詩歌を楽しむ「サイモンとガ-ファンクルの歌を楽しむ」上智大学教授 飯野 友幸

 

   131219 「ボクサー」と成長の物語

「成長物語」の由来

・映画監督のジョ-ジ ル-カスは比較神話学者ジョセフ キャンベルの「英雄伝説」を読んで「スタ- ウォーズ」を作った。

昔からある物語バタ-ンならば、誰の心にも訴えかけるので受けるに違いないと確信して。

・その物語の一つに「成長の物語」がある。文学においてはドイツ語による「ビルクンツス ロマ-ン」というジャンルがこれに当たる。教養長編小説とでもいうところである。短く「教養小説」としよう。

これは要するに成長物語である。元はゲ-テの「ウイリヘルム マイスタ-」の修業時代に由来する。うぶな子供が経験を積んで大人になっていくという物語である。

これは誰しもが経験することであるので共感を呼びやすく、成功することが多い。S&G「ボクサ-」も短い歌の中にこんな内容を盛り込んでいる。

 

「歌詞」 要約

俺が家を捨てて、故郷を離れたのは、まだほんのガキの頃さ そりゃ、ひどい暮らしだった 

ボロをまとった人達が、集まる貧しい街の中で、「いつかここを出てってやる!」って、そればかり考えてたんだ

職を探し回ったけど どこからもお呼びはかからずさ・・

声をかけてくれんのは娼婦だけだよ・・悲しくて、寂しかったから、その温もりにすがった事もあったよ、アハハ・・・

俺の周りで時間はどんどん流れていく  ずっと変わる事無く季節を刻んでいく

こんなコートを脱ぎ捨てて、故郷に帰りたいよ

ニューヨークの冬は、寒くて寂しくて耐えられないよここには、俺なんか居ちゃいけねえってさ・・

そう言うと彼は、寂れた拳闘場のリングに上ったその日の暮らしのために
彼を叩きのめそうとする、敵のグローブをじっと見つめながら、

自分への苛立ちと、恥辱のなかで彼は叫ぶ 「もういやだ、もうたくさんだ!」

でも、彼の殴り合いの日々が終わることはない・・

 

S&G」との関連

・主人公はNYに出てくるが苦労の連続。屈辱に耐えながら、故郷に帰らず留まっている。これはサイモンの自分の経験と同じ。S&Gが世に出るにつれて称賛だけでなく、批判が次第に大きくなる。

・最後の歌詞で自分の事を比喩としてボクサ-という。打ちのめされても立ち上がる人間そのものを表す。「明日に架ける橋」の橋のイメ-ジ効果と同じ。

・言葉と音楽の整合性がうまくマッチしている。最初は弱気でスタ-トするが打ちのめされても立ち上がる経緯と音楽が効果を上げている。

・特に印象的なのは、ライラライというスキャット。実は最後まで当てはまる歌詞がなく、苦し紛れの一策とか。

・サイモンのどこか少年っぽい声は、この歌詞によくマッチしている。

 

「感想」

・訳詩を読んで歌を聴くと、雰囲気がよく伝わってくる。

・色々な楽器を使う効果。

・アリスの「チャンピオン」はこのボクサ-の完全コピ-だと今頃気が付いた。