詩歌を楽しむ「サイモンとガ-ファンクルの歌を楽しむ」

上智大学教授 飯野 友幸

 

    131018 「夢の中の世界」(Dangling Conversation)とアメリカ19世紀の詩

アメリカ独立1776年、そこから国家としてのidentityを確立する事が急務となった。文化の面でもアメリカ独自の物を意識的に作り出そうとした。文学でも例外ではなかった。詩に関して言えば19世紀の半ばまで、つまり独立後100年経っても

 

イギリス文学の影響から抜け出せないままであった。ブライアント、ロングフェロ-といった詩人達は形式の上でもイギリスのロマン派の詩人達の模倣でしかなかった。

 

(エドガ- アラン ポ-)  米の詩人・小説家 怪奇的、幻想的な短編小説、推理小説、調べの高い音楽的な詩を作った。19世紀半ばに真の意味でAmerican Originalとも言うべきエドガ- アラン ポ-が様々な面で独創的な作品を発表した。

 

ボ-ドレ-ル、マラルメといったフランスの詩人に絶賛された。ポーはフランス象徴派の詩を先取りしていた事が分かる。

 

ポ-の詩は要するに教訓的でメッセ-ジ性のある詩ではなくて言葉だけが一人歩きして自律している詩である。

これは純粋詩の原型のような詩。言い換えれば19世紀を飛び越えて20世紀の詩人になったようなものである。

 

(独創的な作家の出現)

ポ-が先鞭をつけたので独創的な作家が現れる。小説「緋文字」のナサニエル ホ-ソン、「白鯨」のハ-マン メルベルエッセイではソロ-。こういった作家たちが19世紀後半にアメリカ独自の作品を次々と出していく。アメリカ ルネッサンスと言われる。

 

(エミリ- ディキンソン・フロスト)

現代的で優れた詩を書いたのが女性詩人エミリー ディキンソン。自然と生活、あるいは神について孤独の中に詩を紡いだ。そのほか、ヨ-ロッパにわたって活躍した人々、国内で前衛的な詩を書いた人々。19世紀と20世紀の詩人の橋渡しをしたのがロバ-ト フロスト(詩人)。

 

フロストの特徴

・詩の伝統的な形式を頑固に守り、つまり韻律を必ず使い、内容も自然を歌い上げるという所などと19世紀な要素を強く残すものの、使う言語は口語を使うなど現代的である。また一見わかりやすいがよく読むととても曖昧で内容が難解であるところも現代的。

・John F Kennedyの就任式で詩を朗読して「国民詩人」の名を不動にした。

 

 「夢の中の世界」(Dangling Conversation)の訳

まるで水彩の静物画のような  暮れかかった午後の時間 

カーテンが風に揺らいで、 淡い光が 床の上を波のように掃いている

 

僕らは座ってコーヒーを喫む 冷え切った思いにつつまれて
まるで、砂浜に眠る貝のように 波のうねりだけが心に響く・・
宙ぶらりんな会話・・  儚いため息・・  二人の暮らしの終着

 

君はEmily Dickinsonの詩を読み 僕はRobert Frostを読む・・・
そして、僕らはそれぞれのしおりを挟みこむ 失った愛のページの厚みがわかる

 

出来損ないの詩のように 僕らは躍動のない韻文・・
韻の繋がらない2行の言葉・・  失われた愛の記憶・・

 

そう、もう僕らは、はっきりと口に出して  言わなければならない時なんだ
「どうしてこうなったなんて、分析に意味があるの?」 「二人の恋愛劇は本当に終わってしまったの?」

 

部屋の景色は、そっと色褪せていき  僕は君の影にキスをする
君の手のぬくもりは感じれらず    まるで、もう行きずりの女みたいだ

 

宙ぶらりんな会話の中で  いつしか色褪せてしまった僕らの愛
儚いため息・・   二人の愛の終着が、もうそこに見える・・・

 

詩の解釈

・この曲はコミュニケ-ションの不在を扱っている。恋人の間で意思疎通ができないのである。「夢の中の世界」が邦題であるが正しく直訳すると「宙ぶらりんの会話」

analysis(精神分析)  theater(恋愛劇)といういかにもNYの中流階級が格好つけて会話する内容で、まさに上っ面の会話を表している。また夫々に違う作家の詩を読んでいるのも二人の関係のズレを表している。

・ティキンソンと、フロストの影響が強い。⇒この後の詩にも随所に二人の詩が引用されている。

・二人の今の関係を「出来損ないの詩」で表している。 

 

(ボ-ドレ-ル) 仏の詩人 象徴派の先駆。芸術至上主義、退廃主義の代表者。詩集「悪の華」は近代史の聖典。

 

(ディキンソン)米の女性詩人。独身で、愛・宗教・自然を主題とする短詩を書いた。新詩運動の先駆。

 

(ロバ-ト フロスト)米の詩人。自然と生活を写実的、象徴的に描き、国民詩人の地位に就く。