251102㉛藤裏葉の巻(1)

今回から藤裏葉の巻に入るが、前回の梅枝の巻で少し残したことがあるので話す。梅枝の巻ではこんなことが語られていた。光源氏と紫の上は最愛の娘の裳着を済ませ、続いて東宮への入内準備を進める。その中で彼は仮名への批評を存分に披露するのだが、彼はこんな風に言う。

朗読① 光源氏は言う。「万事、昔より劣ってきているのだが、仮名だけは今の方が見事で

          ある。」

「よろづのこと、昔には劣りざまに、浅くなりゆく世の末なれど、仮名にみなん今の世はいと(きわ)なくなりたる。古き(あと)は、定まれるやうにはあれど、ひろき心ゆたかならず、一筋に通ひてなんありける。

 解説

光源氏は言う。「万事、時代が下れば下るほど、人の心も芸術も宜しくない。底が浅いようになってしまう。それは避けられないことである。」これは平安時代の一般的な考え方である。しかしと続ける。「そこに唯一の例外があって、それが仮名である。それは確かにそうであろう。古い時代にはそもそも仮名自体がなかった。平安時代になってからの発明だからで、そこがスタ-トラインで今はドンドン良くなっている。昔の仮名は、ひろき心ゆたかならず、伸び伸びとした気分が十分でない とある。光源氏は仮名に一家言あることが分かるが、ここで少し茶々を入れる。「光源氏よ、仮名に詳しいのか。

どうやってそんなに沢山の仮名を目にして来たのか。」この時代、仮名は鑑賞する芸術品ではない。ではどういう人がその様に沢山の仮名に目をさらし、目を肥やすことになるのか。仮名は女手(おんなで)ともいう。今のことで分かるように、光源氏のように様々な女性と手紙をやり取りすれば自然と目が肥えていく。

 

紫の上を聞き手にして、いくつかの興味深いエピソ-ドを披露するが、彼が仮名について自分でも

一生懸命勉強し始めた頃、こんなことがあったという。

朗読② 私が女手を熱心に勉強している時、中宮の母の御息所(六条御息所)の走り書きを

          優れた筆跡だと思った。そんなことがあってその方と浮名が立ったのでした。

女手を心に入れて習ひし盛りに、こともなき手本多く集へたりし中に、中宮の母御息所の、心にも入れず走り書いたまへりし一行ばかり、わざとならぬを得て、(きわ)ことにおぼえしはや。さてあるまじき御名も立てきこえしぞかし。

 解説

我々は初めてその事実を知ったことになるが、光源氏はかつて六条御息所と恋に落ちたきっかけは書だった。御息所が 心にも入れず走り書いたまへりし一行ばかり、

サラサラと走り書きした手()を手にしたことがあって、それが恋の始まりだったというのである。光源氏は御息所の筆跡に心を掴まれ、彼女への興味を持ったという。やはり書は人なりである。

その書いたものに書き手の教養も人柄も自然と滲み出る。六条御息所の女手のエピソ-ドに限らず、梅枝の巻・藤裏葉の巻の辺りになると、光源氏も昔話をよくするようになる。そのことを通して、

光源氏が今何歳なのかは分からなくとも、彼は人生の年輪を重ね円熟期を迎えていることが自然に伝わってくる。

 

光源氏は一連の書・仮名についての議論を締めくくるようにこういう。

朗読③ 朱雀院の内侍こそ当代の名手だけど、癖もある。でもその方と前斎院と、あなたの

           三人は上手な方と言える。

院の内侍(ないしのかみ)こそ今の世の上手におはすれど、あまりそぼれて癖ぞ添ひためる。さはありとも、かの君と、前斎院と、ここにとこそは書きはめ」とゆるしきこえたまへれば、

 解説

というわけで多数の女性の手を見てきたが、これはという達者な方がいる。まずは内侍(ないしのかみ)、あの(はなの)(えん)の巻で、光源氏とアッという間に恋に落ち、光源氏が都に居られなくなった理由の一つを作った女性であった(おぼろ)月夜(づきよ)の内侍。右大臣家の娘で、朱雀院が心から愛した人でもあった。その彼女の名前が

まず挙がった。しかし一方で光源氏はこんな言葉を添えることも忘れなかった。

あまりそぼれて癖ぞ添ひためる。

ただその字に一寸癖があるのだよ。確かに朧月夜の手に少し癖があるのは分かるような気がする。とはいっても朧月夜と前斎院と

ここにとこそは書きはめ 

それにここにいるあなたという。紫の上は光源氏が認めた仮名の名手なので、紫の上が手塩にかけた姫君もきっと筋がいいでしょう。

姫君が上達するように光源氏も、まっさらな草紙を前に、娘の手本になる書を書こうと思案する。大切に育ててきた姫君の入内の準備も進んでいく。一方で例の一件はどうなったのであろうか。彼は少女の巻で元服したが、六位にされてしかも大学寮に入学した。その為、幼馴染の雲居の雁と引き離されてしまう。雲居の雁の父親は元の頭の中将、今の内大臣である。彼は一族の命運をかけて入内させた長女の弘徽殿女御が、冷泉帝の中宮になれなかった。斎宮女御が立后することになって光源氏に敗れてしまったが、それではもう一人の娘でと思う。それが雲居の雁である。

雲居の雁の母親の家柄は高いものではなかったが、それまで内大臣は次女の雲居の雁のことは

放置気味であった。それが弘徽殿女御の立后が叶わなかったので、この雲居の雁を東宮に入内させて、今度こそ光源氏に勝とうと思った。

しかしその矢先に雲居の雁が夕霧に心を通わせていることを知り、一人で大騒ぎして母の大宮にもひどい言葉を浴びせて、雲居の雁を自分の屋敷に連れて行ってしまう。しかし夕霧とのこともあるので入内ともいかず、そのうちに実際には夕霧以上の嫁ぎ先はないことに気付く。優秀な夕霧には縁談が多いらしいとも聞く。

 

追い込まれた内大臣。そして雲居の雁も同様である。

朗読⓸ 姫君(雲居の雁)は年頃で可愛らしい。内大臣は彼女が沈んでいるのは可哀想と

          思うが、夕霧は平然としているらしいので、こちらから縁談を申し出るのも体裁が

     悪い。人知れず悩んでいる。

姫君の御ありさま、盛りにととのひて、あたらしううつくしげなり。つれづれとうちしめりたまへるほど、いみじう御嘆きぐさなるに、かの人の御気色(けしき)、はた、同じやうになだらかなれば、心弱く進み寄らむも人笑はれに、人のねむごろなりしきざみになびきなましかば、など人知れず思し嘆きて、一方(ひとかた)に罪をもえ負はせたまはず。

 解説

姫君の御ありさま、盛りにととのひて、あたらしううつくしげなり。

父親から見ても雲居の雁は娘盛りである。あたらしう は、この娘盛りを無駄にするかと思うと悔しい、残念だという意味である。しかし今更腰を低くして世の中に靡いていくのも、人笑はれに 体裁が悪い。なんてことをしてしまったのかと、頭を抱える内大臣。一方の夕霧は落ち着いたものである。妻にするのは雲居の雁と決めている。

 

あの頑固な内大臣も後悔しているらしいことは伝わって来るのだが、しかし自分の方から折れようとはしない。何よりあの日、夕霧の心に突き刺さったあの言葉は胸に残ったままである。

朗読⑤ 内大臣が少し折れているのを、宰相の君(夕霧)は聞くが落ち着いている。雲居の雁を

     恋しいとは思うが、浅緑の六位風情と言われたことを忘れず、納言になった姿を

     見せようと思う。

かくすこしたわみたまへる御気色を、宰相の君は聞きたまへど、しばしつらかりし御心をうしと思へば、つれなくもてなししづめて、さすがに(そと)ざまの心はつくべくもおぼえず、心づから戯れにくきをり多かれど、あさみどり聞こえごちし御乳母どもに、納言に昇りて見えんの御心深かるべし

 解説

夕霧はよくもあの日、自分の六位の浅緑の衣装を馬鹿にしてくれたな。昇進して、

納言に昇りて見えんの御心深かるべし。

昇進して納言になった姿を見せてやろうという意地があった。納言 とは中納言大納言のこと。二人が引き裂かれたのはもう6年も前のことである。夕霧はよくも悪しくも頑固で意地っ張り。内大臣も

同様である。この二人は叔父と甥である。二人が仲良くなるきっかけを作ったのは大宮、内大臣の母、夕霧の祖母。この大宮はこの古典講読で触れなかった 玉葛十帖 の中で亡くなってしまい、

二人が結ばれるのを見ることはなかった。彼女はこのように孫同志を結びつける役を担った。というのは彼女が亡くなって菩提を弔う法事が極楽寺で行われたことからである。

 

内大臣と夕霧の二人は久しぶりに顔を合わせる。この辺りから藤裏葉の巻に入る。

朗読⑥ 大宮の命日で内大臣は極楽寺に詣でる。夕霧も立派な様子で参列する。

三月(やよい)二十日大殿の大宮の御忌日にて、極楽寺に詣でたまへり。君たちみな引き連れ、勢ひあらまほしく、上達部などもあまた参り集ひたまへるに、宰相中将、をさをさけはひ劣らずよそほしくて、容貌(かたち)など、ただ今のいみじき盛りにねびゆきて、とり集めめでたき人の御ありさまなり。

 解説

藤原家ゆかりで墓所でもあった極楽寺。今でも伏見区深草極楽寺町とある。左大臣から太政大臣になった人の妻であり、桐壺帝の妹でもあった大宮の法事ということで盛大であった。

 

法事が終わって参拝者が帰路に就く頃、残った二人、内大臣と夕霧。先に声をかけ、袖を引いたのは内大臣。

朗読⑦

夕かけて、みな帰りたぬまふほど、花はみな散り乱れ、霞たどたどしきに、大臣(おとど)、昔思し出でて、なまめかしううそぶきながめたまふ。宰相もあはれなる(ゆうべ)のけしきに、いとどうちしめりて、「(あま)()あり」と人々騒ぐに、なほながめ入りてゐたまへり。心ときめきに見たまふことやありけん、袖を引き寄せて、「などか、いとこよなくは勘じたまへる。今日の御法(みのり)の縁をも尋ね思さば、罪ゆるしたまひてよや。残り少なくなりゆく末の世に、思ひ棄てたまへるも、恨みきこゆべくなん」とのたまへば、うちかしこまりて、「過ぎにし御おもむけも、頼みきこえさすべきさまにうけたまはりおくことはべりしかど、ゆるしなき御気色に憚りつつなん」と聞こえたまふ。

 解説

などか、いとこよなくは勘じたまへる。内大臣は次のように言う。「どうしてそうひどく私をお咎めなさるのですか」

今日の御法(みのり)の縁をも尋ね思さば、罪ゆるしたまひてよや。

「今日はわが母の法事でこうして一緒になったことで、私の罪をお許しください。」内大臣は器の大きいところを見せた。年長者でありながら、自分から頭を下げたのである。一方の夕霧も、

うちかしこまりて、居住まいを正して

過ぎにし御おもむけも、頼みきこえさすべきさまに 

亡くなられた大宮も何か困ったことがあったら、内大臣を頼るようにと常に私に言って下さっていました。どちらも頑固者というだけで、悪気は無い人達なので、三月の末に一気に雪解けとなった。間もなくやってきた夏。

 

内大臣から夕霧に声が掛かる。我が家自慢の藤の花。それを楽しんで宴を催したい。先日は話も

できなかったので是非おいでください。内大臣家の藤の花の宴への招待である。

朗読⑧ 内大臣は歌を付けて夕霧に藤の花の宴のお誘いをする。夕霧は心待ちにしていた

     ので、喜んでご返事をする。

四月(つい)(たち)ごろ、御前(おまえ)の藤の花、いとおもしろう咲き乱れて、世の常の色ならず、ただに見過ぐさむこと惜しき盛りなるに、遊びなどしたまひて、暮れゆくほどのいとど色まされるに、頭中将して御消息(しょうそこ)あり。「一日(ひとひ)の花の蔭の対面の飽かずおぼえはべりしを、御暇あらば立ち寄りたまひなんや」とあり。御文には、

 わが宿の 藤の色こき たそがれに 尋ねやはこぬ 春のなごりを

げにいとおもしろき枝につけたまへり。待ちつけたまへるも、心ときめきさせられて、かしこまりきこえたまふ。

 解説

招待状にはこんな歌が書き添えられていた。

わが宿の 藤の色こき たそがれに 尋ねやはこぬ 春のなごりを

黄昏時にぜひおいでください。花の名残がわが屋敷には残っているので。

夕霧は今の場面に 心ときめきさせられて、かしこまりきこえたまふ。 とあった。まじめな夕霧は自分で決められなくて、父光源氏に相談する。光源氏は夕霧が、なぜいまだに独身なのか分かっているし、内大臣が夕霧が他家に婿に迎えられるではと焦っていることも知っているので、「折角のお誘い

なので行っておいで」と言う。光源氏の人生にもかつて同じような場面があった。(はなの)(えん)の巻であるが、この放送では取り上げなかった。右大臣家から光源氏に我が家の桜の花を愛でて、宴席を設けますのでという誘いがあった。作者紫式部は意図的に親と子に同じような場面を用意している。物語は

溯って光源氏の青春の日。花宴の巻の一部をお聞きください。

朗読⑨ 源氏の君は内裏にいる時で、お誘いのことを桐壺帝にこのことを申し上げると

     「得意顔であることよ」と笑って、「わざわざのお迎えなので早く行きなさい」と仰った。

源氏の君にも、一日(ひとひ)内裏(うち)にて御対面のついでに、聞こえたまひしかど、おはせねば、口惜しう、ものの(はえ)なしと思して、御子(おほんこ)の四位少将をたてまつりたまふ。

 わが宿の 花しなべての 色ならば 何かはさらに 君を待たまし

内裏(うち)におはするほどにて、上に奏したまふ。「したり顔なりや」と笑わせたまひて、「わざとあんめるを、早うものせよかし」

 解説

我が家の桜の花が格別です。どうぞお越しをとわざわざ使いを出してのお誘いである。光源氏も当時は若かった。父の桐壺帝に相談する。すると父は「わざわざのお誘いなので行っておあげ」と仰った。かつて桐壺帝が述べたのと同じセリフを、今度は光源氏が人の親になって息子・夕霧に言う。時の

流れを感じるが、光源氏は更に念入りである。かつて桐壺帝が気が付かなかった所まで気を回す。

 

こういう時の直衣(のうし)は男を少し軽く見せる。直垂(ひたあい)がいい、これが良かろう。光源氏は自分の上等な直垂(ひたあい)に着かえさせる。

一方の内大臣家はこんな調子である。

朗読⑩ 内大臣は北の方などに、「のぞいて御覧。落ち着いていて、堂々としている。父光源氏にも勝るかもしれない。父親は優雅なので政治向きには少し向かない所があるが、

     この宰相は学問もあって申し分ないと評判だ」

北の方、若き女房などに、「のぞきて見たまへ。いと(こう)(さく)にねびまさる人なり。用意などいとしづかにものものしや。あざやかにぬけ出でおよすけたる方は、父大臣(おとど)にもまさりざまにこそあめれ。かれはただいと切になまめかしう愛敬(あいぎょう)づきて、見るに()ましく、世の中忘るる心地ぞしたまふ。(おおやけ)ざまはすこしたはれて、あざれたる方なりし、ことわりぞかし。これは(ざえ)(きわ)もまさり、心用(こころもち)男々(おお)しく、すくよかに、()らひたりと世におぼえためり」などのたまひてぞ対面したまふ。

 解説

到着した夕霧に対して、内大臣は礼を尽くして迎えた。そして北の方や若き女房達にそっとささやく。「そっと覗いて見てごらん。素晴らしい男だから」今の場面に (こう)(さく) とあった。目が覚めるほど素晴らしいという言葉である。でもこの年にして、

用意などいとしづかにものものしや。 落ち着いて堂々たるもの。」と内大臣は言う。「確かに父親の

太政大臣光源氏は、見ている人が思わずにこやかに微笑んで、世の中のことを忘れてしまうような

魅力が全身から溢れている。でも

(おおやけ)ざまはすこしたはれて、あざれたる方なりし、 (おおやけ)ざま 政治のことはどこか頼りないところがあって、くだけすぎているようなところがあるが、それに比べて夕霧は これは(ざえ)(きわ)もまさり、心用(こころもち)男々(おお)しく、 大学で学んだ本格的な学問を身に付けて、雄々しいところがある。真面目でまっすぐな人だよ。」と、色々語って対面することになる。

 

その夜夕霧は歓待された。その夜、夕霧は雲居の雁の所に導かれた。二人六年ぶりの再会である。

朗読⑪

男君は、夢かとおぼえたまふにも、わが身いとどいつかしうぞおぼえたまひけんかし。女は、いと恥ずかしと思ひしみてものしたまふも、ねびまされる御ありさま、いとど飽かぬところなくめやすし。

 解説

これで少女の巻以来の夕霧の件も一件落着。少女の巻、梅枝の巻、藤裏葉の巻。この三つの巻は、光源氏とその一族の円満な満ち足りた世界が描かれている。少女の巻で 生ける仏の御国 といわれ、この世の極楽浄土と称えられた大邸宅六条院の完成。そこには光源氏が人生で出会った素晴らしい女性たちが集う。光源氏は太政大臣、彼が後見役を務める斎宮女御は中宮となり、光源氏と

紫の上が慈しんで育てた姫君の裳着。満月のような世界である。このように盤石な世界にもう一つ花を添える。姫君の入内である。光源氏は我が家から東宮妃を送りだすことになる。それは四月のこと。

 

まずはそれまずは娘を嫁がせる母親と父親、紫の上と光源氏の様子である。

朗読⑫ 入内には北の方が付き添いになるのは慣例であるが、いつまでも紫の上が付き

      添っている訳にもいかない。

      あの実の母(明石の君)を付き添わせたらどうかと光源氏は思う。

かくて、御参りは北の方添ひたまふべきを、常にながながしうはえ添ひさぶらひたまはじ、かかるついでに、かの御後見(うしろみ)をや添へまし、と思す。

 解説

入内というのは天皇や東宮と結婚すること。姫君は宮中に向かうときに女房達は付き従うが、

北の方添ひたまふべきを

北の方が姫君と一緒に宮中に参上するのが慣例である。当然紫の上ということになる。紫の上に

とっても名誉なことと言って良いが、光源氏は気が進まないようである。

常にながながしうはえ添ひさぶらひたまはじ

長々と宮中に行かせたままというのには抵抗がある。光源氏と紫の上は、須磨、明石流離の三年間は離れ離れであったが、それ以外は一緒である。そこには代替策があった。

かかるついでに、かの御後見(うしろみ)をや添へまし、と思す。

 

この機会に実母の明石の君を後見役として添えてはどうであろうか。でも光源氏は言いだし難い。

三歳から育て上げた紫の上。その紫の上の心を踏みにじることはしたくない。

朗読⑬ 紫の上は「明石の君を姫君の付き添いとしてあげて下さい。女房と乳母では目が

     届きませんし、私がいつも付き添う訳にはいきません」という。光源氏はよく気付いて

     くれたと思う。

「このをりに添へたてまつりたまへ。まだいとあえかなるほどもうしろめたきに、さぶらふ人とても、若々しきのみこそ多かれ。御乳母たちなども、見及ぶ事の心いたる限りあるを、みづからはえつとしもさぶらはざらむほど、うしろやすかるべく」と聞こえたまへば、いとよく思しよるかなと思して、

 解説

このをりに添へたてまつりたまへ。紫の上は、「あの明石の君を是非付き添わせて下さい」という。

紫の上も同じことを考えていたのである。若い女房達と乳母では行き届かない所があるでしょうから。かといって私が行くわけにもいかない。

二人をいつか再会させてあげたいし、明石の君も三歳以来逢っていないので会いたいでしょう。

紫の上はそう考えて光源氏に話を切り出した。光源氏は いとよく思しよるかなと思して、 

「よくぞ、気が付いてくれた」という。そのことはすぐに明石の君に伝えられるが、彼女はどう反応したであろうか。次回はこの続きとなる。大事な締めくくりの巻 藤裏葉の巻(3)である。

 

「コメント」

明石の君が入内の後見役になることに何か違和感がある。三歳で別れた親子はどうであろうか。子供には記憶もないし、頼る気持ちが起きるであろうか。明石の田舎育ちの女性が宮中でうまく後見役になれるとも思えないし、身分のことが障害となるであろう。

次回はどんな展開か、とても興味が沸く。