詩歌を楽しむ「あるがまま」の俳人  一茶   二松学舎大学教授 矢羽 勝幸

 

    130517  世に住めばむりにとかすや~ 「七番日記」

「父の終焉日記」「おらが春」と共に「七番日記」は一茶の代表作。1810年(48歳)から1818年(56歳)までの日記である。

江戸在住後半から信州定住までの円熟した境地を述べている。帰郷し結婚して子供ができる。代表作が多。

 

(田の雁や里の人数はけふもへる)

信州では収穫が終わると男は江戸に出稼ぎに出て村人は減る。これは(ムクドリ)(オシナ)(シナノモノ)と蔑視された。このことを、川柳では(シナノモノ 三杯目から噛んで食い) 出稼ぎは肉体労働なので腹が減るので。

 

(有明や浅間の霧が膳を這ふ)

軽井沢での句。爽やかな高原の描写、朝の山霧の特徴を上手く詠んでいる。

 

(亡き母や海見る度に見る度に)

3歳の時に母死去、継母にいじめられる。生涯 マザコン一茶であった。海を見る度に母を思い出す。でも信州には海はないのに?

 

(直ぐなるも曲がりも同じ炭火かな)

真っ直ぐなのも、曲がったのも炭火になれば一緒じゃないか。出身や身分で差別された一茶だから詠んだ歌。皆、一緒じゃないか、平等じゃないかと言っている。

 

(うまそうな雪やふうわりふうわりと)

子どもの心で歌っている。でも芭蕉の弟子の句(水さっと鳥はふわふわふんわふわ)に同じ。

(世に住めば無理に溶かすや角の雪)

自然にしておくのが一番いいのになあ、世の中は仕方ない。

 

(猫の子のちよつと押へる木の葉かな)

動物好きな一茶の代表作。猫、鹿、犬の順で作品は多い。

 

(木曽山へ流れ込みけり天の川)

黒々とした常緑樹に天の川がかかっている。静寂を詠んでいる。芭蕉の句に(荒海や佐渡に横たふ天の川)がありこちらの方がスケ-ルは大きい。しかし静寂感では一茶の方が優れている。

 

(世の中よでかい露から先おつる)

弱きものより強きものが勝つというのを否定。没落するときは強大な物かが早いと言っている。

(遅れ咲きいまの落花に加わらず). 山口誓子 これも同じことを詠んでいる。

(大根引き大根で道を教へけり)

無造作な農民の姿にユ-モアがある。 (ひんむいた大根で道を教えられ)  川柳

 

(秋の雨小さき角力通り けり)

出世しそうにない相撲が歩いている。弱い者へのいたわりがある。

 

(とくかすめとく/\かすめ放ち鳥)   早く逃げろ早く逃げろ放された鳥たちよ

八幡宮で、捕まえた鳥を放す行事。動物を慈しむ一茶らしい句。とくとく→畳語

 

(ふるさとや寄るもさはるも茨の花)  ふるさとは何をやってもつつかれることよ 薔薇の刺だよ

 継母、弟にひどい目にあった恨みつらみを詠んでいる。

 

(目覚しのぼたん芍薬でありしよな)  貴女はめも覚めるほどの美しさで、花に例えるなら牡丹・芍薬だっなあ。

千葉の俳人 織本華嬌の三回忌に詠んだ。

 

「一茶の句の特徴」

・俳句で大事な季節感より心・本音を大事にしている。季語のない句も多い。

・作品は軽妙ユ-モア感が有り、川柳に近い。