251026㉚梅枝の巻

光源氏の邸宅六条院が完成した。女君たちが次々と引っ越してくるが、その最後にやって来たのは明石の君であった。

少女の巻の最後にこうある。

朗読①  大堰(おおい)の御方(明石の君)は自分のようなものはそっと移っていこうと遅れて移った。

      光源氏は他の方々に劣らぬように整え、差別なく扱っている。

大堰(おおい)の御方は、かう方々の御移ろひ定まりて、数ならぬ人はいつとなく紛らはさむと思して、神無月になん渡りたまひける。御しつらひ、事のありさま劣らずして、渡したてまつりたまふ。姫君の御ためを思せば、おほかたの作法も、けじめこよなからず、いとものものしくもてなさせたまへり。

 解説

自分などが都の人々、光源氏の女君たちに混じってみても、何様でもあるまい。自分がみじめな思いをするだけと恐れを抱き、光源氏に二条院にいらっしゃいと度々誘われているにも関わらず首を縦に振らなかった。今の文章に 大堰(おおい)の御方 とあった彼女は、 方々の御移ろひ定まりて 他の女君

たちが六条院に移った最後にやってくる。

こうして四つの町すべてに女君たちが揃った訳である。しかしその中で何といっても中核をなすのは紫の上の春の町と、斎宮女御の秋の町、いずれも南側に面した二つの町である。この二つの町が

六条院の中心なのである。光源氏の最愛の人で、姫君の母になる紫の上の春の町で、亡き東宮の娘で今上帝の中宮たる斎宮女御の秋の町とが、季節ごとに趣向を凝らし競い合うことで、光源氏の

世界そのものが賑わう。光源氏が当初思い描いていた静かな住まいには程遠いが、紫の上が春の町を与えられたのには説明はいらない。そもそも彼女が光源氏にその存在を見出されたのが春の

北山であった。

 

一方、斎宮女御の秋の町の主人であるのは、次のような訳がある。少し遡って薄雲の巻の最後の

部分にこんなくだりがある。

朗読② 

狭き垣根のうちなりとも、そのをりをりの心見知るばかり、春の木を植ゑわたし、秋の草をも堀り移して、いたづらなる野辺の虫をもすませて、人に御覧ぜさせむと思ひたまふるを、いづ方にか御心寄せはべらむ」と聞こえたまふに、いと聞こえにくきことと思せど、むげに絶えて御答へ聞こえたまはざらんもうたてあれば、「ましていかが思ひ分きはべらむ。げにいつとなき中に、あやしと聞きし夕こそ、はかなう消えたまひし露のよすがにも思ひたまへられぬべけれ」と、しどけなげにのたまひ消つるもいとらうたげなるに、え忍びたまはで、

 解説

これは薄雲の巻なので少女の巻の二つ前。光源氏はある時斎宮女御に、いつか私の屋敷に春の花、秋の草をとりどりに揃え、季節になったら美しい花々が咲く、そんな趣向の雅な庭をお目にかけられたらどんなに素晴らしいことかと話したことがあった。

光源氏の中にはこのころから後に六条院に展開していくプランがあったことが分かる。それはとりも

直さず、作者紫式部の中にもそんなプランが薄雲の巻からあったことを物語っている。今の場面で光源氏は、斎院女御にそうした捨てがたい春と秋のどちらを好みますかと尋ねている。尋ねられた斎院女御は自分の教養、趣味を尋ねられているような気がして、もじもじと恥ずかしそうに、でも黙して語らずではなんの教養もない人のように思われる気がして、「秋に心惹かれます」と答えた.なんとなれば、はかなう消えたまひし露 すなわち六条御息所のことである。私の母は秋に儚く、露と消えましたので。それで今回完成した六条院では秋の町を割り当てられて、秋の風情を凝らした南西の町の主人ということになった。今まで見てきた薄雲の巻のやり取りから、斎宮女御のことを、のちの読者は秋好む中宮と呼ぶようになった。

源氏物語は不思議な小説である。登場人物の実名はほとんど出てこない。実名はほとんど身分が

低い人たちである。

そこで登場人物たちを区別する必要に迫られた、後の読者たちがその人が出てくる巻や印象的な場面などに基づいて、呼び名を付けることになった。読者が名付け親なのである。前回出てきた雲居(くもいの)(かり)もそうである。彼女が少女の巻で、

霧深く 雲居の雁も わがことや 晴れせずものは 悲しかるらむ

という歌の一節を口ずさんだことが有名である。

こうして紫の上の春と斎宮の女御の秋の町を中心に、さまざまな趣向を凝らした季節に応じた行事、人々の雅なやり取りは新装なった六条院で繰り広げられる。少女の巻の次、玉葛の巻から始まる、全部で十巻。およそ三年の時を描いた物語は、この六条院を舞台にした物語であるが、しかしこの

放送は玉鬘というヒロインを主人公にした十巻の物語、いわゆる玉鬘十帖はすべてカットする。

 (今年の放送の基本コンセプト)

8月の放送で説明したが途中からのリスナ-もいるので、今年の放送の基本コンセプトを再度要点のみ話す。この放送は一年という限られた時間であり、「源氏物語」の全てを取り上げることは出来ない。光源氏の人生の内、どこかを諦めるしかない。そこで一話完結形の短編的な巻や、スト-リ-が脇道に入る物語りは脇において、まず「源氏物語」の中のメインストリ-トを歩いて見ることにする。

それが今年度の放送の基本的なコンセプトである。

帚木、空蝉、夕顔と名付けられた短い巻、或いは末摘(すえつむ)(はな)の巻や彼女の後日談を語る蓬生(よもぎふ)の巻、空蝉の後日談である

関谷の巻も放送から外してすでに飛ばしてしまった巻である。そこをと飛ばしたからと言って、話が

こんがらがったり辻褄が合わないといったことはなかったと思う。むしろそうすることで光源氏の人生が、生き生きとしてきたのではないか。

このことは参考書を含めて書いているので、HPをご覧ください。さて夕顔の女君の忘れ形見、玉葛を中心にする物語が展開する玉鬘十帖は、スキップして、21巻目の少女の巻から今回取り上げる32巻目 梅枝の巻 へ飛ぶ。

 

梅が枝の巻の冒頭の所には、次のような話題、光源氏と紫の上で大切に育ててきた姫君の ()() 、女性の成人式を迎える場面がある。玉葛十帖3年の間に姫君はすくすくと成長しついに裳着を迎える年齢になった。

朗読③ 明石の姫君の 裳着 に光源氏の心遣いは並大抵ではない。東宮の元服に続いて

     入内となるであろう。正月の末でお暇なので、薫物(たきもの)を調合する。

裳着のこと思しいそぐ御心おきて、世の常ならず、東宮も同じ二月に御かうぶりのことあるべければ、やがて御参りも打ちつづくべきや。

正月のつごもりなれば、公私(おほやけわたくし)のどやかなるころほひに、薫物(たきもの)合わせたまふ。

 解説

裳 というのは女の人がしかるべき場所に出る場合身に付ける衣装で、それを付けることで貴族社会に本格的にデビュ-する。

より具体的に言うと、その人が結婚適齢期になりましたと社会にアピ-ルをするのである。六条院の春の町でも姫君の 裳着 もそれを意識してのことである。姫君の 裳着 と同時期に行われる東宮の元服。今の場面に東宮も同じ二月に御かうぶりのことあるべければ、 とあった。かうぶり とは今度は男の成人式のことである。今の場面に東宮の元服も二月に予定され、それを見据えて、光源氏もわが姫君の 裳着 を行った訳である。改めて梅枝の巻の主役、姫君の

プロフィルを確認しよう。

彼女の生母は明石の君なのはご承知のこと。生まれたのは明石の浦であったが、その後母と祖母と明石の姫君と共に上京し、大堰川の山荘に入った。そこで暫く過ごした後、三歳の時に光源氏の二条院にやってきた。紫の上が実の子のように可愛がってきたこの姫君は明石の姫君と呼ばれることがあり、今でも現代語訳の本などにはそう書かれているが、もし紫式部が生きていたら、とんでもない

ことと思うであろう。物語の中には、明石の姫君という呼び名は出てこない。紫式部はこの姫君を明石の姫君とは決して呼んではいない。何故だろう。光源氏は今、姫君を東宮に入内させようとしている。宿曜の占いでは、姫はやがて后になるとされている。そのためには彼女が生まれた明石という土地の名前、産みの母の身分が高くないこと、そうしたことから全てを引き離さなければならない。この

姫君を明石の姫君と呼ばせない。明石の地と切り離す。光源氏と紫の上は勿論、明石の入道、明石の尼君、明石の君、さらには作者の紫式部も一致団結してここまで協力してきたのである。それを

明石の姫君と呼んでしまったら、すべてが台無しになってしまう。明石の入道、明石の尼君、明石の君、そうした呼び名は物語に出てくるが明石の姫君という呼び名は出てこない。先ほど「源氏物語」の登場人物の名前には読者がつけたものが沢山あるといったが、明石の姫君という呼び名は、使いたくなるが注意しなければならない。少なくとも放送では、一度も使っていないはず。そこで大切な

姫君の 裳着 とその後の予定されている東宮への入内に向けて、光源氏はこの梅枝の巻で様々な品物、調度類を準備する。特にクローズアップされるのは二つ。一つはお香。お香といっても私たちが一般的な製造技術を使って作られる西洋式フラグランスや香水とは全く違う。

いわゆる練香である。様々な香木を調合し、蜜などと練って丸く固めたもの。

 

光源氏がわが姫君の為にと香の製作を依頼した人たちとは、どんな人々であったろう。物語を読むとああ成程と納得するが、光源氏は届けられたお香を一つ一つ吟味して、優劣を判定する場面を

読む。判者は兵部卿の宮である。

朗読⓸ 判定役の評である。黒棒は斎院のが奥ゆかしく落ち着いている。侍従は光源氏の

     ものが優雅でやさしい。対の上の梅花は華やかである。

     三者それぞれに褒めている様子。

さらにいづれともなき中に、斎院の御黒方(くろぼう)さいへども、心にくく静やかなる匂ひことなり。侍従は、大臣(おとど)(おむお)は、すぐれてなまめかしうなつかしき香なりと定めたまふ。対の上の(おおむ)は,三種ある中に、梅花(ばいか)はなやかにいまめかしう、すこしはやき心しらひを添へて、めづらしき薫り加われり。

 解説

まず最初に名前が挙がったのは前の斎院・朝顔の斎院である。天皇家の血筋を引く女性として、

特別な存在感を示す人。彼女の名前が最初に出てきた。さらには紫の上や光源氏自身も知る人ぞ知る秘伝の技術を尽くして香を練る。このお香の優劣を判断する人、その判定者には光源氏の弟宮が指名された。兵部卿宮と呼ばれるが、光源氏とは腹違いながら、皇子たちの中で最も気が合い更に感覚も優れ、絵合わせの巻でも冷泉帝の御前でも判定者を務められた。その彼が光源氏とともに

良いお香を選び抜くのである。黒方 侍従 侍従 というのはお香の名前。判定者・兵部卿宮は思案してこういう。朝顔の斎院のお香の中では、黒方(くろぼう) が大変結構です。侍従は、大臣(おとど)(おむお)は、すぐれてなまめかしうなつかしき香なりと定めたまふ。 と判定する。侍従では 大臣の調合なさったものが優雅でやさしさのある香りです。

対の上の(おおむ)は,三種ある中に、梅花(ばいか)はなやかにいまめかしう、すこしはやき心しらひを添へて、めづらしき薫り加われり。紫の上は三種類用意した。その中で梅花が華やかであると判定された。こんな調子で姫君の香が選ばれていく。今の文章の少し後には、冬のお方・明石の君から香が届いたことが書かれている。

冬のお方にも時々によれる匂ひの定まるまれるに、消たれんもあいなしと思して、(くの)()(こう)の方のすぐれたるは、(さき)

朱雀院のをうつさせたまひて、(きん)(ただ)()(そん)の、事に選び仕うまつれりし百歩の方など思ひえて、世に似ずなまめかしさを取り集めたる・・・・・・

三歳の時、離れ離れになった実の娘に逢うこともなく今日にいたった。今後も逢うことは叶わない。

せめてこのお香を使ってくださいと提出した。かくしてその 裳着 の当日、その日の主役は姫君で

ある。

 

それになくてはならない人がいる。

それは 腰結役(こしゆいやく) を着せる人であるが、この人を誰にするかがとても大事である。誰になったのであろうか。

朗読⑤ 光源氏は会場の西の御殿に参る。中宮のお住まいの西の対が裳着の場である。

     姫君が裳を着ける。

かくて、西の殿(おとど)(いぬ)の刻に渡りたまふ。宮のおはします西の放出(はなちいで)をしつらひて、御髪(みぐし)(あげ)の内侍なども、やがてこなたに参れり。上も、このついでに、中宮に御対面あり。御方々の女房おしあはせたる、数しらずみえたり。子の刻に御裳奉る。大殿油(おおとなぶら)ほのかなれど、御けはひいとめでたしと宮は見たてまれたまふ。

 解説

今の場面に 宮 とか 中宮 とあった。今上帝の中宮、あの秋好中宮が腰結役を務める。光源氏は選んだのも、わが姫君の腰結役・秋好中宮にあやかって、まずは東宮妃、ゆくゆくは中宮にという

思いがあってのこと。姫君は六条院の南東・春の町から夜が更けてから、六条院の西の町、秋の町の秋好中宮の下を訪れる。

上も、このついでに、中宮に御対面あり。

娘に付き添って、紫の上は初めて中宮に対面する。そして姫君は 子の刻に御裳奉る。

深夜十二時頃に裳を着けることになる。かすかな光に照らされる気配を身に近く感じる秋好中宮。

御けはひいとめでたしと宮は見たてまれたまふ。素晴らしい姫君だと中宮は感じたということである。

最高の誉め言葉は めでたし である。

秋好中宮からこの姫君ならばというお墨付きを与えられた瞬間である。

かくして東宮も姫君の裳着と相前後して元服する。このまま姫君は東宮妃になるだろうと、世間の人も思ったが実際はそうはいかない。太政大臣の娘が東宮の下に入内するようだ。うちの娘も年頃だけど、光源氏では張り合ってもなあとほとんどの人は諦める。

 

それを聞いた光源氏は思ってもいないことを言い出す。読者は光源氏がどんな人わかっているので、彼ならそういうことをするだろうと思うが、その時とった行動とはどんな事であったろうか。

朗読⑥ 東宮も元服も済んだので、方々は娘を入内させようと望んでいた。光源氏がそうした

     望みを持っていると知った方々は叶わないと思い止まる様子。光源氏はこのことを

     聞いて、「多くの人が競い合うことが本筋で、皆が引っ込むのは如何か。」と言って

     姫の入内は延期になった。

東宮の御元服は、二十余日(よひ)にほどになんありける。いとおとなしくおはしませば、人の、むすめども競ひ参らすべきことを心ざし思すなれど、この殿の思しきざすさまのいとことなれば、なかなかにてやまじらはんと、左大臣なども思しとどまるなるを聞こしめして、「いとたいだいしきことなり。宮仕の筋は、あまたある中に、すこしのけぢめをいどまむこそ本意(ほい)ならめ。そこらの(きょう)(さく)の姫君たち引き籠められなば、世に(はえ)あらじ」とのたまひて、御参り延びぬ。

 解説

光源氏らしいやり方である。平安時代の政治家たちは自分の娘を東宮妃や中宮にと考えるので

ある。しかも対抗馬がいないのが一番望ましいはずである。そういう状況を光源氏は自分から壊してしまう。東宮や天皇の後宮には、複数の優れた女性達、いずれも人格、教養の素晴らしい人がいて、そういう人たちが争うことが本来望ましいあり方だと光源氏は言う。そうしたやり方こそ後宮全体を

活性化させると言わんばかり。そして自分の姫君の入内を延期してしまった。光源氏は満足であったろうが、しかし東宮はどんな人かと大いに楽しみにしていた。太政大臣寵愛の娘。中宮が腰結役を

務めて、裳着を着せている。

 

結局四月の入内となった。これを聞いて他の姫君も次々と入内をされる。光源氏の姫君の為に後宮に特別な建物が準備される。それは将来の中宮、皇后が期待される女性ということである。

朗読⑦ この源氏の姫君は、光源氏の昔の宿直所・淑景舎(しげいさ)を改造して、四月に入内された。

この御方は、昔の御宿直所(とのいところ)淑景舎(しげいさ)を改めしつらひて、御参り延びぬるを、宮にも心もとながらせたまへば、四月にと定めさせたまふ。

 解説

淑景舎(しげいさ) 久しぶりに出てきた名前である。

姫君の為に用意されたのは 淑景舎(しげいさ) で、別名桐壺。最初の桐壺の巻で、光源氏の母が与えられた建物。母が亡くなった後は、光源氏自身が宮中の宿直所にしていた所。ここが光源氏の姫君の為に準備された。母・桐壺の更衣、光源氏、姫君と受け継がれたのである。桐壺の巻①から梅枝の巻㉜まで積み重ねられてきた物語なのである

 

入内が遅れたので時間の余裕が出来た光源氏は、姫君が宮中で使う調度品の準備に努めるが、

そこで光源氏が吟味に吟味を重ねたもう一つの品が出てくる。女の人、ことに后になる人に不可欠なものは何であろうか。

朗読⑧ 草子の箱・本箱には姫君が習字のお手本になるようなもの、名人たちの筆跡もある。

草子の箱に入るべき草子どもの、やがて本にもしたまふべきを()らせたまふ。いにしへの(かみ)なき(きわ)の御手どもの、世に名を残したまへるたぐひのも、いと多くさぶらふ。

 解説

それは草子 書物である。とはいっても万巻の書を読破して教養を高め、知識を増やすというより大切なのは、誰が写して姫君にさしあげたのかということである。この時代、書物を読みたいと思ったら、何らかの方法で入手したものを、自分で書き写してそれで自分の物になる。草子・書物はそうして読者の手に渡っていくのである。今の文章に

いにしへの(かみ)なき(きわ)の御手どもの、世に名を残したまへるたぐひ とあった。

昔の名人上手が心を込めて写した 御手ども 筆跡。それを見て真似て、やがて自分独自の境地が花開く。要は、書の勉強をしなさい と光源氏が 草子の箱に入るべき草子どもの、やがて本にもしたまふ そうした思いで光源氏は 草子 を自ら選りすぐったのである。今出てきた 本 というのは、BOOKではなく、手製の本である。吟味に吟味を重ねて、これが姫君の手本にふさわしいというのを厳選したのである。こういう話を聞くと、読者は昔のあのことを思い出していることだろう。光源氏に同じようにして貰って、書の知識を磨いて大きくなった女性がいた。紫の上である。彼女も祖母の手ほどきを受けていたのでその筆跡は似ていたが、光源氏に引き取られその教えで研鑽を重ね、ついには

紫の上らしい御手が花開いた。

 

女にとって御手・書はとても大切なのである。書は人なりともいわれる。枕草子にもこんな一説がある。

朗読⑧

「村上天皇の御時、燿殿(せんようでん)の女御と聞こえけるは、小一条の左大臣殿の御むすめにおはしましければ、たれかは知り聞こえざらむ。まだ姫君におはしけるとき、父おとどの教へきこえさせたまひけるは、『一には御手を習ひたまへ。次には琴の御琴を、いかで人に弾きまさむとおぼせ。さて古今二十巻をみな浮かべさせたまはむを御学問にはさせたまへ』となむ聞こえさせたまひけると

 解説

かつて国語の教科書で読んだ人もいるかも。村上天皇の后だった方 宣燿殿(せんようでん)の女御 に父の左大臣はこんな風に教えた。音楽の素養として琴。学問としては古今集全二十巻の歌をそらんじておくこと。そうしたものに先駆けて出てくるのが御手(おおんて) それを身に付けておくように、后になる人だから。特に

女性にとって書が如何に大切であったかが分かる所である。姫君は光源氏が厳選した書に囲まれて

入内していく。

 

「コメント」

 

入内が具体的に、そして光源氏の思いが伝わってくる。花嫁の父。また明石の君たちの悲しみも。