211113紫式部日記⑦「舟遊び、七日の産養(うぶやしない」

前回からの続きで、一条天皇の第二皇子敦成親王の産養と六日目の舟遊びに進む。まずは五日の産養の続きを読む。

 

「朗読1」誕生後の祝の続き。ゲームをしたり、場合によっては歌会、そして、引き出物が位に

     応じてなされる。

上達部、座を立ちて、御橋の上にまゐりたまふ。殿をはじめたてまつりて、儺()うちたまふ。かみのあらそひ、いとまさりなし。歌どももあり。「女房、さかづき」などあるをり、いかがはいふべきなど、くちぐち思ひこころみる。

めづらしき 光さしそふ さかづきは もちながらこそ 千代をめぐらむ

「四条の大納言にさしいでむほど、歌をばさるもるにて、声づかひ、用意いるべし」など、ささめきあらそふほどに、こと多くて、夜いたふふけぬれにや、とりわきても指さでまかでたまふ。禄ども、上達部には、女の装束に、御衣、御襁褓やそひたらむ。殿上の四位は、袷一かさね、袴、五位は袿一すさね、六位は袴一具ぞ見えしし。

「現代語訳」

公卿たちは席を立って、渡り廊下の上にお出でになる。そこで道長様を初めとしてゲームをしておられる。高貴な人が賭け物をしているのは、余り好ましいものではない。やがて祝いの歌などが詠まれる。「女房、盃を」などと言われた時に、どんな歌を詠んだらいいかなどと、口の中で試作してみる。「四条の大納言(藤原公任)に歌を詠んで差し出すような時には、歌は勿論、声の出しようにも気配りが必要でしょうね」などと互いにひそひそ話している内に、何かと事が多くて、夜も更けて来て、取りたてて名指しで歌を歌うこともなく、退出されてしまった。道長様からの引き出物は、公卿たちには、

女の装束、若宮の御衣、御襁褓であったろうか。

殿上人の四位には、袷と袴、五位には袿一式、六位には袴一式。

「講師」

紫式部は、歌を用意していたが披露する機会はなかった。掛詞を多用した自信作であったのに。

歌の会の中心は四条大納言 藤原公任。多趣味の人で、和漢朗詠集も作っている。盃をさされたら、歌を歌うのが作法である。公任は歌の発声にもうるさかったらしい。

 

「朗読2」座興に公卿が若い女房を船に乗せて遊んでいる。

またの夜、月いとおもしろく、ころさへをかしきに、若き人は舟にのりて遊ぶ。色々なるをりよりも、おなじさまにそうぞきたる、様態、髪のほど、くもりなく見ゆ。中宮の和歌女房達など、端近くに座っていたのを、若い殿上人が誘い出して、舟に乗せたまふ。かたへはすべりとどまりて、さすがにうらやましくやあらむ、見出だしつつゐたり。いと白き庭に月の光のあひたる、様態、かたちも、をかしきようなる。

「現代語訳」

次の日、月がとても美しく、風情のある頃なので、若い女房達は舟遊びをする。色々な色の衣装を着ている時よりも、皆同じ白い一色の装束や髪の様子は清らかで美しく見える。中宮の若女房達を、

若い公卿たちが誘い出された。一部の女房達は残ったが、やはり羨ましいのか、池の方を見ている。

とても白い庭に、月の光が射して、その光に映えた女房達の様子は風情のあるものであった。

 

「朗読3」天皇お付きの女房達も来る。道長はこれにも愛想を振りまいて、引き出物を贈る。

北の陣に車あまたありといふは、上人どもなりけり。藤三位をはじめにして、色々な命婦などぞ聞こえはべりし。くはしく見知らぬ人々なれば、ひがごともはべらむかし。舟のひとびともまどひ入りぬ。殿出でゐたまひて、おぼすことなき御けしきに、もてはやしたはぶれたまふ。おくりものども、しなじなにたまふ。

「現代語訳」

北門の辺りに牛車が沢山止まっているのは、天皇付きの内裏の女房達が来たのである。藤三位(藤原師輔の娘・繁子),を初めとして、お歴々のの女房と聞いた。しかしも詳しくは知らない人達などで

間違っているかもしれません。

突然のことだったので、舟遊びの若い人も慌てて家に戻った。道長様がお出になって、気軽に歓迎したり、冗談を言ったりされる。来た来客の女房達にもそれぞれに引き出物を出された。

 

「朗読4」七日の夜は公式の産養。勅使も来る。中宮様がお相手をなさる。

七日の夜は、おほやけの御産養。蔵人の少将を御使ひにて、もののかずかず書きたる文、柳筥に入れてまゐれり。やがて、返したまふ。勧学院の衆ども、あゆみしてまゐれる、見参の文どもまた啓す。返したまふ。禄どもたまふべし。

「現代語訳」

七日の夜は、朝廷主催の御産養である。蔵人の少将を勅使として、御下賜品の名を書いた目録を、柳筥に入れてこられる。中宮様はそれを御覧になって、そのまま返される。勧学院の学生たちが、列を整えて参入する。その参加者の名簿を御覧に入れる。これもすぐお返しになる。これらにも引き出物が下されるであろう。

 

「朗読5」御帳台の中宮の様子を誉めそやしている。これも女房の役目であろう。

今宵の儀式は、ことにまさりて、おどろおどろしくののしる。御帳の内をのぞきまゐらせたれば、かく国の親ともてさわがれたまひ、うるはしき御けしきにも見えさせたまはず、すこしうちなやみ、おもやせて、おほとのごもれる御有様、つねよりもあえかに、若くうつくしげなり。小さき灯炉を御帳のうちにかけたれば、くまもなきに、いとどしき御色あひの、そこひもしらずきよらげなるに、こちたき御髪き、結ひてまさらせたまふわざなりけりと思ふ。かけまくもいとさらなれば、えぞ書きつづけはべらぬ。

「現代語訳」

今夜の儀式は朝廷の公式の御産養なので、一段と盛大に騒ぎ立てている。中宮様の御帳台を覗きこんだところ、国の母として尊ばれるような麗しいご様子にも見えず、少し苦し気で、面痩せしてお休みになっている。その様子は普段より弱弱し気で、可愛らしくお若く見える。小さい灯炉を御帳台の中に掛けてあるので、隅々まで明るく、とてもお肌の色が清らかで、きれいである。ふさふさとした御髪は、こうして結いあげなさると、一層見事である。こんなことを言うのは今更めいて、書き続けることは出来ませんが。→見事である。

 

「朗読6」引き出物の描写。上達部、殿上人、乳母役などへの引き出物。

おほかたのことどもは、ひと日と同じこと。上達部の禄は、御簾のうちより、女の装束、宮の御衣などそへて出だす。殿上人、頭二人をはじめて、寄りつつとる。おほやけの禄は、大袿、衾、腰差など、例のおほやけざまなるべし。

御乳付仕うまつりし橘の三位のおくりもの、例の女の装束に、織物の細長そへて、白銀の衣筥、包むなども、やがて白きにや。またつつみたるものそへてなどぞ聞きはべりし。くはしくは見はべらず。

「現代語訳」

だいたいの儀式の様子は、先日と同じである。中宮様から公卿たちへの引き出物は、御簾の内から、女の装束に若宮の御衣などを添えて遣わされた。殿上人へのものは、蔵人の頭二人をはじめとして、御簾の傍に寄って受け取る。朝廷からのものは、大袿、衾、腰差など、例によっている。乳母を

やった橘の三位へのものは、いつもの女の装束と織物の細長を添えて、銀の衣筥に入れて、別に包んだものも入れて。でも私は詳しくは見ていない。

「朗読7」

八日、人々、いろいろさうぞきかへたり。

「現代語訳」

八日目、女房達は儀式の装束を変えて、色とりどりに着替えた。

 

「コメント」

 

中宮付きのコメンテ-タ-。女だけに衣装にはまことに細やか。