詩歌を楽しむ「サイモンとガ-ファンクルの歌を楽しむ」上智大学教授 飯野 友幸

 

    131025 「リチャ-ド・コ-リ-」とアメリカ詩人、E・A・ロビンソン

前回は19世紀から20世紀にかけてアメリカの詩の流れを話した。その時名前を挙げなかった詩人がいる、E・A・ロビンソン。マイナ-な扱いを受けているが、なかなか。サイモンは「リチャ-ド・コ-リ-」という詩を土台にして歌を作った。

この歌はSound  of  Silenceに入っている。有名な作品ではないが忘れられない印象を残している。

(歌詞)

町の連中は言っている リチャード・コ-リーは町の半分を所有していると
財産を拡げるため政治と結びつき 上流社会に生まれ 銀行家の一人息子として育った
彼は人が欲しているもの全てを持っていた    権力も優雅さも
品のいいスタイルも   だけど僕は彼の工場で働いている
僕は自分の人生を呪っている   僕はこの貧困を呪っている
ああ、僕がなれたらなー ああ、僕がなれたらなー  リチャード・コ-リーになれたらなー

彼は思いのまま慈善をほどこし  誰にも同情心を示した
人びとは彼の援助をありがたく思い  彼に深く感謝した
だから夕刊の見出しを見た時の  僕の心は驚きでいっぱいだった
"
リチャード・コリー頭を撃ち抜く!! 昨夜帰宅後ピストルで自殺
"

 

(抒情詩)Lyric

・最後の所で今までのどんでん返し。これは抒情詩で歌手、語り手の内面を語っている。日本では抒情詩というと漠然として美しい詩というイメ-ジがあるが、欧米では違う。たとえば自然に接しているうちに思考を展開したり感情を吐露したりして、ある認識に達しまた自然に戻っていく形がある。つまり思考と感情をああでもないこうでもないと語ることが大事。

Refrainで羨望と嫉妬が印象深くしている。これで幸福な人間と不幸な人間がくっきりと対比されている。これは小説や戯曲で見られる技法。アガサ・クリスティ-の推理小説で用いられる。

・名士の突然の自殺ということでAppearanceReality(外見と真実)とは違うことも印象的。

 

(アメリカの社会)

・アメリカという国は無数のsmall townからなっている。NYとかLAとかは全くの例外。そして狭い世間で生きている、これは日本の田舎にもあること。(Everybody  Knows  everybody else) 

・交通違反をしたら新聞に出る→リチャ-ド・コ-リ-はこんな町に住んでいる。

 

1950年代のアメリカ)→後半は鬱屈した重たい雰囲気

・前半は第二次大戦後の空前の繁栄。 大量消費、スーパ-マ-ケットに代表される。知識層は郊外族(Suburbian)に住む

・朝鮮戦争勃発→冷戦   マッカ-シ-の赤狩り

・公民権運動の高まり  アラバマのバスボイコット

 

こういう背景で次の歌  「Peculiar Man」(とても変わった人)を発表
(訳)  たった一人で住んでいた、家の中に、部屋の中に、自分の中に。とても変わった人。名前でも呼ばれないで
Peculiar Man」(とても変わった人)とよばれる人。或る土曜日、窓に目張りしてガス自殺。皆がいう「彼が死んだのは残念だけど、とても変わった人じゃなかった?」

 

この二つの歌ともに、死に至る孤独な男の物語なのである。