201219和泉式部日記⑥「女の噂と女の真実」

女が恋多き女と世間の人々からだけではなく、愛する宮様からも誤解されて苦しむ場面を読む。人間は自分自身に抱いているセルフイメ-ジがある。他人が自分に対して持っているイメ-ジとは違っている。しかも真実の自分というものは、その二つとも違う。人生は真実の自分を発見するプロセスなのかも知れない。今回は宮様が、女を訪ねた夜に男性用の牛車を目撃してしまい、女を疑う場面を読む。

「朗読1」宮はむ訪問したが、男車があったので、女に男が来ていると思い込んで帰ってしまう。文で多情な女を責める。

またの夜おはしましたりれるも、こなたには聞かず。人々方々住む所なりければ、そなたに来たりける人の車を、「車はべり。人の来たりけるにこそ」とおぼしめす。むつかしけれど、さすがに絶えはてむとおぼさざりければ、御文つかはす。「昨夜は参り来たりとは、聞きたまひけむや。それもえ知りたまはざりにやと思ふにこそ、いといみじけれ」とて、

 松山に波高しとは見てしかど今日の眺めはただならぬかな とあり。雨降るほどなり。

「現代語訳」

次の夜、宮は女の所にお出でになったけれど、この事を女は知らなかった。家の誰かの所に来た車を、宮は御覧になって、「あっ、車がある。誰か来ているのだ。」と思った。不愉快だけど、女と別れようとは思わず、女に手紙を出す。

「昨夜、私が訪問したことをお聞きになりましたか。それさえもご存じないと思うと悲しい気分です。」といって

「松山→多情な人の意  恋多き方とは思っていたが、まさにそうであったのですね。」

・「「君をおきてあだし心をわが持たば末の松山波も越えなむ」

 →君をほったらかして浮気をするようなことがあれば、あの高い松を波が越えると時です。→絶対に有り得ません。

 

「朗読2」女には身に覚えのない事なので、訳が分からなかった。弁解はせず、今後恨みの残る事にはしたくないと返事。

「あやしかりけることかな。人のそらごとを聞こえたりけるにや」と思ひて

「君をこそ末の松とは聞きわたれひとしなみにはたれか越ゆべき」

と聞こえつ。宮は、一夜のことをなま心憂くおぼされて、久しくのたまはせで、かくぞ、

「つらしともまた恋しともさまざまに思ふことこそひまなかりけれ」

御返りは聞こゆ壁ことにはあらねど、わざとおぼしめさむも恥づかしうて、

「あふことはとまれかうまれ嘆かじをうらみ絶えせぬ仲となりせば」

とぞ聞こえさする。

「現代語訳」

宮の文の内容は、訳が分からない。誰かが作り話でもしたのかな、と思って、

「宮様こそ浮気な方と聞いています。それと同じに私を想わないで下さい。」と返事をした。宮様はこれらのことを辛く思って、暫らく手紙も出さなかったが、次のような返事が来た。

「恨みがましくも、恋しいとも思って、心の休まる時はありません。」

ご返事には、貴方が心配するようなことはありませんと書きたいが、言い訳がましくなるのも憚られ、

「今後二人の仲がどうなろうと仕方ありませんが、お互い恨みが残る関係にはなりたくありません。」と申し上げた。

 

「朗読3」今度は女の方から、誘いの手紙。これに乗って、宮は女のもとに出掛ける。

かくて、のちもなほ間遠なり。月の明き夜、うち臥して、「うらやましくも」などながめらるれば、宮に聞こゆ。

「月を見て、荒れた家で物思いに耽っていることは、宮様以外の誰に申し上げたらいいのでしょう。どうせお出でにならないでしょうが。」

召使に「宮様のお使いに渡してきてと文を託す。これをお読みになって、「車の支度をせよ」と言って、女の所にお出かけになった。

 

「朗読4」女が月を眺めていると、宮がお出でになった。しかし間が悪いのか中々部屋に上がらず、庭をうろうろする。

女は、まだ端に月ながめてゐたるほどに、人の入り来れば、簾うちおろしてゐたれば、例の旅毎に目馴れてもあらぬ御姿にて、御直衣などのいたうなえたるしを、をかしう見ゆ。もののたまはで、ただ御扇に文を置きて、「御使の取らで参りにければ」とて、さし出でさせたまへり。女、もの聞こえむにもほど遠くて便なければ、扇ほさし出でて取りつ。宮も上りなむとおぼしたり。

「現代語訳」

女が月を眺めていると、誰かが入ってきたので、簾を下ろして座っていると、目新しい宮の姿が見えた。何も言わないで、返事の文を置く。お話をしようにも間が離れているので、まず文を受け取った。

 

「途中経過」

そして、「今日は誰が来ているか見に来たので、これで帰る」という。何とか引き留めようと、女は歌を作る。宮は気を替えて、部屋に上がられた。そして、文には「月を眺めて私のことを物思いに耽っているとあったので、本当かと見に来ました」とあった。女は、宮様はやはり素晴らしい。私のことを素行の悪い女との評判を何とか見直して欲しいものだ」

宮も女の事は満更でもなく、つれづれのお相手にと思ってたのに、女房達が、例の女の所には、誰それが行っているとか噂話をする。これを聞いた宮は、女が軽薄に思われて、文も書かなくなったのだ。。

 

「朗読5」宮様の召使が来て、宮様は女の所に、別の男が通っていると思い込んでいると告げる。

小舎人童来たり。樋洗童例も語らへば、ものなど言ひて、「御文やある」と言へば、「さもあらず。一夜おはしましたりしに、御門に車のありしを御覧じて、御消息もなきにこそはあめれ。人おはしまし通ふようにこそ聞こしめしげなれ」など言ひて云ぬ。

「現代語訳」

宮様が使っている童が来たので、「宮様からの文は無いの」と聞くと、「ありません。先日、宮様がお出での時に、別の男の車があったのを御覧になったので、それでお便りもなくなったのでしょう。誰か通っている男の人が居ると宮様の耳に入っているようです。」などと言って帰っていった。

 

「途中経過

私は身持ちを疑われてしまった。嫌になって嘆いていると、宮から手紙が来る。「病気で気分も良くありませんでした。もういいのです。どうせあなたは、磯から漕ぎ出でていく舟のように、私から離れていくのですから。」とある。宮は、やはり私に関する悪い噂をお聞きになっているのだ。気が引けたけれども返事をした。

「宮に見離されて、悲しみの涙を流す身です。まるで行方定めぬ舟の様です」

 

「コメント」

 

何かどっちもどっちか。これで夏の恋は終わって、秋の恋となる。少し飽きてきた。物語にするネタではないな。