科学と人間①植物の不思議なパワ-  甲南大学教授 田中修

150605新種を生む力~ハイブリッド

「生物多様性」

国連は2010年を国際生物多様性年と定め、そして地球上の生物の多様性の大切さと、其の保全を訴えた。次の2011年は国際森林年として、森林の大切さを見直そうと、そして豊かな暮らしは植物の多様性に支えられていると強調した。植物多様性の恩恵は衣食住を支えているし、更には環境を守るという大きな貢献をしている。又多様な薬品が、植物をヒントとして創造され、人類に貢献している。

これらの事は、植物が多様に存在していることの大切さを教えている。

・現在の生物数  175万種(確認されているだけで)  未知のものも含めると、500万~3000万とも言われる。

            毎年 4万種が絶滅している

・現在の植物数   28万(確認済みのみ シダ類+裸子植物+被子植物

 

「地球温暖化と其の影響」

現在大きな問題として大気中のCO2濃度の上昇というのがある。植物は光合成でCO2を吸収してくれる。上昇の程度はどれ位か。

1958年から、ハワイのマウナケア観測所でのデ-タ。315PPM(1958年)→400PPM(2013年)

・植物はどれくらいCO2を吸収しているか。北半球の夏は光合成が盛んでCO2濃度は下がる。冬は上がる。

CO2は0.04%という薄い濃度で地球を覆っているが、これが増えると温室効果ガスとして作用し、地球の温度を上げる。いわゆる温暖化。

 これは気候の変化を引き起こし、農業に大きな影響を与える。農産物はその地域の風土・気候に合わせて品種改良し、栽培方法を

工夫してきた。この為、温度上昇は農業に大打撃を与える。→収量の減少→食糧不足

・温度上昇は気候の変化、特に熱帯化/砂漠化を促進する→台風の増加・雨量の増加/減少

 

「何の役に立っているのか分からない植物まで守らねばならないのか?

・命の繋がり

 長い間人類と一緒に生きてきた植物だから。これがドンドン絶滅していくと、終には人間にも影響していくから。

 自然の中には人間との繋がりがはっきり知られていないものも多いが、例えば次の関係を見れば判り易い。

 蚕と桑、パンダと笹、コアラとユ-カリ、シジミ蝶とカタバミ、ギフチョウとカンアオイ→こういう植物がなくなるとその生物は絶滅する。

・役に立っているかどうかは現在、分かっていないだけで今後解明されていくはず。

・光合成でCO2を減少させ、酸素を増加させている。

・思ってもいない植物が役に立っているという事は、「ハイブリッド」品種の存在で納得される。

 ハイブリッドとは、雑種とか異種のものを組み合わせたもの Ex、ハイブリッド車

 

「植物のハイブリッド」

ある品種或いはある系統と全然別の品種を交配して、新品種を作る。この時、その子供は親からは想像も出来ない素晴らしい特性が発現してくることがある。これはヘテロシス(雑種強勢)と言われる

Ex

・トウモロコシ 収量が大幅に増加した新種の誕生 ハイブリッドコ-ン。1933年に作られ、収量は3倍になった。

 トマト・キュウリ・メロン・スイカ・ハクサイ・キャベツ・・・

・ハイブリッド品種の特徴 収量の増加・美味・成長が早い・病虫害に強い。又交配してみないとどんな性質が出るか分からない点にある。

この為、企業は次から次へとテストを繰り返し、利用できるハイブリッド品種を作り出している。そしてこの品種は、その企業の独占となる。

・但しこの特性が発現するのは、一代限り。次の世代になると、その特性は失われる。よって、利用者の農家は、毎年その企業から

 種子や苗を購入しなければならなくなる。現にほとんどの農家は、自分で繁殖させる人は少ない。

・種袋を見ればハイブリッド種は分かる  ハイブリッドあるいは交配と記されている。

・ハイブリッド種はF1と呼ばれることもある。

・ハイブリッド種の作り方 トウモロコシの例  トウモロコシは雄花と雌花の場所が離れている。家庭内別居状態。これは作り易い状況。

( 白い粒の品種を作る場合)

1、    一つの畝に黄色の粒の品種 隣りに白の品種を植える

2、    花が咲いたら黄色の雄花を全部取り去る

3、    残るのは白い粒の品種の雄花の花粉のみとなる→白い粒

・稲でハイブリッドを作るのは至難→雄花と雌花が近接しているのですぐ自家受粉する。受粉しても一粒の種しかできない。

 しかし中国で雄蕊のない稲を発見して、これでハイブリッドが出来た。中国では栽培され、その内日本でも普及するのでは。

 でも日本では、食味・香り・病虫害に強い等の性質が求められるのでまだ改良が必要。

 

「まとめ」

我々の暮らしは、植物の多様性の上に成り立っている。或る植物が役に立つかどうかと勝手に決めて、絶滅さしてもいいとかいけないという判断をしてはいけない。役に立つかどうかは技術の進歩、人間の要求によって大きく変化してきたし、今後も変化していく。

⇒植物の多様性を保全していくのが我々の責務である。