詩歌を楽しむ「オノマトペのすてきな関係」     明治大学教授 小野 正弘

 

    130726 「はりはり」「じくじく」の子規、「ツィ-ンツィ-ン」の草田男~俳句その四

 

今日は近代以降の俳句におけるオノマトペを見ていく。近代俳句の始まりは正岡子規。夏目漱石と親交があった。

 文学史上では短歌と俳句の革新運動をやったというのが重要な功績である。

 

俳句という言葉自体、子規によって新しい意味づけがなされた。連歌は5757757577と続けていく。連歌の最初の句を発句というが、発句の575を独立させて芸術の一形式とした。それまでの俳諧と区別する為に俳句といった。

  

「子規の句のオノマトペ」

子規句集2300句の中で51句がオノマトペ。2.3%   

             一茶 7%   芭蕉・蕪村 1% 一茶は圧倒的に多い。

 

はりはりと木の実ふる也檜木笠)                ほろほろと むかご こぼるる 垣根かな)

 

さらさらと竹に音あり夜の雪)           (月の出やはらりはらりと木の葉 散る)

 

菅笠や はらりとかかる柳哉)            (風呂の蓋取るやほつほつ春の雨)

 

(宇治川やほつりほつりと春の雨)          (ほろほろと雨吹きこむや青簾)

 

(涼しさやほたりほたりと松ふぐり)                  (棕櫚の葉のばさりばさりとみぞれけり)

 

(ほろほろと朝雨 こぼす土用かな)                       (堀割の道じくじくと落葉哉)

 

・はりはり ホツホツ ホツリホツリのように同じ語の繰り返しか゜多い。

・同じオノマトペを繰り返し使っている。

・はりはり 乾いた弾むような音  ・ホツリホツリ  途切れ途切れに進む様   ・ホツホツ  物事を少しずつ進める様

・じくじく  溜まった落ち葉から水が染み出している様子をうまく表現している。

 

「夏目漱石の句のオノマトペ」 

・漱石俳句全集 2527句の中で58句がオノマトペ。2.3%。子規と同じ程度。

・万葉集以降和歌、俳諧、漢文にも通じる教養人なのでそれを踏まえた作品が多い。

  俳句も和歌、俳諧に本歌取り?しているものがある。

  

(紅葉散るちりゝちりゝとちゞくれて)                     (石打てばかららんと鳴る氷哉) 

                                高く乾いた音で寒さをよく表す

 

(山鳴るやバクトウトウと秋の風)                       (むつとして口を開かぬ桔梗かな)  

                               桔梗は何処か気難しく孤高

 

(曼珠沙華あつけらかんと道の端)                     (さらさらと護謨の合羽に秋の雨)

 

(ゆきはれたりたけばさばさととびかえる)               (ばつさりと後架の上の一葉かな)                       

                                後架とはトイレの事。

 

(犬去ってむつくと起る蒲公英) 耐え忍んでいたものの解放感が出ている                         

 (ひいと鳴て岩を下るや鹿の尻)  芭蕉の句を下敷きに。

 

(さらさらと栗の落葉や鵙の声)                        (豆腐焼く串にはらはら時雨かな)

 

 

「中村草田男の句のオノマトペ」

俳人 ホトトギス同人を経て「万緑」主宰。人の内面心理を詠むことを追求し人間探求派と称せられた。

 

代表作 降る雪や明治は遠くなりにけり  長く成蹊大学教授

 

工夫されたオノマトペを使っている。

 

(すつくと狐すつくと狐日に並ぶ)

 

(寒のあけツイーンツイーンと子の寝息)  

     寒さで少し鼻をやられて金属的な鼻音となっている。

 

(チンチク・チンチク伊予国松山秋落日)

 

著名な作者たちは、決して多用はしないが工夫されたオノマトペを効果的に使っている。