161002  「阿修羅」   梓澤 要 新人物往来社  2009年刊行

 ・読了 2016928

 ・読書の切っ掛け

  前回読んだ「橘三千代」の続編。奈良時代後半の歴史の小説仕立て。続き物として読む。

  梓澤作品に共通していることだが、史実には忠実、その展開にはいささか疑問は残るが。しかし

     この時代の人間関係、雰囲気の理解の為に読むことにする。関係系図を脇にして。

     何せややこしい。

     先ずタイトル「阿修羅」に興味を持ったが、これは全くの期待外れ。奈良麻呂の少年期の顔が、

      興福寺西金堂の八部衆の阿修羅のモデルとなったという事から付けられている。これを作った

      のは、奈良麻呂の幼馴染の仏師とされる。いわばタイトルにつられて詠んだともいえる。

・あらすじ

  主人公は、敏達天皇のひ孫・美努王と橘三千代の子・葛城王(橘 諸兄)とその子・橘 奈良麻呂。

  橘三千代の死去から始まり、聖武朝での橘諸兄と藤原一門との争いが最終的にはその子

    ・橘 奈良麻呂の謀反の失敗で終わる。橘父子は、藤原不比等の長男武智麻呂の子、

     藤原仲麻呂と光明皇后(橘三千代と藤原不比等の娘)の連合軍との勢力争いに敗れるのである。

     皇族方と藤原一門との戦いである。これで藤原氏の天下は確立していく。

次は聖武天皇・光明皇后の娘孝謙女帝が様々な事件の中で権力を持っていく。藤原仲麻呂の乱

 ・道鏡・・・。

 〇奈良麻呂の出生の秘密

   当時忌避されていた同母兄妹の子として誕生した奈良麻呂。この忌まわしい秘密を知って懊悩

      する少年奈良麻呂。

 〇長屋王の変

  藤原四兄弟(武智麻呂・房前(ふささき)宇合(うまかい)・麻呂)は、政敵・長屋王一族(天武天皇の孫で有力な皇位

     継承権を持つ)を讒言によって滅亡させる。

 〇藤原四兄弟の死   天然痘によって相次ぎ死亡→政権の空白→橘父子の登場

   これによって、葛城王(橘 諸兄)が、遣唐使帰りの吉備真備・僧玄昉をスタッフとして政界に登場

      する。皇族の台頭を恐れる藤原四兄弟の子供たちと光明皇后連合軍との勢力争いが始まる。

      聖武天皇はその連合軍に操られているだけであった。

 〇橘 諸兄の失脚   藤原仲麻呂の策略。

 〇橘 奈良麻呂謀反の発覚と刑死

   内通により発覚、謀反失敗。この仲間には、皇族・旧勢力の氏族が多く、大友家持を氏の長者と

      する大友氏もいた。

 

「コメント」

乙巳の変に始まる藤原氏の登場。二代目傑物不比等・県犬養三千代(橘三千代)夫婦が、娘を後宮に入れることで天皇家に浸透していく。娘の宮子(文武夫人)、光明子(聖武夫人)。これに反発する勢力との争いが、奈良時代後半の歴史である。

今までは、新興の藤原氏と旧来の天皇を中心とする皇族、豪族との争いとされ理解していたが、この作品では、橘奈良麻呂出生の秘密にまつわる橘父子の苦悩からとしている。前作でも感じたが、史実は正しいがその原因、展開はまさに小説。

それにしても、この後の孝謙女帝。藤原仲麻呂の乱・藤原一門の陰険極まりない政争などと続いて行く。