詩歌を楽しむ「万葉集の歩き方」              慶応大学教授 藤原 茂樹

 

 

   140117 歌の人びと~名も無き人まで

巻頭をかざる21代雄略天皇(5世紀後半)の歌のように、天皇から一般の庶民まで多彩な人々の歌が網羅されている。

 

皇族の中にも、有馬皇子(36代孝徳天皇の皇子)、大津皇子(40代天武天皇の皇子)の悲しい歌があることは皆が知っている。臣籍降下した橘諸兄(30代敏達天皇の皇子、母は縣犬飼美千代。藤原仲麻呂との政争に敗れる)などの官位の分かる旧皇族、貴族の大伴旅人、家持、山上憶良。官位不明、伝未詳の柿本人麻呂、武市黒人、山部赤人、高橋虫麻呂などもいる。官位、伝未詳の歌人達が万葉集の中核をなす歌人達である。

  

女性では皇族以外で官位がはっきりしているのは縣犬飼命婦位しかない。(美努王の妻、橘諸兄の母、後藤原不比等の後妻となり光明皇后を生む) 女性は人生のある時期、光が射してその後は闇に消えていく。

 

万葉集作者の構成

男  大伴家持    479首         女   坂上郎女    84首 

    柿本人麻呂   84               笠 郎女     29

    大伴旅人     78               狭野茅上娘子  23 

       山上憶良    76               (さののちがみのおとめ)

    山部赤人     49               額田王        12

 

作者が分かるもの       2080首

不明                2000  ⇒ 万葉集には無名の歌人の歌が圧倒的に多い。 

歌集よりの引用          430

 

・身分の低い女奴隷の歌もある。

飯食めど うまくもあらず 行き行けど 安くもあらず あかねさす 君が心し 忘れかねつも

(食事をしていても寝ていても思うはあなたの事ばかりさみしくてしょうが無いわ。)    

 後日談として、奴隷の主人がこの心を哀れに思い一緒にしてやったとか。

 

・明るい空の下、女を誘惑している男の歌。

   この川に朝菜洗ふ子汝れも我れもよちをぞ持てるいで子給りに

  (この川でせっせと菜洗いしている女の方、あなたも私も同じ年の子供を持っていますね。
 どうです、あなたの子供を私に下さいませんか?結婚しませんか?”)
 

  

・万葉の歌の価値は歌の意図を求めるばかりではなく歌われたものや人・動きの中から見出される心の有様の中にある。

 

 

まとめ

万葉集に姿を見せる人々は上は天皇から、庶民、奴隷、乞食まで実に多様で変化に富んでいる。