230406 ①「古事記」:父親VS娘の恋人

娘が連れてきた恋人に、父親のスサノオが「幸せになるのだぞ、この野郎」といった。これが今回のオチである。

先ず古事記について話す。古事記は奈良時代に出来た最も古い書物である。日本誕生以来の神話を含めて歴史を語る作品である。日本には文字がなかったので、神話はずっと口語りで伝えられてきた。それを漢字で初めて書き始めたのが古事記である。古事記の中から今日の登場人物であるが、まずスサノオノミコト、これは日本を生み出したイザナキの子でアマテラスの弟である。しかしスサノオは荒ぶる神であった。あまりに暴れるので、アマテラスは天の岩屋に隠れて、世の中が真っ暗になるという事件があった。又は高天原を追われて根の堅洲国に追放される。しかしスサノオは根の国に向かう途中、ヤマタオロチを退治して、生贄にされようとしていたクシナダヒメを救い、結婚する。

 スサノオとオオナムチ

そして根の国の王となった。その後年老いたスサノオはスセリ姫と暮らしていた。そこに現れたのがオオナムチである。オオナムチはこの物語の後で大国主となる。又のちにはインドの神 大黒天 と習合して、大黒様と呼ばれるようになる。

有名なのは因幡の白兎を助けてやった話である。

古事記によるとオオナムチには八十神という沢山の兄弟がいたが、いじめられ殺されそうになって、スサノオの 根の国に逃げてくる。ここでスサノオの娘 スセリヒメ と出会い恋に落ちる。そこでスセリヒメは父 スサノオにオオナムチを紹介する。良い感じを持たなかったスサノオは、いくつもの難題を与える。蛇の部屋で寝る、ムカデと八チいる中で寝る、鏑矢を射てそれを取ってくる時に火攻めにする・・・。これをスセリヒメの助けでクリアしたオオナムチは、スサノオが寝ている間に宝物を持って二人で逃げる。追ってきたスサノオは遥か遠くにいる二人に「お前の持っていった太刀と矢で兄弟たちをやっつけろ、そして地上世界の王である大国主となれ。」という。

原文の口語訳。

「お前はスセリヒメを正妻として立派な宮殿を建てよ。太い頑丈な柱を建てて、天まで届く立派な屋根を作って。」

日本書紀の場合は正式の漢文で書かれているが、古事記は日本語を含んで表現されている。一部万葉仮名的に。

自分の宝物を奪って娘を連れ去っていく男に対して、激励の言葉をかけている。最後に付け加えたのが「この奴や」という言葉。幸せになれというがやはり憎らしいのである。この物語は自由に作られた小説ではない、神話である。

若い男が異世界を訪ねて冒険した末に、美女と宝物を得て帰るというのは物語のパタ-ンである。若者が試練を経て一人前になるまでを語る成長物語である。視点は若者の側にあり、相手は鬼のような奴である。途中まではそのパタ-ンであるが、古事記は最後に若い二人を見つめる父親の姿を設定する。娘の相手に対する父親の、複雑な心情を描き出している。

試練を乗り越えなければならないのは若者だけではない、老いていく世代にとっては自分を乗り越えていく次の世代を不愉快に感じることもある。その不愉快さと戦って若者たちに祝福を与えることも務めである。
古事記はこういうことも語っているのである。

大陸から伝わってきた漢字を使って、初めて纏められた古事記という書物において、この様な複雑な心情を描く文学に昇華させたということは驚くべきことである。

 

「コメント」

 

古事記の有名な場面を今更、ありきたりの言葉で今まで通りに解説されても仕方ない。次回からが思いやられる。