3割から4割・5割・7割~8割・9割まで増えている。

 

この30年間で大統領に対する国民に中にコンセンサスがあったものが、全くなくなっていることを示していた。この数字で今の分断が皮膚感覚で分かるのである。         

冒頭で言ったが30年前と今と大きく違うというのはここである。

政治的二極化 文化の違い 都市部と田舎

それはどういう状態なのか、何に起因するかを話す。

保守層とリベラル層の間で、世の中の見方がドントン離れて行っている。そして離れていくだけではなく、それぞれの党の中での結束がとても目立ってきた。このことを政治学の用語で政治的分極化(PolItical Poiarization)  Poiar 南極北極の極 政治的な二極化現象である。これがこの30年間に目立つようになってきた。ここ10年で特に著しい。しかもそれが拮抗している。ここがポイントである。上院下院議員数を見てもほんの僅差。数人の議員の動向で法案の採決が変わってしまう。相容れない根本の奥は何かというと、今日のテ-マであるキャンセルカルチャ-という言葉があるが、カルチャ-、文化なのである。

アメリカを見てみると都市の文化と都市でない過疎の文化である。都市は民主党支持が多くて、人口が少なくなっていく地方では共和党支持が多くなる。例えば2020年大統領選挙では民主党が多いのは西部のカリフォルニア、東部のマサチューセッツ、ニューヨ-ク、バーモント、コネチカット、ハワイであり、一方共和党支持者が多いのは南部であり中西部である。南部でも民主党支持というのはクリントン時代まではあったが今はなくなっている。

文化の違い 人種平等 女性解放 性的マイノリティ 福音派

文化の違いについてもう少し話す。それはどういうことかというと多文化的考え方、それは例えば人種平等を進めていく公民権運動、女性解放運動、性的マイノリティを保護するなどの動きというのが特に民主党支持者が多い都市部で広がってきた。

一方これに対して一寸待ってくれよと、保守層は納得していない。特に南部では南北戦争で奴隷制維持を唱えてきた所である。それで人種平等を進めるのに時間が掛かった地域であった。それを進めたのが1950~1960年代のキング牧師の公民権運動であった。憲法修正第14条で法の下の平等を決めて、法の下で平等になったはずなのに実際そうじゃない、何んとかしなければというのが公民権運動なのである。一方これに対して白人のこれまでの立場はどうするのだという意見が南部・中西部には残っている。女性解放問題にもついていけないという動きもある。又同性婚についてはこれは更に複雑である。南部・中西部はキリスト教の保守 福音派が多くいる。福音派とは何かというと 福な音=神の声なのである。神の声を信じる人たちという意味である。福音主義という言葉があるが、神の声・聖書の言葉を一字一句信じている人たちである。自己申告で国民の20~30%で、南部中西部に多く住んでいる。聖書によると結婚というのは男と女で行うもので、子孫繁栄を図らねばならないとする。即ち同性婚は聖書に書いてない、間違っているという立場である。

公民権運動というのは非白人を受け入れていくという文化の話であり、性的マイノリティ保護であり、女性解放運動というのはこれまでの男中心の社会から性の平等を進める新しい文化なのである。同性婚はまさにこれまでのキリスト教文化から逸脱して、新しい文化との出会いである。

この文化を巡って保守層が反発を強めているのである。まさに保守とリベラルの、文化の戦争なのである。

同性婚

リベラル派は多く都市に住んでいて、多文化主義的な考え方を重要視し人種平等は当たり前で、男女平等更にジェンダ-平等である。この20~30年で同性婚に対する意識は大きく変わった。同性婚そのものについてアメリカはどうなのか。

2004年リベラル派が多いマサチューセッツで認められた。他の州では積極的ではなかったが、2010年代になるとどんどん色々な州で認められてきた。最後は2010年代の半ばに当時の最高裁で議論してギリギリであったが、同性婚そのものが全米で認められるようになった。

一方南部・中西部に多い福音派の人達にとってみれば、許せないアメリカ文化の変容なので強い反発が発生した。

コスモポリタンの言葉でもあるが、どんな人でも一緒に手を携えて歩いていこう という動きがあるが、一方では均一な社会、多様でなくてシンプルな社会が良いとする人たちもいるのである。特にアメリカの場合はキリスト教的精神の存在が大きいのである。20年前に世論調査でキリスト教を信じている人は90%、今は特定の信仰がない人が増えているが、心の中には文化的伝統はキリスト教なのである。これが同性婚問題に大きく影響している。

文化的対立=生活の対立 SDGS ESG  EV(電気自動車)

  SDGS sustenabe developement goals 持続可能な開発投資

ESG environment social governance 環境 社会 統治

気候変動問題でEVをどんどん使おうという動きがリベラルが多い都市部を中心にあるが、車ではなく更に徒歩が良いという考えの人もいる。大抵の都市部というのは電車、バスがあるので何とかやっていける生活であり、車に頼らない生活が可能である。SDGS投資という言葉がある。これは持続可能な社会を維持していくという目標である。国連で決めたものである。

気候変動対策をやっている企業に、より投資をしていこうという動きが、リベラル派が多い地域で盛んである。

一方保守派が多い所では全く逆の動きがある。例えば南部中西部の過疎の地であったら、チャージする所もない状況でEVは中々難しい。ガソリン車、しかもピックアップトラックが生活の中心なのである。しかし趨勢としてはEV化は不可避で、バイデン政権の支援も進んでいる。

2000~2010年はアメリカの歴史の中で人口が移民を中心に最も増加した時である。増加した人は主として都市部に流入する。社会に変化をもたしていく。よって2010年後は大きく文化の対立も深まってしまった。先程EVやピックアップトラックのことを話す時にSDGSという言葉を使ったが、我々にとってはとても身近に感じる言葉である。国連が決めた

SDGSに沿った生き方をしようというスロ-ガンである。しかしアメリカの中でこの言葉を知っている人は余りいない。

SDGSという言葉は国連主導の言葉であるが、アメリカの中では保守層がこの言葉を受け入れていないのである。よって国家目標にはなっていないのである。ヨーロッパや日本では勿論国家目標になっている。

更にはSDGSと共にESGという言葉、気候変動対策をしている企業あるいは男女平等、ジェンダ-平等をしている企業に投資していこうという動きであるが、バイデン政権はしっかり応援している。しかしこれに対して反ESG運動というのが保守派にはある。

保守派の反ESG運動の論拠

その根拠はどういうことかというと、アメリカの人々は確定拠出型年金401K→自分の年金を株式市場で運用して、その一定額を確定拠出している。日本の中でも確定拠出年金をやっている人も多いが。最終的な結果は政府に預けるより徳になると見ているものである。確定拠出年金の所で、ESG投資を政府が推奨する動きがあるが、これに対して国民の利益にならないので推奨するのをやめさせようというのが反ESG運動である。昨年の中間選挙で共和党が下院で多数となって法案は通ったが、上院は民主党多数であるが賛成する人もいて可決されてしまった。バイデン大統領が拒否権を発動して止めた。

アメリカの立法というのは両院を通っても、大統領は拒否権を持っている。これを見ても気候変動については両党及び党内でも見解が分かれる。気候変動という事実さえも信じない人が特に南部・中西部に多く、宗教的感覚で最後は神様が助けてくれると信じている人がいる。現在の状況はその前の段階で、人々が色々とやるのは烏滸がましいとさえ言う人が福音派の中にもいる。データは色々とあるのに、気候変動を信じる信じないというレベルにアメリカはいて、リベラル派は日本と同じで、気候変動はとんでもない、対策を講じなければならないという人が多いが、一方保守が多い所では意見が分かれている。

キャンセルカルチャ- この言葉の使われ方

議会は様々な文化戦争の場であるという話をするが、その前に今日の文化という所の縦軸として話したキャンセルカルチャ-という言葉がある。キャンセルカルチャ-というのは文化をキャンセルすることである。ホテルのキャンセルとか同じ概念であるが、文化をキャンセルするというのは変である。そもそもはジョ-クから出たのである。1970年代に、あなたと私の関係をキャンセルするよ と黒人のバンドが、一寸洒落た言葉として使っていた。それからキャンセルカルチャ-という言葉がジョ-クのような形で使われて、一寸文化という重いものに対して軽い言葉で否定するもので、キャンセルカルチャ-というのをこれまでやっていたことを変える事だよね という形でこれもジョ-クのような言葉であった。日本の中でも今までやってきたことを変えるということで使われるようになった。ただ日本でこの言葉が流行る大きな切っ掛けがあった。トランプ大統領の言葉である。2020年独立記念日7月4日の言葉。2020年は日本もそうであるがアメリカでもコロナとなり、その一方で5月~6月はbiack lives matter の運動があった。

biack lives matter

これは非常に残虐な形で、黒人男性が差別以外の何物でもないやり方で、白人警官に窒息死させられた事件である。

黒人の命も大切だという運動である。全米だけではなく世界中に拡散していった。

これまでの考え方を変えなければならない という主張 

コロンブス ワシントン ジェファ-ソン

この平等を求める運動の中にこういうのがあった。そもそもこれまでアメリカの様々な見方を変えなければならないという動きである。例えばこういう事である。アメリカを発見したのはコロンブスであるが、この言い方には問題がある。すでにNative American が住んでいたではないか。発見したのではないという訳である。そもそも初期のアメリカのいわゆる

植民時代そして初期の大統領の多くが、今の観点からすると問題があった。例えばワシントン大統領は奴隷を持っていた。更に近年大統領としてどうだったかという見方をされるようになったのが、三代目のジェファ-ソン大統領。

大土地所有者、大量の奴隷を所有、奴隷に対する虐待。一方で独立宣言を作って 人は生まれながらにして平等である その権利は守るべきである といった。この人が結局、奴隷制の中で利益を

享受した人であった。

言っている事とやっていることが違うではないかということで評価を見直す動きがある。又彼らの銅像は撤去すべきではないかと動きもある。昔のヒ-ロ-の銅像は抑圧の象徴ではないかという訳である。biack lives matter 運動にはこの銅像撤去の考えも入っている。

トランプ大統領の反撃 キャンセルカルチャという言葉を使った

これに目を付けたトランプ大統領が2020年7月4日の独立記念日に、「あのbiack lives matter 運動の奴らは、これまでのアメリカの文化を否定するとんでもない暴徒だ、我々の国を作った偉大な大統領達を否定し銅像を撤去するなんてとんでもない。この暴徒のとんでもない運動がこのアメリカを破壊している。暴徒は鎮圧しなければならない。」
と演説した。これは明らかに保守派の意見を代弁して、保守派の意見のPRである。2020年はコロナの年でもあるが大統領選挙の年でもある。いってみればbiack lives matter 運動に対して、それをキャンセルカルチャ-だと云い、リベラル派の行き過ぎだというレッテルを貼ることによって、自分のPRにしたのである。

アメリカにおけるキャンセルカルチャという言葉は、平等や公正性を求める社会変革を茶化すいわゆるスルー、保守の捨て言葉なのである。あいつはキャンセルカルチャ-だからというのである。この言葉が日本に来たのはその保守の捨て台詞ではなくて、日本ではこういう風に使う。

日本でのキャンセルカルチャ-という言葉の使い方

その人の過去にあったことを判断して、その人を否定するという使い方である。

それは過去を見て今の人を判断するキャンセルカルチャ-である。むしろ過去の事を見過ぎることはいけないのだ。
過去にとらわれ過ぎて、今の判断が歪んでいるのだという意味で使われている。

トランプ大統領がこの言葉を大きく使ったので、この言葉のキャッチ-さというか分かり易さ、何かを否定するということが日本でも使われるようになって、しかしかなり異なることに使われているのである。このキャンセルカルチャ-という言葉でよく言われるのがequityという言葉に対する保守派の拒否感である。

Equity とは何か 人々は同じだけもらうのが当然である

Equityとは何かというと、平等とか公平性。どういうことかというとよく使われる例で説明する。

野球場にいって壁の向こうにある野球を見ようとする。一人は壁より背が高いので普通に見ている。もう一人は中くらいの背なので全部を見られないので、少し椅子の上に乗ると見ることが出来る。もう一人は小さくて椅子に乗っても全く見えない。だから平等に椅子を与えると、背の高い人はより良く見えて、真ん中の人は丁度見えるようになって、小さい人は余り見えない。これはequity 公平ではあるが、公正 ではないのではないか。全員に公正であるのは何かというと、背の高い人には椅子は要らない、真ん中の人には椅子一個、小さい人には椅子二つとすると見えるようになるとすれば、椅子二つ必要であるという。世の中というのはこのequity公平性が重要である。
これこそが公平性である。こういう言い方に対して、保守派はリベラル派が言ってることは悪平等なんだと非難するのである。人々は同じだけもらうのが当然であって、社会福祉などに甘えてはいけないという。頑張った分だけ貰うべきで、頑張っていない人に余分に与える必要はない主張する。このequityという言葉に対して、保守派は嫌悪感さえ持っているのである。Equityを求める動きこそキャンセルカルチャだという保守派の人々が大勢いる。更に今の保守派の中でも

一番目立っているのは、共和党の大統領候補デサンティスフロリダ州知事である。

共和党の大統領候補デサンティス フロリダ州知事

この人に有名な言葉がある。wokeness との戦い。これを根絶する戦い をしなければならない。 wokeness とは社会正義に関わる状態について、気づきの状態にあるだけでなく、更に問題解決を図ろうとする状態。目覚めた という意味のwokeを名詞形にした造語。意識が高くて人種平等とかジェンダ-平等とか同性婚とか言っている奴らの考えは間違っている。そのwokenessを根絶しなければならない というのを、大きな主張としている政治家である。そんな人が大統領候補の有力な一人というのは驚きである。

キャンセルカルチャ-という言葉の、日本での使い方は間違っている

日本の中でキャンセルカルチャ-という言葉が広がっているが、理解は表層的で、本当はキャンセルカルチャ-という言葉の裏側には保守派の言葉、リベラル派への嫌悪感が含まれている事を分かっていない。キャンセルカルチャ-はとんでもない という言葉は保守派しか使わない。

アメリカの現状

いずれにしても文化が国民を分けていて、公平性さえ一概に言えない。公平ならいいではないか当たり前と思っていた戦後の色々な考え方が、保守派はそう思わなくなっているというのがアメリカの現実なのである。となると文化の違いというのは分かりあうのは大変である。更に言うとアメリカの世論というのはなくて、どっちの世論だと確かめなくてはならない。気候変動に関して、ESG運動に関して、同性婚、LGBTQ・・・。そしてアメリカの政策が動かないのはこの分極化、文化による分断、両派の拮抗状態によるので常に対立状況にあって、何か大きな政策変更を行うと対立側から猛烈なクレームが出て来る状況にある。特に気候変動とか所得再分配とかいう政策は中々動かない。バイデン大統領の最初の2年間は両院は多数派であったので、気候変動・所得再分配・コロナ対策・子育て支援のような民主党リベラル派が望むような政策が立法化され政策になっていた。一方昨年2022年の中間選挙で共和党が少しだが下院で多数派になったので、共和党はこの流れを止めようとしている。しかし基本的には物事は動かない状態である。アメリカは大統領、両院の三つがどれかが欠けると物事が動かなくなる。

驚くことに景気そのものの見方も、保守とリベラルでは違っている。景気は一つであると思うが例えば今の状況については、失業率は非常に低い。1960年代以降最低である。そして新しい雇用が増えていると同時に、経済は立ち直っている状態である。しかし共和党から見れば、バイデン政権は無駄遣いしているという。この状態は過去からそうである。オバマ大統領の時にももうリーマンショックから回復していたが、共和党は いや回復していない。2008年に共和党大統領候補のマケインが当選していたら、もっと早い回復であったという。2012年にロム二-が当選していたら、もっと良くなっていたと。共和党支持者にとってはいずれも生ぬるい景気回復なのである。トランプ政権の時にはリーマンショックからの回復もあって結構景気は良かったが、その時に民主党は 景気が良いと言っているがやっていることは格差拡大である。所得再分配的なことを止めて金持ち優遇なのだ、こんな景気拡大は人々にとってプラスにならない。経済指標や

それをどう解釈するかも政党によって割れている。こんなことは30年前には無かった。

アメリカには外交で有名な格言がある。

外交に関する格言 政治は水際で止まる しかし最近は止まらなくなった 予算案 パリ協定離脱 TPP

これはどういうことかというと、何かもめていてもアメリカは最後にはコンセンサスを作る という、特に外交問題での歴史がある。これが今は水際で止まらないのである。例えば2010年代にアメリカの財政状況。イラク戦争、アフガン戦争で財政がひっ迫していたのは2009年。その時に予算のひっ迫状況を立て直して健全化させる法案を作ろうとしたが出来なかった。このため防衛費なども不足して、外国に負担を要請することになった。国内政治が水際で止まらなくなった例である。もう一つ例を挙げる。パリ協定である。気候変動の為の国際的枠組みとして、アメリカを中心にオバマ政権の時に関わった協定である。気候変動そのものはリベラル派の考えということで、トランプはこんなものは離脱するとした。
分極化の時代で両党が拮抗しているので、大統領が変わったらこれまでのアメリカの方針が大きく変わってしまうのである。水際で止まるという議論さえもない。更にもう一つ例を挙げる。TPPは新しい自由貿易協定で日本とアメリカが中心となって、同じ法の秩序を守る国家の中で自由貿易を深めて豊かになろうという協定である。そもそもアメリカ主導で日本でも色々と議論されていた。アメリカの議論は全く動いていなかったが政府主導で提案されていた。そのTPPについて、トランプ大統領候補はアメリカにとって全くよくない、雇用が外に出ていくだけだ、こんな自由貿易協定はマイナスだと言い出した。オバマ政権にとっては折角の自由貿易協定であり、その向こう側には中国という新しい経済大国に対して自由主義陣営は結束して牟対応していこうという狙いもあった。狙いも水際で止まることもなく、2016年選挙の時にはそもそもTPPを推進していた民主党のヒラリ-クリントン元国務長官もやらないとまで言い出した。

 

水際で止まることが出来ないというこの分極化の時代はポピュリズムの時代でもある。ポピュリズムの時代なのでパリ協定もTPPもうまく動かないのである。同じようなことが今後も出てくるであろう。

アメリカの分断というのは国民にとって大きなマイナスになっていく。そしてそのマイナスは他の国にも影響していく。その修復は結構手間と時間が掛かる。次回は様々な文化戦争の諸相ということで、ヘイトクライム・銃規制・同性婚・移民問題について具体的に話を進め、この文化を巡る政争がいかに重く中々理解しあえないことを話す。

 

「コメント」

気前のいい世界のリーダ-であったアメリカが、自信を無くして内に閉じこもった巨人となってしまった。それは何故か。国として歴史が無くて若すぎるのか。